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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
8.退魔の者達
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全てを掛ける

完全に魔神族が優勢だったが、その直後に奴の顔に驚愕が浮かぶ!

それは、俺の身体から発した光によるものだった!

そして、ここから「俺達」の反撃が始まる!

 魔法は、必ずしも声を大にして高らかに詠唱しなければならないと言う訳じゃあ無い。口にする必要があるのは確かだけど、声を(ひそ)めて囁く様に紡いでもその効果を発揮させる事が出来る。

 ただし、その声量に比例して効果も変動すると言われている。その理由は色々と推察されていた。……神や精霊へ捧げる感謝の度合いを示すとか、自身の魔力をより高める……気合を入れていると言った具合だな。

 どれも証明された訳では無いんだけど、実証はされている。声の大きさで威力や効果が変わるのは間違いない。


「神の息吹……。神聖なる力、ここに宿らん……ですぅ……」


 しかし、何にでも例外と言うものは存在する。特に「魔法」と言うものには、例外がその職業(ジョブ)や個人の能力によって多数存在していた。


「天に()します大神の理力もちて……難敵を打ち破らん助力を……与え賜え……なのですぅ」


 床に突いた杖に縋りつくようにしてピクリとも動かず、立ったまま気を失っていたと思っていたディディが呪文を詠唱していく。体力も魔力も、そして命の危機さえあるだろうに、殆ど気力だけで魔法を使おうってのは感服に値するな。

 そしてこの呪文は……。


「神代の奇跡を……ここに……ですぅ」


 中でも「聖女」の魔法は、高らかにその詠唱を紡がなくても効果が発揮される事で有名だ。……無論、今の俺達は(・・・・・)そんな事を殆ど知らないけどな。

 上位職の人間と接触する機会も少ないし、そんな人達と行動を共にしたり仕事をする事なんて無いんだから仕方がない。当のディディだって、多分そんな効能があるなんて思いも依らないんだろう。

 今の彼女はその使命感と魔法が使える喜びで、無邪気に……後先の事なんて考えもせずに魔法を使っているだけだ。

 本当なら、この魔法の使用を止めないといけないだろう。今のディディはまともに動けない程の疲労を抱えているし、吐血だってするくらいなんだ。このまま魔法を使い続ければ、間違いなく命に関わる結果となるかも知れない。


「……大いなる(アレ)……祝福(グリア)……ですぅ。……ゲボッ」


 でも俺は止めなかった。いや……勝つ為には止められなかったんだ。

 そして、ディディは魔法を唱えきり、俺の身体はその影響で神々しい光を発しだしていた。

 魔法を行使した直後、ディディは先ほどよりも多くの血を口から吐き出したかと思うと、血溜まりとなった床の上へと倒れ込んだんだ! 今度こそ間違いなく、彼女は意識を失っただろう。

 命に関わる出血量だ。早く治療を施さないと、本当に取り返しのつかない事態になる。


「貴様……。何だ、その光は……?」


 その為にしなければならない事は明確だ。

 俺の身体から放たれる光を見て、目の前の魔神族が問い掛けて来た。その声音には、どこか忌避感が含まれている。

 聖女の魔法は、基本的に「魔」の者に対する効果が高い。恐らく今の俺には、能力向上と共に神聖属性の力も付与されているだろう。

 奴が怯んでいる今この時こそが、俺にとっての千載一遇の好機だ! 俺は腰袋から、シラヌス達も使用した「小薬」を数個取り出した。もっとも、俺の物は奴らのとは少し違うんだけどな。


 なんせ、俺の「小薬」はそれぞれ「希少品(レア)」だからだ。


 希少品は手に入れる機会が極端に少ない反面、その効果は極めて高くなっている。今回シラヌス達に分け与えた「実」も「希少品」であり、だからこそ難敵にも打ち勝つ事が出来ただろう。

 レベルが戦いの結果を左右するこの世界で、如何にアイテムを服用したからってそう簡単に勝てる訳なんて無い。

 その中でも、今の俺達に過ぎたアイテムなのがこの「小薬」だ。

 能力を大きく向上させるアイテムで、中級冒険者より上位になれば重宝されている。でも駆け出しの初級冒険者達が使えばその効果時間は非常に短く、更に使用後には反動で動けなくなっちまうんだ。下手をすると、命に関わるかもな。

 それでも、今この時に命を賭けないと俺は勿論の事、カミーラ達も生きて帰れるとは思えない。ここで保身を考えたって意味のない事なんだ。

 だから俺は、躊躇なくその「希少品」である「リヒトの小薬」と「マチスの小薬」、そして「エルガの小薬」を口に含んだ!

 効果はすぐに発揮され、ディディの魔法も相まって俺に底知れない力を齎す!


「グオッ!? 貴様、その動きは何だ!?」


 俺はそのまま剣を構えると、奴に踏み出して横なぎに払った! 自然体から瞬く間に間合いを詰めた俺の攻撃を、奴は驚くべき速度で手を翳して辛うじて防いだんだ!

 異質な金属音が洞内に響き渡り、魔神族が驚愕の声を上げる。


 〝希少品〟の「小薬」のお陰で、俺のレベルは瞬間的に倍程度まで引き上げられている。それに加えてディディの使った「大いなる祝福(アレグリア)」で効果が上乗せされていた。ほんの僅かの間だけど、俺の力は目の前の魔神族に匹敵するところまで達しているだろうか。

 でもそれも、本当に少しの間だけだ。


「ふぅっ!」「うおっ!」


 驚きを露わとしていた魔神族に再度攻撃を仕掛け、奴は再びそれを掌で受けて防ぎやがった。でも今度はその受けた部分に裂傷が出来、そこから黒い血が飛び散った!

 突然変わった俺の動きに奴は完全に動転していた。とは言え、それもそう長い時間じゃあ無く。


「おのれっ!」


 例の伸びる指で、俺に攻撃を仕掛けて来たんだ! しかも一撃で終わらせる為だろうか、頭や胴体部の急所部分を狙ってな!

 でも残念、そう言った部分を防ぐ事は戦闘では必要最低限な技能だ。実際は30歳で上級冒険者だった俺にしてみれば、そんな部分が狙われている事も、そこに標的を付けて攻撃してくる瞬間もすぐに分かる。

 だから俺は、僅かな動きでその攻撃を躱して。


「ぐおおおっ!?」


 そのまま魔神族の胴体部を横に薙ぎって攻撃を仕掛けた。浅かったけど、再び真一文字に切られた奴の身体から出血する。

 このままこの攻防が続けば、いずれは俺が勝つだろう。だけど残念ながら、そんなに優勢な状態じゃない。

 奴に凌駕する力を刹那の時間だけでも発揮するって事は、この体に途轍もない負担が掛かってるって事だ。実際、少し動くだけで腕の筋肉は断裂し足の筋は数本切れていた。

 良くも悪くも豊富な経験で(・・・・・・)俺はその痛みに耐えて動く事が出来るんだけど、例え痛覚を無視しても体が動かなくなるのは時間の問題だ。


「が……こ……この!」


 そして、それを黙って待ってくれるような奴でもない。さっきの魔神族のように詠唱もなしで、何か魔法のような特殊技を使う素振りを見せ始めたんだ!

 気を込める動作に似ているだろうか? 奴の身体が赤黒く発光し出し、それが薄い膜を形成して奴の全身を覆いだした!


「ちっ」


 防御に回っている時間は俺には無い。でも、このまま放っておいたら間違いなくシラヌスやカミーラにヨウ、ディディにセルヴィはやられちまうだろうな。

 だから俺は瞬時に動いて、倒れているセルヴィの襟首をつかみシラヌス達の方へと滑り投げた。転がるようにそちらへ移動させられた彼女は僅かに呻き声を上げる。

 即座に俺は彼女とディディへポーションを振り掛けて、そのまま彼女達を背にするように魔神族へと再対峙した! 奴の攻撃準備は整っているみたいで、すぐにでも発動しそうな状態だ!

 俺の経験から来る〝勘〟では、あの攻撃は周囲を無作為に攻撃するものだと推察された。

 今の俺の状態と同じ様に見えなくもないけど、それだと奴の肉体が強化されるだけだ。だけどあの魔神族の精神状態が推察通りだとすれば、奴はかなり頭に血が上っている事だろう。

 そんな奴が取る行動として最たるものは、周囲の敵の虐殺だろうか。それも手っ取り早い方法でな。

 無差別攻撃ならそれは可能で、奴の行動にはその傾向が当てはまるんだからな。


「もう、真宮寺の小娘も連れ帰るのは止めだっ! 死んだ体でも良い筈だからなぁ! 死ねぇっ! 『破壊の衝撃(サドマ・タドミール)』ぃっ!」


 強さが上がって会話が流暢に行えれば、どうやら口数も増えるらしい。奴は怒りのあまり、割と大事な事を口走っていたんだけど気付いていないみたいだな。

 そして奴が「魔神魔法」名を口にすると同時、奴の身体を覆っていた赤黒い魔神力が四方へと放出されたんだ!


完全に形勢が逆転し追い詰められる魔神族。

奴は苦し紛れに、周囲へ無差別攻撃を仕掛けるつもりだ!


でも、残念。〝今の俺〟には、もう奴の攻撃は届かないんだ

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