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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
8.退魔の者達
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鮮血の聖女

魔神族が作り出した巨大な碧炎弾がカミーラ達へと放たれる!

濃密な緑色の炎が、彼女達を呑み込まんと襲い来る!

 魔神族の作り出した碧炎弾がカミーラ、シラヌス、そしてヨウへ向けて飛来する!


「くぅっ!」「ぐわぁっ!」「むうぅっ!」


 そしてそれを、3人が各々の方法で防いでいた。カミーラは魔力を込めて剣を立ってその背に手を宛がい、ヨウは魔力を通わせた腕を交差させてその場に踏ん張り、シラヌスは即座に作り上げた魔法障壁を以て自分の身体に直撃しないようにしていたんだ!

 こちらの概念では、放出された魔法は防がれた時点でその役割を失いすぐに霧散する。例え自分たちよりもレベルの高い者が放った攻撃魔法であっても、僅かな間だけ凌げれば良い……筈だったんだが。


「ぐ……こ……これは……!?」「き……消えやがらねぇ!」「これは……」


 でも魔神族の放った魔法……魔神魔法は、そうはならなかったんだ。まるでこの世界に新たに誕生した物質であるかのように、その直進する力は何時まで経っても収まらず彼女達の防御を崩そうとその圧を弱めなかった!

 元々、力では圧倒的に不利なんだ。如何に「小薬」の力で能力を増大させたって、それを埋める程の効力は無い。

 力が(せめ)ぎ合う時間は刹那。


「きゃあっ! あああぁぁっ!」


「うおおぉっ! がああぁぁっ!」


「ぐわあっ! がはあぁっ!」


 力勝負に勝った碧炎弾は、そのまま各々の身体に着弾すると3本の碧業火による火柱を発生させた! 距離を取っている俺の元へもその熱波が届くほどだ!


「尊き畏き神々に謹んで言上(ごんじょう)(つかまつ)るですぅ……」


 これまでに感じた事のない熱量……と言ってもそれは、人生をやり直して今までにって事なんだけどな。

 兎に角、今の俺達には危険だと言って良い轟炎がカミーラ達を呑み込んで渦巻いていた! 普通で考えれば(・・・・・・・)、間違いなくこの攻撃は……致命傷だったろう。


「戦いに傷つき尚立ち上がらん戦士達に、その深遠なる慈悲の心をお見せ下さいですぅ。悪しき者どもに抗う為の力を今再び。……光る奇跡の御手(ルス・クーラ)ですぅ!」


 でも、こちらには〝聖女〟であるディディがいる。今やこの場に居ても遜色ないほどの存在感を発揮し、彼女は朗々と呪文を唱えきった! ……って、その魔法はちょっと調子に乗り過ぎじゃないか!?

 俺の懸念なんて何ら気に掛ける事も無く、ディディはそのまま魔法を発動したんだ! その効果はすぐにも発揮され。


「……うそ!?」「ま……マジかよ!?」「何という回復力!?」


 3人の受けた大火傷は、正に一瞬で回復しちまっていたんだ! 魔法の効果が表れるのは術者の能力によるとは言え、割と高い力を持つ治癒法士や白魔導士だってここまでの速さと治癒力は発揮出来ないだろう。正に〝聖女〟の面目躍如といったところか。


 再び驚愕の事態に動きを止めちまった3人へ向けて、魔神族は驚いた様子も見せずに次撃の準備を始めていた! この辺りは、魔神族の強い意志が感じられる。恐らく奴は、例えさっきの攻撃で3人が戦闘不能になっても再攻撃していただろう。

 だけど、それを察して動きを止めなかったのはこちらにも1人……ディディだ!


「闇を照らす大いなる光宿す御社(みやしろ)(よこしま)なる波動をその防壁にて通さないですぅ。悪しき魂はこの聖廟に立ち入る事敵わず。……神の聖域(サントアリオ)ですぅ!」


 魔神族が再び碧炎を出現させたと同時に、ディディはすかさず次の魔法の詠唱を行いそれを完成させたんだ! 殆どそれと併せて、魔神族は作り上げた巨炎弾を再度3人へ向けて放出した!

 反射的にそれぞれ防御姿勢を取ったカミーラ達だったけど、今度は自分たちの力で迫りくる攻撃を防ぐ必要は無かった! なんせ、3人を取り囲むようにして六角形の防壁が出現し彼女達を護っていたんだからな!


「……ガフッ」


 魔法を行使するディディが、目線を外す事無く態勢を崩さずに吐血した。そりゃあ、身に余る魔法の連続使用をすりゃあ、身体に掛かる負担はさっきの比ではなく想像を絶するからな。彼女の白を基調としたローブに鮮血が染みを付ける。

 僅か2つの魔法を行使しただけで、ディディはすでに満身創痍だ。でも、その眼はまだ力尽きちゃあいない! それどころか、薄っすらと笑みさえ浮かべていた。


「カ……カミーラさんっ! シラヌスさんっ! ヨ……ヨウさんっ! その防御障壁は内側から出られますし攻撃出来ますですぅっ!」


 血を床へ撒き散らしながら、それを気にする事無くディディは伝えるべき事を発した! それまで防御壁に阻まれて拮抗している状態に目を奪われていた3人も、その声で我に返ったみたいだ。

 ……と、その時! 周囲に硬質な物質同士がぶつかり合う異音が響きあった! 見れば、魔神族の指が硬質化して3人を襲ったんだけど、それさえもディディの作り上げた魔法障壁に阻まれていた! どうやら彼女の使用した防御魔法は物理、魔法共に防ぎきるみたいだな。

 魔神族は連続攻撃を放っても尚、勝利を確信しちゃあいなかった。それどころか防がれる事を前提にして、3度目の攻撃を仕掛けていたんだ!

 だけど残念! ディディの魔法防御はそれらを完封しちまうほどに高性能だったようだ。……まったく大したもんだ。


「しぃっ!」「はぁっ!」


 そして、流石にここまでされて動けだせないカミーラ達じゃない! 未だに碧炎弾は防御障壁を破ろうと力を加え、魔神族の攻撃も防がれたまま。それらをしり目に「神の聖域」から飛び出したカミーラとヨウは、「小薬」の効果により一気に魔神族との距離を縮めた!


「はあぁっ! 斬神(マタルデオス)っ!」


 刀を担ぐようにして構えたまま接近したカミーラが、技の名前と共にその刀を振り下ろす! 刀身に薄っすらと紫光を宿してたそれはあたかも妖刀の如く、紫色の光跡を残して一閃された!

 これはLv30から使用出来る刀剣技「斬神」。刀身に込められた魔力は紫色に煌めき尋常ではない切れ味を増すだけでなく。


「ヴォヴォヴォゥッ!?」


 斬られた魔神の身体からは紫の炎が噴出していた! 赤よりも遥かに高温とされる紫炎を受けては、さしもの魔神族も平気ではいられまい!


「おおぉぉっ! 爆砕撃ぃっ!」


「ヴォッ!」


 そしてヨウはカミーラの攻撃に呼応するように、斬られ痛手を負い隙を見せた魔神族の顔面へ拳闘技を叩きこんだ! その一撃の速さや重さに、まるで魔神の頭が爆ぜたかのように上半身だけが大きく吹き飛び、それこそ糸の切れた人形の様にその場へと倒れ込んだんだ!

 このLv20から使える拳闘技「爆砕撃」は、拳撃と闘気を併せた技とでも言おうか。闘気を込めた状態で、必殺の一撃を叩きこむ技で魔法剣に似ているだろうか。

 ただヨウの場合、込められたのは闘気ではなく……龍気! 尋常でない破壊力が魔神族の頭部を襲った訳だ。

 この2つの技で、この戦いは決着していたかも知れない。どちらもLv40の相手にも十分に有効な攻撃だし、実際に魔神族は倒れ込んで動かないからな。……それでも。


「闇に蠢き忌避されし禁忌の炎たち……」


 シラヌスは一気に、そして確実に息の根を止めるつもりだ! この魔法を選んだ(・・・・・・・・)ってのが何よりの証拠だしな。……って、この魔法は!?



「……我の召喚に応じ、その暗怨なる猛火を献上せよ。黒き焔火を以て、全てを略奪しろ。……暗き猛炎ケイマール・エスクリダ


 呪文を詠唱し終えたシラヌスが、バッと開いた掌を前へと付きだした! 未だ奴の眼前では濃緑の猛炎が渦を捲いているんだが、今のシラヌスはそんな事なんて気にすら掛けてないな。それと同時に、カミーラとヨウがバッとその場から大きく飛び退く。

 奴が魔法名を唱え終えたと同時に、まるで空間から滲み出る様に黒い……いや昏い炎が魔神族の身体に出現した! 出現した炎は徐々にその大きさを増し、ジワジワと魔神族の身体を侵食して行く! それは燃やすと言うよりも、まるで黒く塗りつぶして削り取っているみたいだ。

 だけどシラヌスの奴、今のレベルでここまでの魔法を使うなんてよっぽど魔神族を恐れているのか、それともかなり怒っているんだか。

 しかし、この魔法は恐るべきと言って過言じゃあ無いな。如何に能力を向上させている状態で魔の者と相性(・・・・・・)の良い闇魔法(・・・・・・)だからって、あの魔神族の強固な体を侵食し消去していくなんてな。

 こうしてカミーラ、シラヌス、ヨウと魔神族との闘いは、誰の目から見ても違い様がなく終結したんだ。


カミーラ達の攻撃、そして何よりもディディの活躍で、俺の隣での戦闘は終結した。

そして、残るは俺の眼前に立つ魔神族のみ……なんだが。

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