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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
10.エピローグ
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アレクの新たな事実

昏睡状態から目覚めて数日が経過した。

マリーシェ達の献身的な看病と俺の教えた調剤のお陰で、俺は心身ともに快方へと向かっていたんだが……。

 俺が目覚めてから数日後。改めてこの「エリン療養所」には俺の仲間たちが勢揃いしていた。

 マリーシェ達は勿論だけど、そこにシャルルーとエリシャ、グローイヤ達とエスタシオンのメンバーも集まっていた。

 ここにはエリンが今も眠ったままなのだからシャルルーたちがいるのに不思議はない。俺とディディも未だに退所出来るまで回復していないんだから、マリーシェ達がいるのも一向に不思議じゃないな。

 それに深手を負ったシルヴィも未だ治療中なのだから、ミハル達がいるのにも頷ける。

 でも……。


「なになになにぃ? アレク、あんたまだ回復しきれてないのぉ? 意外に繊細な体してんのねぇ」


 グローイヤ達がまだここに留まったままってのは不思議でしょうがないんだけどな。グローイヤは部屋に入って来るなり、豪快と言って良い声音で労ってるんだか馬鹿にしてるのか分からない台詞を浴びせかける。


「ちょっと、グローイヤ! あんた、ここは傷を負った人が治療する場所なんだから、少しは静かにしなさいよね!」


 そしてそれを、マリーシェに咎められていた。

 俺の知るグローイヤなら、こんな事を言われればそこが何処だろうとも大喧嘩となっていたんだろうけど。


「おっと、そうだったね。悪ぃ悪ぃ」


 苦笑いを浮かべて、彼女はマリーシェへ軽く謝っていたんだ。これには、俺も驚きを隠せなかった。

 仲間であっても信頼できなかった前世での関係を考えれば、今回は俺の取って来た選択も誤りじゃなかったって思わされた……んだけど。


「しかし、アレクの意識はもうハッキリしているのだろう? 話ぐらいはしても良かろう」


「そうだぜぇ。こいつには、色々と聞きたい事があるんだからな」


「うっふふふ。私もその会話は非常に興味深いわぁ」


 こいつ等の場合は、単純に俺の心配だけをしてくれている……とは言い難いんだよなぁ。

 そして厄介なのは、こいつ等はマリーシェ達ほど俺の話を信じちゃくれないって事だ。鵜呑みにしてくれないと言おうか。


 だけど、そろそろ話す内容にも吟味を加えないといけないだろうか。いつまでもこれまで通りの説明じゃあ、マリーシェ達も納得しないだろうからな。

 それに何よりも、女神フィーナとの会話が俺の心に引っ掛かっている。

 俺がどういう人間で、どんな思考で行動しているのか。その結果これまで見舞われなくて良い危険な目に合って来たかも知れない事を話すべきかどうか。

 全部話すには時期尚早だとしても、俺の秘密の一端……知識の出所やアイテムの手配なんかをもう少し納得出来るような理由で説明しないと、今回は流石に得心して貰えないだろうなぁ。


「……ディディもシルヴィさんも、もう体を起こす事が出来るんだよな? なら、全員を集めて改めて今後の事を話すとしようか」


 今後の事……とは言ったけど、まず俺への質問会となる事は必然だろうからな。それなら今回の関係者を全員集めた方が話は早いってもんだ。

 俺はこれまでに考えていた新しい設定の辻褄を頭の中で擦り合わせながら、マリーシェ達へそう提案したんだ。




 この「エリン診療所」の待合室はそれなりの広さがある。普段はそんな使われ方もしないんだろうけど、今は大きな机とそれを取り囲むように19脚の椅子が並べられていた。

 そこには言うまでもなくマリーシェ、サリシュ、カミーラ、バーバラ、セリル、ディディが。そしてグローイヤ、シラヌス、ヨウ、スークァヌ。更にミハル、トウカ、カレン、シュナ、セルヴィとシャルルーにエリシャ、アルケミアも同席していた。

 実質的にこの療養所を切り盛りしているシルビエンテさんには席を外して貰ったけどな。その代わりと言っては何だけど、彼女には俺達全員分のお茶を用意して貰った後に休憩を取って貰っている。


 ここでの発言はマリーシェ達やグローイヤ達、そしてエスタシオンの皆にも知られてしまうと同時に、シャルルーを通じてクレーメンス伯にも伝わるだろう。だから、ある程度納得して貰える様な話とならなければならない。


「……今後の事を話すのは各々で行えばいい。今回こうして集まったのは、それぞれに持った疑問を解消するため……と言う事で良いのだな?」


 まず最初に口火を切ったのはシラヌスだった。奴は無駄な時間を使う事が嫌いだったからなぁ。この辺りの性格は以前と何ら変わっていないし、何より俺としても余計な前置きをしなくて済む分助かるって話だけどな。


「疑問ってのは言うまでもないね。アレク、あんたの持っている知識やアイテムの出どころが知りたいって話よ」


「そ……それはっ……。……!? ……アレク」


 そしてそれにグローイヤも続く。そんな彼女達の遠慮ない物言いにマリーシェが反論しようと試みたんだろうけど、それを俺が制した。

 いつまでも今のままの設定(・・・・・・・)で話を通すには無理がある。それは重々感じていた事だ。

 とは言え、本当の事をペラペラと話しちまうのも考え物だ。下手をすればパーティは解散……いや、俺だけ出て行かないといけない事態になり兼ねないからな。


 多くの知識を有しそれを如何なく発揮し、数多のアイテムを惜しげもなく使う。……これは冒険をするに際して、何も間違った(・・・・・・)事じゃあ無い(・・・・・・)。寧ろ率先して活用すれば生存率を上げる事になるだろう。

 だけど、俺の持つ知識やアイテムは……少し勝手が違う。

 俺の持っている知識は言わば〝答え〟だ。これからマリーシェ達が遭遇するであろう疑問難問に殆ど全て返答することが出来る代物なんだ。

 そしてアイテムにしてもそうだ。俺の「魔法袋」の中には、今の俺達じゃあ絶対に手に入れる事の出来ない武具や道具が入っている。何なら資金も潤沢だ。

 これを知れば、まともに危険な(・・・・・・・)冒険をしよう(・・・・・・)なんて輩は現れないだろう。俺を仲間にするだけで、困難な道のりがあっという間に舗装されちまうんだからな。


「……俺の実家が裕福なのは間違いない。でもそれは、貴族だとか豪商だからって訳じゃあ無いんだ」


 だから今はまだ、もっともらしい理由を付けてここを切り抜けるしかない。

 出来るなら今後の冒険にも完全に頼られる事無く、色々と物知りだと言う立場を確立できれば最善だ。アイテムにしても、惜しげもなく使うと言う事に真実味を持たせられれば上出来だろう。

 俺が話し出した途端に、全員が息を呑んでその言葉に耳を傾けている。まだ付き合いが浅いディディやエスタシオンの面々も真剣な眼差しを向けて来た。……いや、セルヴィの視線は真剣を通り越して怖いんだけどな。


「俺の親父は昔……冒険者をやっていたんだ」


「ええっ!?」


 俺が発言して真っ先に大声で驚いて見せたのは……何故かディディだった。マリーシェやらグローイヤが驚くならまだしも、何でお前がそこまで驚くんだ?

 ただ驚いているってのはこの場の全員が同じみたいだ。まぁその度合いはそれぞれなんだけどな。


 親が冒険者をやっていたって奴はそれほど珍しくは無い。子供が親の職業に影響されるのもそう少なくないからな。

 グローイヤは種族的に冒険者や用心棒なんてやってるし、ヨウは幼い頃から武道を嗜んでいるがそれも冒険に出て腕を試す為だって事を俺は知っている(・・・・・・・)

 だからそれだけなら、この話で納得させるのは難しいだろう。事実、殆どの面子が俺に話の先を求めた視線を向けていた。


「そして俺の親父はかつて……上級冒険者として活躍していたって話だった」


「……上級」「……それで」「なるほど……」


 この言葉を皮切りにして、その場が大きくざわつき出した。驚きや納得、疑問に関心と言った思い思いの感情が口を吐いているって感じだな。


「……なるほど。あなたの御父君は〝冒険者貴族〟と言われる方だったのね」


 そして俺が欲していた台詞を口にしてくれたのは、恐らくは中級冒険者以上だろう……セルヴィだった。


俺の話を聞いて、シルヴィが引き出したかった言葉を口にしてくれた。

これで説明にも説得力が出るってもんだ。

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