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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
8.退魔の者達
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善戦、そして……

聖女であるディディの魔法が魔神族へと放たれた!

果たして、その結果は……!?

 自ら作り出した数本の光の矢を、まるで狩人の様に弦を引き絞り射る構えをとったディディ。


「れ……霊光弓(フォスアルコ)っ! ですぅ!」


 そして彼女は、魔法名を高らかに告げると同時にそれらを放ったんだ!


「ドウッ!?」


 次の瞬間……本当に一瞬で、その光矢は違う事無く魔神族の胸に突き刺さった! 更にそれは、すぐに光子となり消え失せた!

 勿論、ただ消えちまった訳じゃあ無い。光の粒が気化するが如く中空に溶け込むと同じくして、魔神族の身体からも暗粒が発生し同じく霧散したんだ! 無論、その消えた部分は大きく抉れている!

 魔神族の悲鳴と同時、その部分から黒い液体が噴き出した! ……へぇ、魔神族の血は黒いんだなぁ。


「アノ小娘……アノヨウナ術ヲツカウノカ。……先ニ無力化シテオクベキダナ」


 それを目の当たりにした俺の目の前にいる魔神が、静かにそんな事を呟いていた。心なしか、その声音には驚愕が入り混じっている。


 ディディの使った神聖魔法「霊光弓」は、Lv10から使える術で決して強いと言う訳じゃあ無い。しかし幾つかの点で、今の彼女が使うには(・・・・・・・・・)問題があった(・・・・・・)んだ。

 まず1つ目は、言うまでもなくその魔法がLv10からの魔法であると言う事。

 この場に立って共に戦っちゃあいるが、本当のディディはまだLv3の駆け出しも良い処だ。本当なら、推定Lv40を超える魔神族を相手に出来る能力なんて無い。

 今は「実」の効果で能力が底上げされているからと言って、レベルの高い魔法を使えば負担は増大し、いずれはその負荷で倒れちまうだろう。


「……死霞の陣(ネブラモルテ)」「はあぁっ!」「おりゃあっ!」


 ディディの攻撃は、魔神族にダメージを与えただけじゃあなく大きな隙も作り出していた。そして、それを見逃すシラヌス達じゃあ無い。

 まずはシラヌスが魔法で魔神族の視界を奪い、それに乗じてカミーラとヨウが波状攻撃を開始したんだ!

 シラヌスの魔法も健常な魔神族には効果が期待出来ないだろうけど、痛手を負っている相手には期待出来る。

 カミーラとヨウの攻撃も、明らかに動きの鈍くなっている魔神族……しかもシラヌスの魔法で視界を妨げられている今なら、的確に急所を狙えるだけに効果が期待出来るんだ! ……まぁ、魔神族の急所が人族のそれと同じなら……なんだけどな。


「……霊光弓っ! ですぅっ!」


「ヴォヴォウッ!?」


 そしてそこへ、ディディの魔法の第2射が魔神族の身体に着弾した! 今度は、明らかに深手を負った声を発して更には片膝を付いたんだ!

 ……しかしディディの奴、無茶が過ぎるぞ。


 ディディの使った魔法「霊光弓」が問題ありなのにはもう1つ理由がある。それは、この魔法が「聖女にのみ(・・・・・)使える魔法(・・・・・)」であると言う事だった。

 それは少し考えてみれば分かる話で、如何に能力が底上げされているとは言え元のレベルが3程度しかないディディの攻撃が、どれほど魔族に効果の高い神聖魔法とは言えあれほどの痛手を与えるなんて考えられないからな。

 神聖魔法の攻撃には、Lv8から使える「光弓(アルコス)」と言う似たような魔法がある。同じく魔属性に対して効果が高いんだけど、その中身は正に似て非なるもので術者に掛る荷重は相当なものの筈だ。

 神聖魔法「霊光弓」は聖なる白色を発し、その攻撃は魔の者に対して決して外れず、更に何人もその軌跡を目で追う事は能わない。Lv10の魔法とは言ってもその効果は絶大であると同時に、それを使うには高い能力と負担を要求するんだ。


「は……はれ? ですぅ……」


 案の定、ディディは2射しただけで力尽きたのか、か細い声を出して片膝を突いた。気を失う……とまではいかなくても、本当ならこの場での彼女の役目は終わっただろうな。


「まだだ! まだ倒れるでない、ディディ!」


 そんなディディを、シラヌスが叱咤する。いや、これは激励か?

 兎も角彼は、まだディディに倒れられては困ると判断したらしい。そしてこれは、当然だろうな。

 恐らくここから、シラヌス達による乾坤一擲の攻撃が始まる筈だ。その中には、休んでいて良い人員なんて1人もいない。例えか弱くとも、戦力は多いに越した事は無い筈だからな。


「は……はいぃ……」


 それに呼応するようにディディも震える脚を励ますようにして、杖へと寄り掛かりながら立ち上がる。……中々の根性だ。きっと魔法を思い切り使えるのも、誰かに頼られるのも初めての経験で嬉しいんだろうな。


「おっと!」


 隣の戦闘に気を向けていた俺へ向けて、対面に立つ魔神族が硬質化した指を伸ばして攻撃して来た!

 でも残念だったな。俺も奴に気取られない様に距離を保っていたお陰で、ギリギリだけどその一撃を躱す事に成功したんだ。

 如何に隣の戦闘を気にしていたからと言って、目の前の脅威から意識を逸らす訳が無いだろうに。


「……チッ。貴様、見タ目通リノ実力デハナイナ?」


 そんな俺へ、魔神族は悔しそうな声を向けて来た。感情なんて無いって決めつけていたけど、ここまで露骨な台詞を吐かれちゃあそれが勘違いだったと認めるしかないな。

 さっきまで俺を完全な格下と見て余裕ぶっていた奴の纏う雰囲気が俄かに変わる。もう少し舐めておいて欲しかったんだけど、もうそんな事は言ってられないみたいだな。

 それでも、隣の戦闘は佳境に達してる。俺も、何としても時間を稼いでシラヌス達の援護を待つしかないからな。

 俺は意を決して、腰の袋に仕舞っている「リヒトの小薬」「マチスの小薬」を探った。今の俺が短時間でもこいつと互角に渡り合う為には、多少体に負担を掛けても過ぎた薬物(・・・・・)の力を使うより他は無い。……って考えてたんだけど。


「……何ヲ笑ッテイルンダ?」


 それを感じ取った(・・・・・・・・)俺は思わず笑みを浮かべちまい、それを見た目の前の魔神族が疑問の声を上げたんだ。


 結果として、そんな俺の不可解な行動(・・・・・・)が魔神族の動きを止める事になる。そしてそれは、そのまま僅かながらも時間稼ぎとなっていたんだ。


「……みんなっ! ここが〝正念場〟だっ!」


 隣の戦闘は終幕を迎えようとしていた。……どちらが勝つにしてもな。

 優勢なのは言うまでもなくシラヌス達だ。これまで誰一人大きな手傷を負う事も無く、対する魔神族には痛打を与えている。膝を付いているのも魔神族の方だ。

 しかし、根本的な強さの質(レベル)が全く違う。油断をすれば、僅かな優勢なんて一気に消し飛んでしまうだろう。

 シラヌスがカミーラとヨウ、ディディに声を掛けると、4人は示し合わせていたのか一斉に何かを口にした。それは、俺が彼等に渡してあった「小薬」なのは言うまでもない。さっきのシラヌスの台詞が合言葉だったんだろうな。

 だけどそれと殆ど同時、膝を付いている魔神族に異変が生じたんだ! いや、それを感じられたのは俺と……。


「……σφαγή(虐 殺) ηφαίστειο(の 炎)!」


 異常な魔力……いや、魔神力とでも言おうか。独特の神通力(エネルギー)を高めたと思ったその直後、魔神族は理解不能な言葉を紡いだ! 直後、奴の前面に3つの濃緑色をした球体が出現した! 

 初めて見る物体。しかしそれが単なる創り出された球状の物ではない事はこの場の誰もが察していた。

 創り出された球体の表面はまるで流体の様に渦巻き蠢き、周辺の景色を歪めて巨大な熱量を内包していると理解させられたんだからな!

 それが無詠唱で! しかも即座に顕現し攻撃可能状態となっている!

 これは魔神族の使う、魔神魔法とでも言おうか。そして、魔神力なんてものはこの人間界で感じる機会なんてそう簡単には訪れない。

 奴の発する独特の気配を読み取れるのは特別な修行を(・・・・・・)行った者(・・・・)か、それを経験した(・・・・・・・)事のある者(・・・・・)しか分からないだろう。

 だからだろうか。俺と……ディディは即座にその魔神族から距離を置く様な行動を取った。でもそれが分からない3人……カミーラとシラヌス、ヨウは突然出現した高圧力に動きを止めてしまった! 

 そして、それを見逃す様な今の奴じゃあ無い!

 何ら躊躇う事無く、魔神族は作り出した碧炎弾を3人に向けて放出したんだ!


カミーラ達の戦いはいよいよ終局を迎えていた……んだが。

当然だろうが、そのまま何も出来ずに殺られる魔神族じゃあ無い。

見た事も無い巨大な碧の火球を作り出し、奴は3人へ向けてそれを放ったんだ!

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