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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
3.闇ギルド、壊滅
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アルサーニ、逋脱

俺たちは闇の街への強硬偵察を実行する為に、シラヌスにだけこの事を打ち明ける事にしたんだ。

 その日の……いや、もう翌日か。

 闇が最も深くなった殆どの者が寝静まる深夜に、俺とヨウ・ムージはアルサーニの街を後にした。


 ヨウに「闇の街トゥリトス」への強硬偵察を打ち明け、彼に協力を仰ぐ事に成功した俺は、そのまま宿に戻って計画内容をシラヌスにだけ告げた。

 マリーシェは論外、サリシュやカミーラも酒が入っていて怪しい。

 グローイヤはまだまだ飲めそうだが彼女には隠密行動など難しいだろうし、それはヨウやシラヌスも同意見だった。


「……ところで、この街にある〝目〟からは、どの様にして逃れるんだ?」


 そしてシラヌスからは、やはりと言おうかこの質問を向けられたんだ。

 これはもう俺も、そしてヨウだって気付いている事だった。

 このアルサーニの街は、トゥリトスの街からは目と鼻の先にある。

 裏の仕事を多く請け負っているだろう「闇のギルド」が、この街での情報収集を欠かすなんて話はあり得ない。

 しかも今は、露骨に騎士の集団や多くの冒険者が終結しているんだ。

 これで何も動きを見せなければ、流石に組織としての在り様を疑っちまうな。


「……ああ。俺の実家は少し裕福でな。少しくらいの高価な物なら、簡単に手に入っちまうんだ」


 俺は自分でも言い訳臭いと思う前置きをした後に、小さな小瓶を2人の目の前へ静かに置いた。


「……なんでぇ、こりゃ?」


「……これは、まさか!?」


 それを見たヨウは訝しげな表情で疑問を口にしたが、対照的にシラヌスは驚きを露わにして絶句していたんだ。

 流石はシラヌスってか? よく勉強しているよ。


「……これは『不可視の粉』って言う、振り掛ければ一定時間姿を消す事が出来るアイテムだ。これを使えば、少なくともこの街を出て暫くの間は誰にも見つから無いだろう」


 そして俺は、このアイテムの説明を口にしたんだ。


「ほぇ―――……。便利なアイテムもあるもんだ」


 それを聞いたヨウは、感心した声を上げて小瓶を手に取り目の高さでユラユラと揺らして見せた。

 そしてシラヌスはと言えば、机に置いたままの小瓶を手に取らず、腰を折って覗き込むように観察している。


 透明化アイテム「不可視の粉」は、それほど希少物(レア)と言うものでもない。もう少し先へ進めば、街の道具屋で買えるだろう。

 いや、もしかすればジャスティアの街の道具屋でも、運が良ければ手に入れることが出来るかも知れない。……もっとも、高額なのはどこで購入しても同じだけどな。

 多分、今の俺たちが1回依頼を熟すよりも遥かに高値だ。

 だからこそ俺たちが普段目にする事は殆ど無いだろうし、もしも見かけても購入を考えはしないだろう。手に入れたとしても、すぐに使うなんて絶対にないな。

 俺も昔はそうだったよ……。

 ……で、結局使う事も無く、この「魔法袋」の肥やしになっちまうんだよなぁ……。


「……しかし、こんな作戦にこれほど高額なアイテムを。しかも、偵察に使うなんて……良いのか?」


 このアイテムの価値を分かっていないヨウは兎も角、シラヌスは神妙な顔で俺に確認して来た。

 確かに、頼まれてもいない自主的な行動で高額な出費が掛ったところで、それは誰にも補填して貰えない……つまりは大損だからな。


「良いの良いの。こんなのは使ってなんぼなんだよ。大事に仕舞ってても、死んじまっちゃあ後の祭りだろ?」


 そして俺はシラヌスに、いつも用意している答えを返したんだ。

 もっともそれは、俺が現在このアイテムだけで数百個所持しているから言える台詞でもあるんだけどな。


「……なるほど。グローイヤの嗅覚も、強ち侮れないと言う訳か」


 そんな俺の言葉を聞いたシラヌスは、ニヤリと笑みを浮かべて独り言ちた。

 と言っても、それは俺にも十分に聞こえる声量だったんだけどな。

 でも……何でここでグローイヤが出てくるんだ?


「……ふふふ。不思議そうな顔をしておるな。お前たちを……いやアレク、お前を執拗に気にしていたのは、誰でもないグローイヤだったんだよ」


「……グローイヤが?」


 俺の顔には余程分かりやすい疑問が滲み出ていたんだろう、シラヌスがしたり顔で俺に説明した。

 それを聞いて、俺はますます訳が分からなくなったんだ。

 俺のどこを見て、何を知って彼女は俺に何を感じたんだろう?

 シラヌスは嗅覚……この場合は金銭の臭いなんだろうが、それを嗅ぎ分けたって話だけど……。

 俺はグローイヤの前で、羽振りの良い姿なんて晒していない。

 それとも、本当にこれは彼女の直感だったんだろうか?


「……まぁ、誉め言葉として受け取っておくよ。……とにかく」


 ただ、今それを真剣に考えても仕方がない。


「これを使って、まずはこの街を出る。気配さえ消してしまえば姿は見えないんだ。よっぽどでも無ければ、この暗闇の中で俺たちを見つける者なんて居ないだろう」


 俺が話を続けると、真剣さを取り戻したシラヌスとヨウは頷いて同意を示した。


「そのままトゥリトスの街へ向かい、可能ならばこの粉を使って街の中へ潜入し、出来る限り内情を探る。戦闘は無しだけど……大丈夫だよな?」


 大まかな計画を再確認がてら話して、最後にヨウへ向けて念を押した。

 ここで最も重要なのは、何よりも「戦わない」事だ。

 隠密任務で姿や存在を晒してしまっては、相手に更なる警戒感を与えてしまうからな。


「だぁいじょうぶだよ! 俺だって、勝てない戦いはしたかぁ無いしな」


 ニッと笑ってヨウはそう答えたんだが……。

 それって、勝てるなら大暴れするってのと同じだぞ?

 一抹の不安を抱えながらも、あまり時間は無い。


「……それじゃあ、行ってくる」


 シラヌスに後の事を任せて、俺とヨウは早々に出発準備を整えると、そのまま夜の闇に文字通り溶け込んだんだ。




 街を出るまでに、そして出てからも暫くの間は、そこかしこから人の気配が感じられた。

 でもそれも一刻(2時間)程歩き続けると無くなり、それと同時に「不可視の粉」の効果も切れたんだ。

 ここからは、出来るだけ目立たないように木々の間を縫って進む事になる。


「いやぁ。本当に見えなくなってるんだなぁ。思わずその辺に潜んでる奴を後ろから絞めてやろうかと思っちまったぜ」


 月明りを頼りに林間を進みながら、ヨウがやや興奮気味に話しかけて来た。

 流石に山道に見張りなんて伏せていないだろうけど、それでもペラペラと話しながら進んで良い状況じゃあない。

 それが分かっているのかどうなのか、ヨウの口は随分と軽くなっているみたいだった。


「……注意が散漫だと、足を取られるぞ?」


 だから俺は、それとなく臭わせる声音で答えたんだけどな……「黙れ」って。


「ああ? 大丈夫大丈夫。俺ってこう見えても、夜目が利く方だから」


 ただこの忠告も、全くヨウには通じなかったみたいだ。

 なまじ腕が立つから信用はしているんだが、こう言った気の緩みってのには注意が必要なんだがなぁ……。


「しかし、まっさかお前と2人で行動する事になるとはなぁ」


 その後もヨウは、1人でベラベラと話を続けた。

 だけど運が良かったのか、道中では誰にも見つからなかった。

 いや……そうじゃないか。

 もしかするとヨウは、広範囲で気配を探る術に長けているのかも知れないな。

 そして安全だったからこそ、こいつは平気で会話を続けたのか。


「……おい、ヨウ。話はここまでにしようぜ」


 だがそれも、どうやら終わりのようだ。

 陽も昇り周囲が明るくなった頃、俺たちの眼下に小さな街が見えた。

 周囲を小高い山々に囲まれて、その街は巧妙に秘匿された隠れ里みたいだ。

 防衛と言う観点では余り褒められた立地じゃあないが、街への出入りを監視すると言う点ではこれ以上ないだろう。逃げ出すのも一苦労しそうだ。


「ここからは、もう一度『不可視の粉』を使って街に接近するぞ。極小まで気配を絞って行動するんだ」


「……おう」


 流石にここに至れば、ヨウの方もお気楽な雰囲気を醸し出す真似はしない。

 真剣な表情になった奴は、小さく頷いて応え返した。


いよいよ、トゥリトスの街への侵入開始だ。

……何事も無く終われば良いんだけどな。

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