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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
3.闇ギルド、壊滅
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虐殺の始まり

意気揚々とトゥリトスの街を進軍する侯爵配下の討伐隊。

でも、それこそが罠だと言う事に侯爵はまだ気づいていない……。

そして……始まった。

 侯爵は先頭に立ち、部下を従えて意気揚々に街の奥へと進んでゆく。

 その姿を見れば、もはや敵の襲来など全く気にしている様子はなかった。

 それは油断以外の何物でもなく、ここが敵地だと言う事なんて全く頭に無いんだろうな。

 そんな矢先に、それは不意に始まった。

 ちょうど侯爵の隊が街の中央広場を通り過ぎようとした時だった。


「ぎゃあっ!」


「な……こいつどこから……がふっ!」


「て……敵だっ! 斬れっ! 斬れぇ―――っ!」


 路地の物陰から突然現れた影が長い隊列となった部隊の中央に飛び込み、瞬く間に2人の戦士の喉笛を掻き切ったんだ!

 一瞬で混乱を来したみたいだったけど、そこは少なからず戦いの経験がある冒険者たち。被害を最小限に抑えて暗殺者を仕留める事に成功していた。


「何事だぁっ!」


 先頭では侯爵が、すぐ後ろで起こった異変に苛立ちを滲ませて叫んでいた。

 長い戦隊では、後方の様子をすぐに伺い知る事が出来ないんだ。

 足を止めて立ち往生となっている部隊を追い抜き、俺とカミーラと男爵、グローイヤとヨウは出来るだけ前に進んだ。


「わ……分かりません! ですが……敵襲かと!」


「敵ぃっ!? 敵だとぉっ!? 何処に敵がいるのだぁっ!?」


 まだ1人しか現れておらず、それも既に仕留められている。後続も現れないこの状況で敵と言われても、すぐに納得出来ないんだろうな。


「まだ詳しい事は……」


「ええぇいっ! お前、すぐに調べてまいれっ!」


 苛立ちを隠そうともしない侯爵が、目の前の部下にそう命じたその直後だった!


「あぶないっ!」


 俺の眼の端に、侯爵の騎士団の中央へと飛び込んだ影が映ったんだ!

 それと殆ど同時に。


「なん……ぐわぁっ!」


「この……ぎゃあっ!」


「ここにも賊が現れたぞぉっ! 侯爵をお守りしろぉっ!」


 再び出現した暗殺者は、今度は侯爵の騎士団を襲い瞬時に2人を殺傷した! その手際の良さは、正に暗殺を生業としている事を感じさせるものだった。

 それでもその暗殺者を、騎士団は何とか斬り伏せることに成功していた。でも、混乱は他の隊の比じゃあない!


「男爵! カミーラ! グローイヤ! ヨウ! 恐らく、一気に来るぞ!」


 2度の襲撃で、この辺りに伏兵がいる事はこちらに知られていると分かっているだろう。

 それならば次は、各所で一斉に襲い掛かるって方法しか残されていない。


「……承知!」


「あいよ……って、来たなっ!」


「おおっとっ! やらせるかっての!」


 俺の言葉に応答する間もなく、近くの木箱に潜んでいた人影が多数飛び出し、侵攻部隊へと攻撃を開始したんだ! その内の1つが俺たちの方へと襲い掛かって来た!

 こいつの不運だったのは、その相手が……ヨウだった事だろう。

 突き出されたナイフ攻撃に併せて、ヨウが拳を繰り出した!

 暗殺者の刺突攻撃を頭を傾けて躱し、ヨウはその鉄拳を相手の顔面にめり込ませたんだ!


「ぬああぁぁっ!」


 そして大きく踏み込み相手の足を掛け押し倒しながら、殴ったまま頭を石畳に叩きつけた!

 一連の流れる様な攻撃に相手は成す術もなく、ビクリと身体を震わせたと思ったら……そのまま動かなくなった。

 レベルの制限下にある街中では、俺たちはただの少年少女だ。

 勿論鍛えてはいるが、それでも成人男性には及ばないだろうか。

 そんな場所では、相手の力を利用してより強力な攻撃を仕掛ける事が求められる。

 その点、ヨウはその手の武術に長けているんだろう。見事な逆撃攻撃だった。


 ヨウの強撃によって、暗殺者は絶命した。それは、改めて確認するまでもない事だ。

 それを当事者のヨウは勿論、グローイヤも気にしちゃあいない。

 この辺りは心強いと思う反面……すでにこいつ等は〝体験済み〟だったんだと思わされた。

 前世じゃあ俺も含めて(・・・・・)、グローイヤもヨウ・ムージだって人に手を掛けた事なんて一度や二度じゃあない。

 でも、今の俺たちはまだ15歳前後だ。そういう事(・・・・・)に耐性がなくたっておかしくない。

 それなのにこの2人は、ピクリとも動かない人を眼前にしても動揺しないんだから……末恐ろしいと言うかなんと言うか。


 そんな中で驚きなのは、カミーラが平静さを失っていない事だった。

 幼少から東国で「侍」としての教育も受けて来たんだろうが、実際の人死を目の当たりにしても(おのの)かないのは嬉しい誤算(・・・・・)って奴だな。


「男爵、混戦になります! 気を付けて!」


「お……おう!」


 一瞬の攻防に惚けていた男爵へと声を掛け、俺も周囲に目を向けた。

 あちこちで怒声が沸き起こっているが、数自体はそう多くないみたいだ。これなら、すぐに混乱は収まるだろう。


「お……お前たちぃっ! わ……私を守れぇっ!」


 先頭の侯爵の元へは、3人の暗殺者が殆ど同時に襲い掛かっていた。

 でもやはり、多勢に無勢。8人の騎士団員が命を落とすなり戦闘不能に陥っていたが、何とか賊は片付けられたみたいだった。

 それでも侯爵は余程肝を潰したんだろうな。兎に角安全を確保しようと躍起になっていた。

 でも、これは前哨戦に他ならない。


「……アレク!」


「……来る!」


 異変を察したカミーラが声を出し俺がそう言い放ったと同時に、周囲の建物の壁や屋根が吹き飛びそこから多くの魔物が出現したんだ!


「おいおい、聞いてないぞっ! 何だよ、ありゃあ!」


「巨大な……熊の魔物!?」


 現れた怪物どもの姿を見てヨウが思わず毒づき、カミーラは驚き絶句している。

 そりゃあ、そうだろうなぁ。まさか「黒犬(ヘルハウンド)」の他に、巨大なクマの魔物「赤熊(ロホロウルスス)」まで現れるなんて俺だって思いも依らなかったんだ。

 ……でも、1つ気になる事(・・・・・)が出来たな。

 ともかく今は、この場からの撤退準備を始めるのが先決だ。


「男爵っ! あなたは早々に後方へと退いて、後衛部隊の護衛と、場合によっては撤退を指揮してください!」


 俺は唖然としている男爵に、怒鳴るように声を掛けたんだ!

 ここで一瞬でも惚けていたら、出現した魔物にやられちまう。

 それにまだ隠れている暗殺者が、この混乱に乗じて再び襲って来るかも知れない。


「し……しかし、こ……侯爵が……」


 それでもオネット男爵は、貴族としては模範的な回答をした。

 つまり上級貴族の身を案じて、彼を置いて逃げ出せない……と言っているんだ。

 でも、それはもう無用な心配(・・・・・)でしかない。


「男爵、よく見てください! あそこに、侯爵の姿は確認出来ますか!?」


 俺は剣で先頭を指して、男爵に詰問した。

 震える眼で、男爵は俺の剣の切っ先が差す方向へと視線を向ける。

 そこには。

 複数の魔獣が暴れまわり、侯爵の私兵が多数食い殺されている光景が繰り広げられていた。

 そこに、馬に跨り指揮を執る侯爵の姿なんてない。


「……分かった」


 それでようやく、男爵は今の状況とすべき事を理解したみたいだった。

 侯爵が二度と指示を(・・・・・・)出せない状態(・・・・・・)となった今、男爵にはここから無事に逃げ延びる義務がある。

 この状況……事の顛末を、王に伝えなければならないからな。


殿(しんがり)は俺たちで何とかします! お早く!」


 俺が背中を押す言葉を掛けると、男爵は1つ頷きそのまま街の入り口の方へと駆け出して行った。

 本当なら1人で行動させるってのも、今の状況じゃあ危険極まりないんだが。


「アレクッ! 来るぞっ!」


 俺たちも、彼に付きっきりでいられるほど甘い現況には無いからな!


「カミーラッ! グローイヤッ! ヨウッ!」


 そして俺は、腰の袋から複数の薬を取り出して3人に手渡した。


「……有難い」


 それが何だか分かっているカミーラは、にっこりと笑みを浮かべて答えていたけど。


「……何だい、こりゃ?」


「……丸薬か?」


 理解していないグローイヤ達は、首を傾げて訝し気に俺の方を見てそう口にしていた。

 まぁ普通なら、俺たちのレベルや身分でこの薬を使う事はおろか目にする機会も無いからなぁ。


「それは『ボデルの実』と『ドゥロの実』、それから『ベロシダの実』だ! それぞれ攻撃力と防御力、素早さを一定時間上げてくれる! ここぞって時に使え!」


 効果としては「小薬」よりも高くはない、でも反動が怖い「小薬」をここで使うよりも、この「実」を使う方が長時間戦う事が出来るからな。


「へぇ……。そんな高価なもんを気前よくくれるなんてね。やっぱあんた、あたいの見込んだ男だよ!」


「助かるぜ、アレク! これで思いっきり戦えるってもんだな!」


 ニンマリと笑顔を見せたグローイヤと喜び勇んでいるヨウだが、今はそんなのんびりしている場合じゃあない。


「それは良いから、これも持って行け! お前たちには、別行動を頼みたい(・・・・・・・・)んだ!」


 そう言って俺は、更にポーションを複数個奴らに手渡した。

 でもそれは、こいつ等の関心を買おうって言う考えからじゃあない。

 さっき頭を過った疑問……。こいつ等にはこの危険な混戦下で、それを調べて貰おうと思っているんだ。


「なんだい? 今なら、多少の事は聞いてやるよ?」


「ああ! 暴れられるなら、無茶でも何でも良いぜぇ!」


 もっとも、こいつ等にはそう言った危ない橋を渡る仕事の方が向いているみたいだけどな。

 だから俺も、遠慮なく頼みをする事にしたんだ。


「恐らく……この街のどこかに高位の『魔物使い(テイマー)』がいる。そいつを……仕留めてくれ」


俺たちに対する虐殺が始まった!

大混戦の最中でも、俺たちは生き残る手段を講じなきゃならない。

そして俺は、この混戦を静める可能性がある手段をグローイヤ達に依頼したんだ!

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