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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
3.闇ギルド、壊滅
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机上の空論に備えろ

会議は進む……。

しかし、俺の考えからは不安しか浮かんでこなかった。

そしてそれは、そのまま顔に表れていたんだ……。

 マリーシェたちが今回の依頼に考えが浅いのは仕方がない。

 なんせ彼女達は俺と違い、本当に少年少女(・・・・・・・)なんだからな。

 どれほど年齢に見合わないレベルを身に付けたって、経験だけは年齢を重ねないと積む事が出来ないんだ。

 そして残念ながら、俺たちよりも年長である男爵もその経験という分野では乏しいようだった。

 彼の強さは定かじゃあないけど、それなりに高いレベルだろうと思われる。

 なんせ伯爵の親衛騎士団長を任されるほどだからな。

 でもやっぱり、彼は貴族だ。

 色々な仕事……それこそ表や裏、善悪に清濁といった事にまで考えが及ばないみたいだな。


「1週間かぁ……。まだ随分先なのね。ゆっくり準備が出来そう」


「そやなぁ……。なんせ相手は『闇ギルド』のもんやからなぁ……」


「そうだな。今回は俺も、いつもより気を引き締めないとな」


 男爵に作戦までの日数を聞かされ、マリーシェたちもその準備をする事に頭が向いているようだが……。


 それじゃあ遅い。……遅すぎるんだ。


 情報の足は早い。それこそ噂でさえ1週間もあればアルサーニの街まで届くだろうか。

 噂であってもそれほど物騒な事が起こると知ればら、誰であれ何所であっても何かしらの行動を起こすだろう。

 そしてこのクエストが殲滅作戦と言う血生臭いものであるからには、攻撃を受ける方は当然の如く迎え撃つ準備を取る。

 相手に万全の迎撃準備を取られてしまったら、こちらとしては相応の被害を覚悟しなくちゃならないんだ。

 ましてや、相手は「闇のギルド」だ。その情報伝達速度、内容の信憑性など、どれを取っても早く正確だろう。

 そして何よりも、奴らは陰惨で残虐な事に慣れている。

 どんな罠や仕掛けを施し待ち構えているか知れたものじゃあ無い。


「私たちも随分と経験を積み強くなった。更に歴戦の冒険者も参加するのだ。戦力としては十分だと考えられるだろう」


「……アレク?」


 カミーラさえどこか楽観論を唱える中で、それでも俺の顔が優れない事にバーバラが疑問の声を上げる。


「……アレク。何か思う処があるのならば、この場で申すが良い。無いのであれば、このまま作戦の概要を説明するが」


 そんな俺に水を差された気分となったんだろうか。オネット男爵の声には苛立ちが含まれており、その言い様もどこか棘が含まれている。


 ……そうだな。余り勿体ぶっても仕方がない。


 俺はここで、自分の意見を言う為に顔を上げみんなに目を向けた。


「……この作戦を辞退出来ないなら、積極的に攻め込む役目は受けない事を提案します」


 そして俺の第一声を聞いたみんなは、言葉を失い動きを止めてしまっていた。

 なんせこの提案はオネット男爵の意図とも反するし、マリーシェたちの意気込みにも水を差すものだったからな。


「そ……っ! ……それはどう言った考えでの発言なのだ?」


 一瞬声を張り上げかけた男爵だったけど、即座に自制して声音を落として問い質してきた。

 そりゃあ、男爵にしてみれば俺の提言は看過出来ないだろうな。


「お前も、伯爵の立場とお考えは分かっているのだろう? それにも関わらずのその提議には何か意味がある筈なのだが?」


 それでもオネット男爵は、俺とのこれまでのやり取りから感情的に責め立てる真似はしなかったんだ。

 この辺りは、流石は伯爵の信頼厚い親衛騎士団長だな。


「……まず、この依頼は王様より発令されているとの事ですが、その実はエラドール侯爵の上申に依るものなのでは? ならこの作戦でどれだけ武功を立てても、その手柄は全て侯爵のものとなる訳です。こっちにどれだけの被害が出ても侯爵が困る事は無く、得た結果を総取りされるなら、こちらも出来るだけ被害は最小限に留める行動を取るべきだと考えます」


 俺の言い方は如何に伯爵が手柄を取るのではなく、どれだけ評価を下げないかと言う消極的なものだが、実はこう言った政治的権力争いでは有効な手法なんだ。

 ……まぁ、武人肌のオネット男爵や人の良い伯爵には縁遠いやり方なんだろうけどな。


「……ふむ。しかし、もしもこの作戦が大成功を収めた場合、我らの取った行動は評価が低くなる。延いては、伯爵様の評判にも関わるだろう。……いや、侯爵ならば、きっとそのように王へと報告するだろうな。その場合はどうするのだ?」


 男爵はクレーメンス伯が損をしない様に……恥を掻かない様な立ち回りを留意している。

 だから彼の考えも分からないではないんだが。


「……残念ながら、この作戦は大成功には終わらない。……いや、恐らくは失敗する確率が高いでしょう」


「……何でアレクは、そんな事が分かるんや?」


 予測……というよりも殆ど断言に近い俺の返事を聞いて、サリシュが不思議そうに問い掛けて来た。それは他の面子も同様みたいだ。

 もっとも俺の場合は予感……ではなく経験則なんだけど、それを今この場で言う必要はないし言うつもりも無いんだけどな。


「……まずは、時間だな」


「……時間?」


 俺が答えると、今度はマリーシェがその言葉を反復して呟いた。

 小首を傾げているその姿は、どうにも意味が不明と言ったところだろうか。


「ああ、時間だ。このクエストが発令されて、実際に攻め入るまでおおよそ1週間ある。極秘作戦でこの日数、この時間は致命的だ。恐らく、2、3日後には噂に上るだろうし、それから対処しても十分に対抗手段が準備出来るぞ」


 俺の説明を聞いて、誰からも質問は上がらない。

 本当は反論したいだろう男爵でさえ、深く考え込んで声も出さないでいる。

 当然、彼の部下たちからも異論なんて上がらなかった。


「多分、侯爵やその賛同者たちは『闇ギルド』を甘く見ているんだろう。普通の街やギルドならば完全に受け身なんだろうが、向こうもただやられるのを黙って待っているなんて考えられないからな」


 貴族は得てして、自分たちの考え通りに事が動くと考えている節がある。

 王様や侯爵は言うに及ばず、もしかすれば伯爵もそんな考えが念頭にあるのかもな。

 そして目の前にいるオネット男爵も、まずは作戦ありきで動こうとしている。

 それはそのまま、相手が反撃してくるなんて考えていないって事だ。

 いや……反撃はしてくるだろうけれど、こちらの戦力や想像を超えるって発想には無いのかもなぁ。


「……なら……相手は罠を張り手ぐすねを引いて……待っている?」


 慎重に言葉を選ぶバーバラに、俺は頷いて応えた。


「相手は『闇ギルド』だからな。恐らくはそこら中に耳目があるだろうし、既に向こうには知られていると考えた方が良いだろう」


 そして、その考えを肯定してやった。

 十中八九……いや、確実に奴らは罠を張り待ち構えている。

 そんな中に飛び込む俺たちは笑えない夏の虫でしかなく、結果は言うに及ばずって訳だ。


「……では、どうすれば? このまま侯爵へと進言し、対応策を練り作戦を改めて貰うのが最善と言う事か?」


 そのやり取りを聞いていたカミーラが、如何にも彼女らしい意見を口にした。

 多分それは、男爵の考えに近いものだろう。


「……いや、それも無駄じゃないかな? ……男爵、エラドール侯爵は自分の考えた作戦に意見を言われ、それを採用するタイプですか? ……ましてや政敵と捉えている伯爵の部下の進言を……です」


 俺の考え通りなら、カミーラの意見通りにするのは無駄と言うものになるだろう。


「……いや、それはあり得まい。伯爵様との関係以前に、侯爵の為人(ひととなり)がそれを認めないだろう。もしアレクの言が正しいとしても、恐らくはそれを聞き入れないだろうな」


 つまりは、そういう事だ。

 如何にそれが正しかろうと、侯爵の自尊心がそれを許さないだろうな。

 もしそれで作戦が失敗し……全滅しようとも……な。


「俺も知っているってだけで、実際に『闇ギルド』の事を理解している訳じゃあ無い。でも、相手の事を過小評価しこちらを過大評価していたならば、その結果が真逆だった場合……こちらが全滅するってのも避けようがないと思いますが」


「アレク、そなたは我らの技量が奴らよりも劣っていると言うのか?」


「そうだぜぇ、アレク。いくら相手が『闇ギルド』だからって、これだけの手勢で攻撃を仕掛けて一方的にやられる訳ないだろう?」


 度の過ぎる慎重論と聞こえる俺の意見に、オネット男爵とセリルが声を揃えて反論して来た。

 まぁ確かに、さっきの俺の話はちょっと極端で否定的だったかもな。

 ……でも。


「確かにさっきの話は、少し消極的だったかも知れない。全滅ってのは、ちょっと言い過ぎたかも知れません。でも策を弄し罠を張り巡らせれば、奴らの被る被害よりもこちらの方が多大になる事は……想像出来るはしませんか?」


 俺はさっきの考えを多少修正しつつ、それでも危険な要素は強調して再び主張したんだ。

 作戦を立てるならこちらの戦力を過小に見積もり、相手が最大限の動きをするように考えないとな。

 何よりも……闇ギルドならば、奴らにとって最善の行動を仕掛けてくるのに疑いはないんだから。

 会議は……まだ終わりを見なかった。


まずは俺の懸念の1つをこの場の全員に理解して貰った。

もっとも、把握して貰っただけでなんの解決にもなっていないんだがな。

だからこそ、俺は次なる一手……説明に入ったんだ。

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