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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
3.闇ギルド、壊滅
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闇の街

伯爵の非常呼集に、俺たちは早速応じた。

エリン療養所からシャルルーたちを伴って、俺たちはジャスティアの街へと戻ったんだ。

 シャルルーを護衛しつつ、俺たちは再びクレーメンス伯爵邸へと戻って来た。


「それじゃあアレクゥ、それにみんなぁ。またぁ、後でねぇ」


 そして俺たちは伯爵に面会する為、その場でシャルルーたちと別れた。

 如何に親子とは言え、流石に話の内容も定かでない場に立ち会うなんて出来ない。

 それが如何に親バカである伯爵であっても、最低限その通例は守るみたいだな。

 俺たちはそのまま、伯爵の待つ謁見の間へと通されたんだ。




 高座にある椅子に座る伯爵の元に跪き、俺たちは彼の言葉を待った。

 普段は明朗快活な彼に反して、待てども一向に声を掛けられる気配がない。

 俺は僅かに顔を上げ、伯爵の顔を覗き見たんだが……。


 ……何を悩んでいるんだ?


 そこで見たのは、手すりに肘をつき頭を傾け掌で顔を覆う、正しく悩める伯爵の姿だったんだ。

 あからさまに思い悩むその姿を見れば、逆に声を掛ける事が憚られるってもんだ。

 なんせその場合は、大抵が難問奇問に違いないんだからな。


「……伯爵」


 少しも話を切り出そうとしない伯爵に痺れを切らしたのは、彼に一番近い所で立つ親衛騎士団隊長のオネット男爵だった。

 その声を聴いて、まるで今まで俺たちやその他の存在に気付いていなかったみたいにハッとした表情を上げる伯爵。

 ……いや、些か芝居じみているけどなぁ。


「おお、すまぬ。少し考え事をしていてな」


 よっぽど難問なのか、そう口にする彼の台詞にはどこか覇気がない。

 これを演技で出来ているなら大したものだが、察するにそんな事はないみたいだ。

 まぁ、そんな腹芸が利く相手なら、今後は付き合いをご遠慮願いたいってもんだ。


「……いえ、お気になさらずに。……それで? 私たちにどの様なご用向きでしょう?」


 実際、このままいつまでも待たされたって、俺たちに文句はない。

 何と言っても彼は雇い主で、俺たちは雇われている側だしな。

 ただし、このまま何の要件も告げられずに放っておかれると言うのも勘弁だ。

 だから俺は、早速切り出したんだが。


「う……うむ。実は……な」


 それでも伯爵の歯切れは悪い。このままじゃあ、無為に時間だけが過ぎてっちまう。

 状況が呑み込めないマリーシェたちはどこかキョトンとしているけれど、それも時間が立てば苛立ちに変わるだろう。

 そんな態度を、曲がりなりにも雇用主に見せるのは宜しくない。

 そして、そう考えたのはオネット男爵も同様だったようだ。


「……伯爵」


 再び彼が、伯爵へと呼びかける。

 今度の言葉は先ほどとは違い、要件を代わりに告げる旨の確認だ。

 それを聞いた伯爵は、ゆっくりと首肯して説明役を彼に代った。……じゃないな、丸投げしたと言うのが正解だ。


「……実は先ほど、伯爵の元へ火急のクエスト参加要請が届いてな。……配下に兵士や冒険者がいる場合は、(こぞ)って参加するようにとお達しがあったのだ」


 バトンを受けた男爵は、静かにゆっくりと口を開いた。

 そしてそこまでを聞いて、俺には大体どういう事なのか察する事が出来たんだ。


 ……さて、どうしたものか。


 年の功……と言う程に前世の俺は年寄りじゃあなかったけど、それなりに濃密な人生経験を積んでいる。

 それも、こういった「依頼(クエスト)」についてはそれこそ数えきれないほど受けて来た。

 察するにこれは、王宮からのクエスト参加要請と言う事になる。

 伯爵にあって「お達し」と言い回すのは、彼よりも遥かに位の高い人物からの話だと言う事になるからな。

 そして「火急」であり、参加するのが「兵士や冒険者」である事を考えれば……後は分かるだろ?


「……以前より問題視されていた『闇の街トゥリトス』。そこにある『闇ギルド』を壊滅させよとの下命を配されたのだ。そして伯爵様の立場上、これに応じないと言う選択肢はない」


「……『闇の街トゥリトス』? ……って?」


 ここまで話されれば、伯爵が俺たちに何を望んでいるのかは察せられた。

 ただまぁ、マリーシェたちはそんな事よりも違う処に反応しているみたいだけどな。

 考えてみりゃ、彼女達はまだ「闇の街トゥリトス」の事もそこにある「闇のギルド」も知らなかったっけ。

 もっとも、出来れば知らずに過ごした方が良いんだけどなぁ……。

 こちらから関わるのも、向こうに関わられるのも出来れば御免被りたいからな。


「『闇の街トゥリトス』は、このジャスティアの街より北……アルサーニの街から東に向かった、深い森と険しい山に囲まれた集落だ。元々ここには街などなかったのだがいつからか人が集まり、そしてついに『闇のギルド』が作られたのだ」


 親衛隊長オネット男爵は、その表情を引き締めて深刻そうに説明をしてくれた。

 その話にマリーシェたちは真面目な表情を浮かべて聞き入っている。

 今までこんなに近い場所にそんな危険な街があるなんて知りもしなかったんだ。そりゃあ驚きもあるだろうし、緊張感も漲るってもんだ。

 もっともこの話には少し齟齬があり、実際は「闇のギルド」の前身である「暗闇の館」が先に出来てそこに人が集まり街となったんだけどな。


「『闇のギルド』は、裏家業を一手に請け負う影の組織だ。そしてそれは、『闇の街トゥリトス』だけではなく至る所に支部を設けている。ここを潰せばそれで安心だ……と言う訳ではないのだけれどな」


 そう……「闇のギルド」の本拠地なんて、世界を旅した俺でさえ知る事が出来なかった。

 そしてその支部だけは、世界各地の至る所に作られている。

 今更トゥリトスのギルドを攻めた所で、余計な火種を作るだけなんだが……。


「でも、そこが悪の巣窟の1つって事ですよね!? なら、そこを潰せばみんなの平和を守れるって事じゃない!?」


 男爵の話を聞いて、マリーシェが興奮気味に口を開いた。

 その台詞を聞けば、彼女はこの依頼を受ける気満々だな。


「そうやなぁ……。ここ潰したら、少しは犯罪も減るかもなぁ……」


 それはサリシュも同様で、マリーシェの意気込みに賛同していた。


「うむ……。義を見てせざるは勇無きなり……と言う事か」


 そしてカミーラもまた、決意の籠った瞳で独り言つ。

 彼女の場合は、犯罪組織に家族ともいえる従者「アヤメ」を酷い目に合わされている。

 それを思えば、カミーラの並々ならない感情も伺い知れようってもんだ。


「そうだぜ! そんな組織は、根こそぎ潰しちまうのが一番だ!」


「……そんな組織は……不要」


 セリルとバーバラも、マリーシェに同意している。

 彼女達は、完全に伯爵の提案に乗りこのクエストを受けるつもりだ。

 そしてその決定を促すように、全員の視線が俺に集まった。

 それを受け止めて尚、俺はすぐに決断を下せずにいたんだ。

 ……まぁ、結論は決まってるんだけどな。


 実は俺は、これと同様の作戦に参加したことがあった。……勿論、前世での話だけどな。

 その時確かに、俺たちは「闇の街」を1つ壊滅させた。

 多くの闇人(やみうど)を屠り、街には火を放ち完全に滅ぼした……筈だった。

 でも、問題はその後にあったんだ……。


「……アレク」


 全員が押し黙り暫しの時間が流れたんだが、それを破ったのは伯爵の呟きだった。

 その声は普段の様に張りのあるものじゃあ無く、完全に困り果て縋りつくように弱弱しいものだった。

 そして、命令する事に慣れている貴族とは思えない、俺たちの事を考えての声音だともすぐ分かったんだ。

 ……ったく、お人好しめ。そんな顔を見せられちゃあ、断る事なんて出来やしない。

 それが例え……危険極まりなかったとしてもな。


「……分かりました。私たちも参加します」


 俺が静かにそう答えると、伯爵の表情が俄かにパァっと明るくなった。

 そしてそれは、オネット男爵も同様だ。


「……そうか。……では、詳しい打ち合わせはオネット男爵と取り交わしてくれ」


 それでも彼は、喜色ばんだ声で話す様な事はしなかった。その辺り、流石は伯爵だと感心させられたんだけどな。

 喜怒哀楽をあっさりと表現するのは、人間的に好感が持てるとしても、人の上に立つ者が簡単に取って言い行動とは言えないからな。それを伯爵は良く理解しているんだ。

 そして何よりも……この危険極まりない任務に対して、真剣に心配してくれているのだろう。

 俺が伯爵に受諾を答えた事で、マリーシェたちもやる気に満ちた雰囲気を醸し出している。

 今は、正義の念に燃え意気込んでいるんだろう。


 でも世の中、そんなに簡単には割り切れない事ばっかりなんだよなぁ……。


 俺はこれから、出来る限り彼女達に被害が及ばないよう思案を巡らせなければならない事に、ちょっと憂鬱になっていた……。


よりにもよって「闇の街」を壊滅させようとは……。

一体誰だ? こんなバカな依頼を考えたのは!?

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