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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
8.退魔の者達
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攻略の糸口

カミーラとヨウ、シラヌスの同時攻撃を受けても、魔神族は健在だった。

もっとも、繰り出された攻撃は「ただの」連携技でしかなかった訳だけど。

それでも、全くの無傷ってのは……。

 シラヌスの牽制からの、カミーラとヨウに依る左右からの強力な一撃。殆ど防御なんて出来なかっただろう事を考えれば、倒せないまでもそれなりに手傷を負わせる事は出来たはず……だった。


「……おいおい、マジかよ」


「やはり……手強い」


 攻撃を仕掛けた本人たちは、大きくその場より飛び退き反撃に警戒している。それを見れば、さっきの攻撃で仕留められるなんて微塵も考えておらず、それどころか攻撃を返される事さえ想定していたと思われた。

 もっとも、2人を狙った攻撃はこず、魔神族はその場で仁王立ちのままだったんだ。カミーラとヨウにシラヌスは、その光景を見て息を呑んでいた。シラヌスのこめかみを流れる汗が、その心情を物語っていたってもんだ。

 魔神族の何事も無かったかのように佇むその姿を見れば、焦る気持ちが大きくなるのも頷ける話だろう。俺だって、膝を付くくらいの光景は想像しちまったんだからな。


「アノ程度ノ攻撃デ、我等ヲ倒セルトデモ思ッタノカ?」


 俺と対峙している魔神族が静かに口を開いた。……いやまぁ、口なんて無いんだけどな。

 でもその口調からは俺を……俺達を罵っているってのが嫌って程感じられた。もっとも、奴らに侮蔑された処で何も感じないんだけどな。

 同じ人族同士なら……いや、人でなくとも意思疎通が図れる相手なら、嫌味な言い方を受ければムカッとするし腹も立つ。

でも奴らは根本的に人じゃあ無い。見た目が完全に違ってるってのは勿論、表情も分からなければ考えている事も不明なんだ。それでどうやって意思を通わせるんだって話だよな。


「……畜生。ど……どうすりゃ良いんだ?」


 だけど俺は、少なくとも表面上はそんな気持ちなど出さない。攻撃が1度で決まり相手を倒せるなんて(はな)っから思っちゃいなかったんだけど、それを相手に(・・・・・・)気取らせては(・・・・・・)いけなかった(・・・・・・)

 そうする事で、俺達は〝無謀な攻撃を仕掛けた未熟な人族〟であると思わせ続ける必要があるんだからな。

 強さで言えば、明らかに魔神族が上だ。まともに戦えば、きっと俺達はアッサリとやられちまう。

 でも俺達には、最後の手段が残されている。アイテムを使って瞬間的に奴らの強さを上回れば、倒すかもしくは戦闘不能状態に陥らせる事が出来るかも知れない。

 そうなれば、またアイテムを使って異次元へ飛ばしちまうって先方も取れなく無いだろう。

 そして、それらのアイテムはそれぞれにもう渡してある。後は、使う絶好機を図るだけだ。

 だけどその為には、相手には最後まで油断しておいて貰わなくちゃならない。少しでも警戒されちゃあ、俺達の生存率が著しく低くなっちまうからな。


「今頃後悔シテモモウ遅イ。……ダガ、コノママ素直ニ降伏スルナラバ、我等モオ前タチヲ悪イヨウニハシナイ」


 俺の演技が効いたのか、それとも奴らの本性には慈悲の心も持ち合わせているのだろうか? 焦りの色を浮かべた俺へ向けて、そんな提案を持ち掛けて来たんだ。ハッキリ言ってこれは予想外と言って良い。

 無感情に抑揚が感じられない声音とその外見から冷徹な言動しか見出せなかったけど、実はそうじゃないのかも知れないな。意思を通わせられないって見解は、少し早計だったのかも知れない。……でも。


「ほ……本当か!?」


 最初からそんな条件を受け入れるつもりもないのに、俺は大げさにこの提案へ飛びついたフリをしたんだ。今の俺は、とにかく時間を稼がないといけないからな。


「我ラノ目的ハアノ娘……真宮寺ノ〝次期〟ヲ連レ帰ルコトニアル。殊更ニオ前タチト事ヲ構エルツモリハナイ」


 俺が奴の提案に賛同する素振りを見せたからだろう、奴は俺にとってとても耳触りの良い台詞を告げて来た。その表情……は無いんだけど、どこか奴の気は緩み部品のない顔が笑みを浮かべている様にさえ思える。

 でも、この魔神族の話には大きな裏……落とし穴(・・・・)がある。

 それは、奴は一言も俺達を(・・・・・・)助けると(・・・・)言っていない(・・・・・・)って事だ。悪いようにはしない……とは言っていたが、それが俺達を助命する話には結びつかない。

 若く経験の浅い者ならば、勝手に条件を(・・・・・・)曲解して(・・・・)信じてしまう処だろう。

 でも残念ながら、こちとら中身は酸いも甘いもある人生の荒波を乗り越えて上級冒険者に辿り着いた経験を持つおっさんだからな。そんな言葉遊び(・・・・)程度を鵜呑みにするほど初心(うぶ)じゃないんだよな。


「ドウスルノダ? 仲間ニ戦イヲ止メルヨウ呼ビ掛ケルナラ、待ッテヤッテモ良イノダゾ?」


 恐らく奴の心中では、ニンマリと笑みを浮かべて俺の答えを待っている事だろう。無論奴は、俺を完全に術中へ陥れたと確信しているに違いない。

 ところがどっこい、そうはいかないんだよなぁ。

 ただ、俺の方にも現状を打開する術がない。今は、出来る限り時間を引き延ばすしか出来ないんだ。

 俺は奴に促されると言う態で、ゆっくりと隣で起こっている戦闘に目を向けた。




 カミーラとヨウが、魔神族と絶妙の距離を保ちながら戦っていた。彼女達の間合いは、所謂「何があっても対応できる距離」だ。

 近過ぎれば、相手の攻撃を躱すのもこちらが攻撃するにも窮屈となる。とは言え、離れすぎればレベル差のあるこちらが不利であり、例え回避が出来ても反撃とまではいかないだろう。


「はあぁっ!」「つああぁっ!」


「フンッ!」


 激しく動き回り2人で魔神族を翻弄した上で、カミーラとヨウは示し合わせた様に左右から同時に攻撃を仕掛けた。同レベル帯……いや、多少レベルが上の冒険者であっても今の攻撃を受けて無傷だった筈はない。

 しかし如何せん相手の方が強すぎるのか。魔神族は双方の攻撃をそれぞれ二の腕で受け止めて見せたんだ。硬質な金属を打ち鳴らしたみたいな音が鳴り響く。

 それでも、カミーラとヨウは動きを止めずに攻撃を続行しようと試みたんだけど。


「カミーラッ! ヨウッ!」


 そこへ、後方からシラヌスが大声で呼びかけた。普段は寡黙と言って良い奴にしてみれば、驚くほどの声量だろう。

実際に、前衛の2人は僅かに驚きを露わとすると、次の瞬間には大きく後退していたんだ。特にシラヌスが指示を出した訳じゃあ無いけど、今は戦闘に集中しているのもあって意思の疎通が図られてるんだろうな。

 それを表すように、下がった2人は目でシラヌスに問い掛けていた。


「……どうするのだ?」「どうするんだよ?」……ってな。


 実際、彼女達の通常攻撃では陽動が精一杯、攻撃を当てても今の能力じゃあ(・・・・・・・)手傷を負わせる事が出来ないときている。それは、シラヌスの魔法を以てしても同様だろう。

 でも、この場で〝魔の者〟に効果を及ぼす魔法が使える者が1人……いる。


「……ディディ。お前は確か『聖女』だったな」


 相対する魔神族から視線を外す事無く、シラヌスはディディへ向けて話し掛けた。小さな声だったが、そこには有無を言わせぬ重圧が込められている。

 そしてその威をもろに受けて、ディディは声も出せずに激しく頭を振って答えていた。


「ならば次は、お前がカミーラとヨウに合わせて攻撃してみよ」


「え……えぇっ!?」


 でも、流石にシラヌスから齎された指示には驚きの声を上げざるを得なかったみたいだ。そしてそれが、いらぬ介入を招く。


「くぅっ!」


「そりゃあ、こっちの都合には合わせてくれないわな!」


 それまで沈黙を守っていた魔神族が、硬質化した指を伸ばして来たのだ。かなり速い攻撃だったが、距離を取っていた事が幸いだったんだろうな。3人はそれぞれにその場から飛び退いて事なきを得ていた。

 しかし、その攻撃も1度で終わりって訳じゃあ無い。標的をカミーラとヨウに定めたのか、執拗に2人を繰り返し襲い、彼女達も何とか避けるので手一杯となっていた。


「ディディッ!」


 そこへシラヌスの檄が飛ぶ! 悠長に彼女の決断を待っている場合でないのは、奴が一番良く分かっているんだろう。


「は……はいぃですぅっ!」


 そしてその迫力に気圧されたのか、ディディは大きく返事をすると杖を持つ右手と広げられた左掌を魔神族の方へと付きだした!


「か……輝ける愛しき御方に願い奉るですぅ。魔を裂き邪を滅する神弓を貸し与え給えなのですぅ……」


 そして慌てながらも、間違える事無く呪文を唱えきったんだ! ……って、ディディ! その魔法はっ!

 何て思考を最大限に回転させている間にも、まるで射手の様に構えたディディの胸の前には、光を放つ白色の矢が数本出現していた!


「れ……霊光弓(フォスアルコ)っ! ですぅ!」


 そしてディディは、そのままそれを魔神族へ向けて放ったんだ!


満を持してって話じゃないけど、ディディの攻撃が放たれた!

果たして、その魔法は魔神族に効果を及ぼすのか!?

そして、俺達に打開策は……!?

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