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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
3.闇ギルド、壊滅
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初めての別行動

オネット男爵との会議も終え、俺たちは割り当てられた私室へ向かったんだが……。

どうやら、マリーシェたちはまだ納得していないみたいだった。

 俺たちはエラドール侯爵の指揮する「トゥリトスの街殲滅作戦」に参加するため、このジャスティアの街を出発するまで伯爵邸に逗留する事になった。

 作戦に参加すれば伯爵の親衛隊と行動を共にするんだから、これは当然の事だよな。


「なんで私たちがアレクたちと一緒に行けない(・・・・・・・)のよ!」


 その一室。マリーシェたちの寝所として与えられた部屋に、マリーシェの声が響き渡る。それは大きな彼女の独り言って訳ではなく、目の前にいる俺に向けて放たれたものだ。


「そうやそうや……。しかも、カミーラは(・・・・・)同行出来る(・・・・・)って……おかしいやんか」


 普段は物静かで俺の案にはかなり同意してくれるサリシュも、今はマリーシェと共に俺に詰め寄ってきていた。

 可愛い女の子に詰め寄られるのは嫌いじゃあないが、それが怒りの表情ともなれば話は別だな。

 彼女達は、さっきまで開かれていた作戦会議で俺が明示した作戦にかなりご不満みたいだった。

 その理由はまぁ……マリーシェたちの主張そのまんまなんだけどな。


「まぁ待てマリーシェ、サリシュ。ここはアレクの意見も聞き入れるべきではないのか?」


 ここでカミーラが、俺とマリーシェたちの間に割って入ってくれたんだが。


「何よ、カミーラ! あんたはアレクと一緒に行けるから良いかも知れないけど、私たちは戦いの場でも何でもない所なのよ!?」


「……そうや。……まさかアレクに信じられてないなんて、思わんかったわ」


 どうやら矛先が変わっただけで、火に油って感じだった。これにはカミーラも困り顔を俺に向けるしかない。

 もっとも、カミーラだって何故自分だけ俺と一緒に行動を許されたのか良く分かっていない。

 だから強く彼女達に言い返せないし、もしかしたら心情としてはマリーシェたちと同様かも知れないな。

 因みに、バーバラとセリルはこのやり取りを静観していた。

 彼女達の技量もレベルも、今のマリーシェやカミーラには大きく劣る以上、文句を言う立場にないと理解しているんだろう。


「まぁ待てよ、マリーシェ、サリシュ。何がそんなに気に食わないんだ?」


 カミーラの介入を機にマリーシェたちからの圧が下がったタイミングで、俺はマリーシェたちに落ち着くよう促したんだ。

 感情的じゃあ、まともな話し合いなんて出来ないからな。


「だから、さっきから言ってるでしょ! 何でカミーラだけアレクと一緒に街の中へ向かえて(・・・・・・・・)、私たちは街の周囲に設置してる女神像の破壊工作なのよ!」


「そうそう……。女神像の破壊なんて誰でも出来るやん。……そんなん、男爵の手勢に任せとけばええねん」


 どうやらマリーシェとサリシュは、俺が部隊を手分けする際の配置に不満があるようだった。

 確かに俺は男爵とその部下と共に、突入したエラドール侯爵率いる兵たちの後について街中へ向かう事になっている。

 後詰なんだから、前衛が打ち漏らした敵を掃討する必要があるからな。

 そしてマリーシェたちには、恐らくは街の周囲に設置されている女神像を破壊してもらう任務に回って貰ったんだ。


「なるほどなぁ……。お前たちは、俺の差配に不満だって言うんだな?」


 女神像の効果が働いているうちは、街中で俺たちは一般人と同等の力しか発揮出来ない。

 多少は町人よりも戦えるだろうけど、それでも圧倒的とはいかないだろう。

 そんな中に、魔獣や野獣を解き放たれちゃあ混乱を来すこと請け合いだ。

 野獣や魔獣も強さが抑制されているが、元々の強さが違うからな。苦戦は免れない筈だ。

 そこを背後から襲われたら、それこそ全滅の憂き目に会っちまう。

 男爵の話だとかなり多くの、そしてそこそこのレベルを持つ冒険者が参加するらしい。

 男爵率いる親衛隊もそれなりのレベルを有しているから、レベルさえ解放されれば楽な戦闘になるのは間違いない筈なんだ。

 それには、マリーシェたちの活躍が必須になる。

 だからこそ俺は、その役目をマリーシェたちに任せたつもりだったんだが。


「不満……って程じゃあ無いんだけど……」


「……出来ればウチらも、アレクに同行したいなぁって」


 俺の声のトーンが低い事に気付いたマリーシェとサリシュは、少し冷静になったんだろう。やや落ち着いた声音となってその理由を口にしたんだ。

 慕ってくれるのは有難いんだが、そんな考えで俺と一緒に来たいって言われてもなぁ……。


「女神像の破壊は重要だと話した筈だけどな。それに、女神像周囲にだって護衛の奴らが潜んでいる可能性だって高い。決して、街中だけが戦いの場じゃあ無いんだぞ?」


 だから俺は、出来るだけゆっくりと落ち着いた口調で話し掛けたんだ。

 彼女達の気持ちも分からないではないし嬉しい限りだ。

 でも、いつでも一緒に行動出来るとは限らない。

 これまでは、常に俺たちは共にクエストへと取り組んできた。

 その事が、今回は弱みとなって働いているのかもなぁ。


「だから街中に向かうのが私で、女神像破壊がカミーラでも良いじゃない」


「……そや。ウチが街中に同行してもええんちゃうん?」


 確かに、彼女達の言う事はもっともだ。

 人選で言えば、マリーシェとサリシュを引き連れて男爵と共に街中へ同行しても良いと言える。

 カミーラに任せれば、女神像破壊だってスムーズに行われるかも知れないな。


「……俺がカミーラを引き連れて街中へと向かう事を決めたのには、他にも理由がある」


 でも今回に至っては、カミーラでなければならない根拠もちゃんとあったんだ。

 どこか縋る様な瞳で、マリーシェたちは話の続きを待ち構えている。


「……一つは、彼女の戦闘能力だ。カミーラは東国において、生まれながらに侍だ。そして、幼少の頃より剣術の修行を行ってきた。女神の加護であるレベルの恩恵が受けられない街中であっても、一般人以上に戦えるだろう。『闇のギルド』に所属している奴らは、ジョブの影響がなくても暗殺術や隠密術に長けている。それには、地の強さが必要になって来るんだ」


 この世界の大半の冒険者は、レベルの恩恵を受ける事で強さを手に入れる。

 しかし、その前から修行を行っていた者は意外に少ないだろう。

 勿論、マリーシェとサリシュ、バーバラとセリルも例外じゃあないな。

 俺を除けば、この中で一番強いのは間違いなくカミーラなんだ。

 ……それに。


「それは……分かるけど……」


 この説明だけで、マリーシェたちには反論する余力もないみたいだ。

 だから本当は、これ以上の説明は不要かも知れないんだけどな。


「それに、街の中は多分今までにないほどの混戦が予想されるだろうな。そんな中で、襲って来る『人』を相手に、手加減や躊躇なく攻撃出来るのか?」


 俺がその事を告げると、マリーシェはビクリと体を震わせて固まっちまった。

 サリシュも、どこか神妙な面持ちで息を呑んでいる。

 それだけを見れば、彼女達にもそれが出来るのかどうか分からないのだろう。


「……それじゃあ、カミーラはそれが出来るって事なの?」


 悔し紛れにも聞こえるが、マリーシェが息を呑みながら問い返してきた。

 でもその問いには、俺じゃなく。


「……うむ、恐らくは可能だ。私は幼少より、対人戦闘に重きを置いた修行を行ってきた。アレクの知識には脱帽だが、この選択は誤りではない」


 カミーラが答えてくれたんだ。

 実際俺は前世で東国「神那倭国」へ行ってるんだが、それを知らない彼女達に今言うべき事じゃあ無いからな。

 カミーラがキッパリと断言した事で、マリーシェたちも打つ手がなくなった……と思われたんだが。


「……それやったら、アレクはどないなん? ……そんな経験あるんか?」


 サリシュが、鋭い意見を口にしたんだ。

 実際には経験があるものの、今の俺はマリーシェたちと変わらない年齢だからな。

 とりあえず、経験が無い態で話を進めないとややこしい事になり兼ねない。


「俺に経験があるかどうかじゃあなく、これは男爵の要請でもあるからな。俺はどっちみち、街中へと向かう部隊に同行しなきゃならないんだよ」


 それに今回は、こういう訳で誤魔化す事が出来るんだ。

 さっきの会議でも、俺は男爵と街中へ進入するように言い渡されている。

 断る事も出来たんだが、代わりに誰かが指名されれば目も当てられない。

 それに俺には経験がある訳だし、この人選は打って付けだったとも言える。


 一通りの説明が終わり、とりあえずマリーシェたちも納得すると言う事でケリがついた。まぁ、完全に……とはいかないんだけどな。

 それでも出発までにはまだ2日ほどある。

 根気よく説得し、当日には確りと連携を取って貰わないといけないな。


出発までには、マリーシェたちにも納得して貰わないとなぁ。

どちらかと言えば、街中に突入する俺たちよりも、彼女達の方が作戦の趨勢を握っているんだが……。

それをすぐに理解して貰うのは……難しいか。

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