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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
7.光る海の闇徒
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呉越同舟6―総力戦―

足を止めて気を練るグローイヤ。

そしてそんな彼女を援護するように、マリーシェ達は奮戦する。

「あああぁぁっ……!」


 気勢をどこまでも……どこまでも高め続けるグローイヤ。戦場で足を止めて気力を高めると言う行動は、一種の自殺行為でしかない。……本来ならば。

 それでも彼女が、周囲を気にせずにそれが出来ているのは。


「もうっ、まだなのっ!?」


 周囲に群がる突撃魚(バッシュベス)を薙ぎ払いグローイヤを護る様に奮戦するマリーシェと。


「……旋転、旋回、渦を捲け。腔綫(こうせん)より打ち出し敵を貫け。……螺炎乱弾(パルマ・ソノーバル)


 複数の小型の炎塊を出現させ、高速回転により貫通力を上げた魔法を発動させ攻撃するサリシュ。射貫かれた魔物はその場で発火し、こんがりと丸焼きになり横たわる。

 広範囲魔法で一気に薙ぎ払わないのは、グローイヤを巻き込まない配慮と言えた。


「ん……んん……。これは……凄いわぁ……」


 そして、強力な魔法により蟹烏賊を1人で足止めしているスークァヌのお陰であった。

 只管魔力を放出し術を持続させ続けるスークァヌの労力は相当なものだと、同じ魔法を使う者としてサリシュは理解していた。

 それでも彼女は、スークァヌに声を掛けたりしない。それは何も、彼女とサリシュが反目状態にあるからと言う訳ではなかった。

 サリシュでなくとも、この状況で誰が一番重要なのかは言うまでもなく分かる話だ。最も厄介だと思われる魔物を単騎で足止めしているという事実は、マリーシェやサリシュにとって非常に助かる話でもあったからだ。

 ここでスークァヌに魔法を止める様に言うのは愚の骨頂だろう。……少なくとも、彼女の意思でそれを止めない限り。

 それが分かるマリーシェとサリシュだからこそ、スークァヌには何も声を掛ける事無く他に群がって来る魔物の駆逐に専念していたのだった。

 もっとも。スークァヌの方はもしも制止されても止める事は無かっただろうし、もしかすれば倒れるまで魔法の行使を続けていたかも知れない。


「ああああぁぁぁっ!」


 しかし幸いと言って良いだろう、そうなる事は無かった。グローイヤが一際大きな声を上げたかと思うと。


「あっははぁ……。待たせたねぇ」


 準備を終えたのか、不敵な笑みを湛えて武器を構えたからだ。


「ちょ……あんた……」


「……エグぅ」


 ただし、そのグローイヤを見たマリーシェは絶句し、サリシュは思わず辛辣な言葉を吐いていたのだった。

 それもそうだろうか。今のグローイヤは「筋力増強(バンプアップ)」の効果を得て、まるで「森の賢人」と言われている類人猿を彷彿とさせる姿となっていたのだから。

 いや……それも少し違うだろうか。グローイヤの身体は確かに二回りほど大きくなっているのだが、膨張しているのは筋肉の部分だった。はち切れんばかりの怒張を見せる筋肉とそうでないこれまでの部分とが異様なギャップを見せて、マリーシェとサリシュの感想に至っていたのだ。

 そんなグローイヤへ向けて、間隙を縫ったカブリカラマルの腕が伸びる。本体はスークァヌの魔法で抑え込まれていても、触手まではその限りではない。

 まるで槍に見立てたかの如く先端を硬直させ、串刺しにせんばかりの勢いで彼女へ向けて突出したのだ。


「そぅらぁっ!」


「う……うっそぉ……」「……マジかいな」


 グローイヤはそれを、空いている左手でいとも簡単に掴み止めたのだった。

 さらにグローイヤは、その掴んだ軟体腕へ向けてそのまま右手の巨斧を振り下ろした。これまでは体表で半ば弾かれるようだった一撃だが、今度は容易く切断に成功していた。これにはマリーシェとサリシュも絶句するより他は無い。


「……ふん」


 先ほどまでと明らかに変容しているその攻撃力だが、全く代償が無いと言う訳ではなかった。蟹烏賊の腕を掴み止めた腕橈骨筋(わんとうこつきん)から、その腕を斬り落とした斧を持つ上腕二頭筋からも血が噴き出していたのだ。無論それは、怪物に傷つけられてのものでは無い。


「おらっ! あんまり時間(・・・・・・)無いんだから(・・・・・・)、ちゃっちゃとやるよぉっ!」


 それを冷静な冷めた目で確認したグローイヤは、正確に状況を(・・・・・・)確認して(・・・・)声を上げた。それと同時に、彼女は掴んでいたカブリカラマルの腕を投げ捨てて動き出す。


「わ……分かってるわよっ!」


 グローイヤの檄に刺激されたのか、動きを止めていたマリーシェも彼女に追随する。そして再び、戦いの場が動き出した。


「バーバラッ、セリルッ! ここはもうええから、あいつの牽制に回ってっ! でも絶対踏み込み過ぎたらあかんでぇっ!」


 それを感じ取ったのはサリシュも同様で、すかさず傍らにいたバーバラとセリルへ指示を出した。サリシュに至っては、グローイヤの「時間が無い」と言う意味をも正確に看破していたようだった。

 だからだろう、蟹烏賊への戦闘にバーバラとセリルの2人も参加するように伝えたのは。


 元々グローイヤの「筋力増強」は、所謂「実」と似たような効果を齎す。既に「実」の効果により各種攻撃力が増大している状況で「筋力増強(バンプアップ)」を使うと言うのは、つまりは効果の重ね掛けに等しい。

 実のところ、こう言った使用方法は中級冒険者より上位の者達は活用しており、別段目新しい用法では無いだろう。しかしまだ下級の域を出ないグローイヤ達はその様な話を未だ知り得ていないし、何よりも「実」を使った事は今回が初めてだ。故に、その結果が齎す〝負荷〟の重さなど知りようも無かったのだった。

 それでもグローイヤは実際に自身の身に起こっている変調を確りと把握していたし、マリーシェとサリシュもそんな彼女の明らかな異変に気付いていたのだ。


 サリシュの指示を受けて、バーバラとセリルがそれぞれ「実」を口にしてカブリカラマルに肉薄する。


「……はぁっ! 烈風突き(ランケア・ベント)っ!」


 そしてバーバラが、ウネウネと群がる複数の腕に対して槍技「烈風突き」を繰り出した。不慣れならば溜を必要とするこの技も、バーバラはそれほど隙を晒す事無く発現させ迫りくる腕を迎撃していた。この辺りは、流石の戦闘センスだと言えるだろうか。

 しかし残念ながらレベルがこの蟹烏賊と戦うまでには達しておらず、その攻撃は腕に僅かな傷をつけるか押し返すに留まっていた。

 もっとも、彼女自身もこの結果は織り込み済みだったろう。元よりバーバラの役目はサリシュの言う通り牽制目的なのだから。


「おおおぉぉっ! 破砕衝(スバオ・ベガル)っ!」


 それはセリルも同様だったはずなのだが、彼の方はそうと考えていない様だ。バーバラの攻撃で動きを止められてしまった無数の腕に対して、渾身とも思える一撃を放っていたからだ。

 バーバラの槍が付けたものよりは深い傷を残すところは流石に戦斧技と言って良いだろうが、それでも切断するまでには至らない。砂爆を巻き起こし更に複数の腕を押し戻すだけしか出来ないでいた。


「くっそぉっ!」


 その結果に、セリルは大層不本意なようで慙愧(ざんき)の言葉を発していた。それはそのまま、次撃の行動に繋がっていたのだが。


「セリルッ! 深追いするなっ!」


 普段では聞けないようなバーバラの鋭いの声で制止を余儀なくされていた。


「……ちぇ。分かったよぉ」


 そしてここまでハッキリと止められては、彼もそれに従わない訳にはいかなかった。渋々……と言った態だが、セリルは一旦大きく後退して距離を取った。


 この2人の攻撃は、最接近を果たしているマリーシェに大きな援護となっていた。何かを狙い後方へと回り込んだグローイヤを援護する為、彼女もまた蟹烏賊の意識を引き付けるために奮戦する。


「はあぁぁっ! 緋炎斬りぃシャマ・エスカラーチェっ!」


 至近に存在した2本の腕へ目がけ(・・・・・・・・)マリーシェが魔法剣の(・・・・)連撃を放ち(・・・・・)、新たに斬り落とされた2本の腕がその場でのたうち回る。


「……アホゥ。……無茶してからに」


 それを見たサリシュが、心配そうな顔で独り言ちた。

 マリーシェのレベルでは、本来魔法剣はまだ使えない。彼女が技を放てるのは、偏に「実」によって能力を底上げしているからに過ぎないのだ。

 つまり実際には無理をして繰り出している攻撃であり、一撃を見舞うのも相当の体力や魔力を消費する。マリーシェはそれを連続で放ったのだからサリシュが不安となるのも当然だった。

 案の定、攻撃を終えたマリーシェはその場で片膝をつき息を荒げていた。限界を超えた動きで、一気に消耗したのだ。

 それでも、その攻撃には意味があった。十分に時間を稼ぐ事に成功したのだから。


「よくやったぜぇ、マリーシェッ!」


 完全に魔物の死角へと回り込む事に成功したグローイヤが歓喜の声を上げた。


「……ふん。……えら……そうに」


 そんなグローイヤへ息も絶え絶えに悪態をつくマリーシェだが、その時彼女は勝利を確信していたのだった。


「筋力増強」を終えたグローイヤは、驚くべきパワーを見せる。

最大攻撃に向かう彼女の為にマリーシェ達は奮闘し、そのお陰でグローイヤは目的の場所へと辿り着いた。

いよいよ戦いは決着へと動き出す。

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