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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
10.エピローグ
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一難去って

セルヴィが上げた「冒険者貴族」と言う言葉が、その場に居た者達へ波紋を投げかける。

そして、俺の話の信憑性が一気に上がって行ったんだ。

 セルヴィの発した「冒険者貴族」って言葉を聞いたこの場の一同は、再び各々口を開いて話し合いだした。まだまだ駆け出しから抜け出していない冒険者にしてみれば、この「冒険者貴族」って名称は耳慣れないんだろうな。


「確か……『冒険者貴族』とは多くの財宝を得て、その後無事に冒険者を引退した者の事だったと思うが……。多くの知識や未知の道具、山のような財を以て悠々自適に余生を過ごしている者が殆どと聞く」


「へぇ……。そんな凄い人がどっかに暮らしてるんや? ……でも、あんまり聞いた事ないなぁ?」


「そりゃあ、そうだろ? 多くの財産を得て無事に引退できる冒険者なんて、そう多くは無いだろうしなぁ」


「それに……あまり声高に触れ回っては、その財宝や武具道具を目当てに無法者がやって来るんじゃない?」


「うむ……確かに。手練れの上級冒険者だったとはいえ、寄る年波には勝てないやも知れぬ。あまり周知されてしまっては、自ら危機を呼び寄せる事となるでしょう」


「……普通に考えれば……隠遁する」


 シラヌスが知見を披露すると、サリシュがそれに疑問を呈してヨウが応える。トウカが補足するとカミーラがそれに賛同しバーバラが結論を口にしたんだ。なんかこいつら、知らない間に仲良くと言うか息が合っているというか。

 彼らの言った通り「冒険者貴族」って呼ばれる者がいる事は確かだけど、その存在は殆ど知られていない。何処に居るのかは勿論、どれだけの数がいるのかも明確じゃないし、会った人も殆どいないんじゃないかな?

 そういう俺も、前世でさえ会った事なんて無いんだけどな。


「それじゃあアレクは、その親御さんに育てられたから冒険者としての知識を得ているってのか?」


 そこでセリルが当然に行きつく答えを口にしてくれたんだ。俺から言うんじゃなく誰かからの発言ほど説得力がある物は無い。


「まぁ……そうなるかな? 俺自身はそういう風に育てられてるって思ってなかったけど、実際に冒険者となって初めて親父の教えが活きているって痛感しているよ」


 無論、俺はそれに乗っかった。俺が様々な事に対して何故多くの知識を有しているのか、このやり取りだけで全員が納得してくれるってもんだからな。

 ……さらに。


「うっふふふ。それじゃあ、あなたが惜しげもなく使っているアイテムも……?」


 この流れから、スークァヌが当たり前に辿り着く台詞を口にしてくれた。

 俺にとっては渡りに船で、ここで頷いておけばこのままこの話は終わりとなっていただろうか。でも、それじゃあダメなんだ。


「ああ、そうなんだけどな。ただ俺は親父と喧嘩別れみたいに飛び出してきたから、実際にはそんなに優遇されてるって訳じゃあ無いんだ」


「えっ!? アレクさん、お父さんと喧嘩して出てきちゃったんですか?」


 このまま終わらせるつもりのない俺の言葉を聞いて、ミハルが驚いたように眼を丸くして問い掛けて来た。その瞳に俺の話を疑っているって曇りが無い分、何とも申し訳ない気持ちになっちまうんだけどそれは仕方がない。


「……まぁな。親父は俺の冒険を完全に援助するって聞かなかったんだけど、俺はそれが嫌だったからなぁ……。最後は口論した挙句、挨拶もなしにこっそりと家を出て来たんだよ」


「……なんで? 色々と助けてもらった方が良くない?」


「そ……それに、援助して貰う事は……」


「援助して貰う事自体は悪い事じゃないんじゃない? 家の財力もあなたの力の一つでしょ?」「……あう」


 少しバツが悪い風を装って話した俺に、マリーシェとシュナが返答してくれた。……もっとも、シュナの台詞はカレンに遮られてたけどな。


「今ならそう思わないでも無いんだけど、その時の俺は何て言うか……自分だけの力で全て解決してやるって考えに凝り固まっちまっててな」


 更に照れた様に頭を掻きながら続けると、この言い様には多くの者達が納得したみたいだった。マリーシェとかサリシュなんかは激しく頷いていたところを見れば、何か感じ入る部分があったんだろな。

 若気の至り……って言えるほど年を取っちゃいないけど、色々と経験すれば年長者の言葉がどういう意味を持つのかを知る機会も増えるってもんだ。

 単なる過保護で鬱陶しいとその時は思えた言動も、今となれば如何に助けとなるものだったか……ここにいる全員が多かれ少なかれ経験した事があるのかもな。


「ただ色んな事があって……結局は今も親父の手を借りちまってる。装備を用意して貰ってるし道具を用立てて貰ったり情報を提供して貰ったりな」


「……それであんな武器防具を用意出来たり、アイテムを手に入れたり出来てんなぁ。……でも、それってどうやって?」


 設定上の親父が色んな装備やら道具を持っていたり俺の相談に乗ってくれるってのは信じて貰えたんだが、サリシュが実に鋭い質問を返してきた。確かに、問題が起こってから俺が用意するには日数が早すぎるもんな。って言うか、殆ど1日足らずで準備しちまってる。


「実は、各町や村には大抵親父の手配した者がいるんだ。そいつ等に話せば、すぐに俺の要望した物や疑問に対しても応じてくれている」


 過保護な父親って設定だからな。私財を使って俺を見守る為に手の者を配するってのにも信憑性はあるだろう。


「……マジで? そんな気配なんて全然感じなかったわよ」


「ああ……。俺も気付かなかったな」


 そんな俺の説明を聞いて、グローイヤとヨウが驚きを露わとしていた。共に気配を消したり察する事には長けていただけに、全く感知出来なかった事が信じられないのかもな。

 もっとも、俺たちゃまだまだ下っ端冒険者でもあるんだから、上には上がいるってのが本当の処なんだ。


「それが本当なら、かなりの凄腕ですね。ベテランの中級冒険者以上か、『諜報ギルド』から派遣された手練れの者達か……」


 そしてその補完の為に、セルヴィがまたその知識を披露してくれた。なまじ中級冒険者として色々と知ってるだけに、つい彼女は俺の言葉を是としてその理由を口にしちまうんだろう。


「……『諜報』……『ギルド』ォ? 初めて聞く名称ですねぇ」


 これまで黙って聞いていたシャルルーも、セルヴィの口にしたギルド名に疑問の声を上げた。もっともそれは彼女が知らないってだけで、誰もその事を追求しようって言葉じゃなかったんだけどな。

 この世界には数百を数えるギルドが存在しているんだ。今の俺達が知らないギルドがあったっておかしな話じゃないからな。


「聞いた事があるな……。確か『諜報ギルド』は『闇ギルド』や『盗賊ギルド』とは違い、情報を収集したりそれを提供する為だけの技術に特化した組織だと聞く……。無論、その為に手を汚す様な真似はせず、あくまでも秘密裏に動き決して気配を悟らせず痕跡も残さないとか。……実在していたとはな」


 そして今度は、シャルルーの疑問をシラヌスが説明してくれた。これは、実に良い傾向だろう。こうなったら、俺が何を言ってもそれが余程突飛でない限り誰かがそれを補完してくれるからな。


「ただ……俺は今後も出来るだけそれらに頼ることなく、可能な限り自分の力で冒険を続けたいって考えてる。でないと、それは俺の冒険じゃあなくなっちまうからな」


「そうよね! やっぱり冒険は、自分の力で道を切り開かないとね!」


「そ……そうだよな! 冒険は自分の力と経験に頼らないとな!」


 そして俺がそう締めくくると、真っ先にマリーシェとセリルが賛同してくれた。


「……まぁ、アレクのおとん(お父さん)にはもうすでに色々厄介になってるんやけどなぁ」


「これからは、そう言った部分も我らの力で乗り切るように心がければ良いではないか」


「……私は……アレクのお父様の助力も……アレクの力だと思うけどね」


「わ……私もそう思いますですぅ」


 そこにサリシュ達のツッコミが入る訳だけど、それでもそれは今後も俺に頼ろうではなく、自分たちで何とかしようって気概が見て取れた。

 見回すと、グローイヤ達やエスタシオンの面々にシャルルーたちも納得している様だった。

 日を置けば、もしかすると新たな疑問が湧いてくるかも知れない。特にセルヴィなんかは要注意だよな。

 でも、今はこれで何とか乗り切ったと思うし、この件で当分は怪しまれずに済むと思う。一先ずは一安心だな。


「……そぉれぇでぇ。話が一段落した所で、あたいから一つ話があるんだけど」


 そう思った矢先、グローイヤが新たな提案を持ち掛けて来たんだ。

 正直、こいつ等からの話で良かったと思えるような記憶は無いんだけど、それも前世での話だ。


「なによ、グローイヤ?」


 グローイヤに対して、マリーシェがどこか疑う様な眼差しで返答した。とは言え、随分と気心も知れてきているんだろう、それほど険悪な雰囲気じゃないけどな。


「実は……」


 そしてそこで語られた彼女の〝提案〟に、俺達は大いに悩まされると同時に、完全に前世での流れが変わっちまった事を痛感させられる事になったんだ。


グローイヤの発言内容とは!? そして、その結果として俺達の今後が大きく変わり出す。


本編はひとまずこれにて終了です。

次話はエピローグ最終回にして次回予告も兼ねております。

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