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嵌められ勇者のRedo Life Ⅲ  作者: 綾部 響
7.光る海の闇徒
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呉越同舟5―一気攻勢―

ここぞとばかりに、マリーシェが後方のサリシュへと声を掛ける。

それに呼応して、サリシュも行動に移した。

2人は、殆ど同時に「実」を口にしたのだった。

 マリーシェは後方にいるサリシュの名を叫ぶと、そのまま自分はアレクより貰った幾つかの「実」を口にして一気に呑み込んだ。サリシュへは、何を……と言った指示は無い。しかしマリーシェの声だけで十分に通じているようで、殆ど同じタイミングでサリシュも「実」を口にしたのだった。

 マリーシェが摂取したのは「ボデルの実」「ドゥロの実」「ベロシダの実」。サリシュの物は「マジアの実」「エチソの実」「アクルの実」で、それぞれその希少種(レア)に当たるものだ。通常の物よりも、レアの物は齎される効果が段違いに高い。

 これらの実は攻撃力やら防御力に素早さ、魔法の攻撃力や効果に影響を与える。


「はああぁぁっ! 煉獄斬(ブルガトリオ)っ!」


 その恩恵を受けて、マリーシェは早速〝魔法剣〟を発動させて一撃を見舞った。本来この技は、今の彼女には使えるものでは無い。だが「実」の恩恵を受けて、今だけは使える事(・・・・・・・・)をマリーシェは以前の戦いで(・・・・・・)知っていた(・・・・・)

 現在彼女が使える中では、最高の攻撃力を誇る剣技だ。


「よしっ!」


 そしてその攻撃は、腕の1本の先端を斬り落とす事に成功した。これまでは表皮で刃が食い止められていた事を考えれば、その効力は抜群だと言って良かった。

 腕に痛覚が通っていないのか、カブリカラマルから悲鳴は起きなかった。それでも、僅かでも腕を斬り落としたという事実には変わらず、間違いなくダメージを与えていると言えた。


『……2人とも、ちょっと下がりぃ』


 マリーシェが攻撃を終えたのを見計らっての直後、サリシュの声がマリーシェとグローイヤに届いた。それを聞いた瞬間、2人は反射的に後方へと飛び退く。


「……炎熱竜巻(イサール・シャマ)


 それに呼応するように、既に詠唱を終えていたサリシュの魔法が発動する。巨大な火柱が魔物の全身を呑み込んで出現した。


「ギュキュウゥッ!」


「……へぇ!」「……まぁ」


 流石に全身を焼かれては無痛と言う訳にはいかないのだろう、カブリカラマルは苦痛と思われる声を上げた。

 先手を打ったサリシュの雷属性魔法「雷槍(トルエノ・ハルバ)」でも、ここまでのダメージを与える事は出来ていなかった。同レベル帯の魔法……しかも特効のある雷系よりも炎系である「炎熱竜巻」の方が手傷を負わせていると言う事にグローイヤも、そしてスークァヌも驚きを隠せないでいた。

 各種の「実」を口にしたサリシュの魔法攻撃力がそれだけ上がっている証左と言って良かったからだ。


「なるほどっ! そういう事かよっ!」


 嬉しそうな台詞を口にしたグローイヤは、彼女もまた所持していた「実」を摂取した。それと同時に、一気に蟹烏賊との距離を詰める。


「そぉおらぁっ!」


 先ほどと同じように大きく振りかぶり、グローイヤは力を込めて愛斧を振り下ろした。


「おおっ!?」


 そして彼女は、思わず驚きの声を上げていたのだった。

 グローイヤの攻撃は魔物の腕の1本の根元に直撃し、そのまま切断に成功した。やはり腕には痛覚が通っていないのか、その事にカブリカラマルが鳴き声を上げるような事は無い。ただ切断された腕が、ウネウネとのたうち回っていただけだった。

 グローイヤが驚嘆したのは、攻撃の結果に対してではない。彼女が感嘆したのは、自分の攻撃力が実感出来るほどに向上していたからだった。

 手に持つ武器の重さ、振り下ろす速度、力の乗り具合やそれに伴う切れ味など。兎に角攻撃に対する動き全般が、先ほどまでと比べて格段に上がっていたのを体感したからに他ならなかった。

 そしてそれは、近くで見ていたマリーシェやサリシュも分かるほどに違うものだった。明らかに強さが増大したグローイヤの動きを見てマリーシェは絶句し、サリシュは目を向いて驚きを露わとしていた。


「なるほどなっ! これならいけるぜぇっ!」


 そして誰よりも、グローイヤがその手応えを感じて歓喜していた。これまで攻撃を弾かれる……とまではいかなくともあまり効果的でなかった事を考えれば、彼女が喜び勇むのも当然だろう。


退け(フージー)我が前に(クロコス)立ちはだかる事(トレーヴォ)能わず(マーク)。……空撃(アーエール)


 それと呼応するように、サリシュの隣ではスークァヌが静かに、そして素早く呪文を唱えると、左掌をカブリカラマルの方へと向ける。その直後。


「うわっ!?」


 マリーシェとグローイヤの眼前で、蟹烏賊の巨体が大きくブレた……後退したのだ。これには、声を出さなかったもののグローイヤも驚きの表情を浮かべていた。


「うっふふ……なるほどねぇ。この『実』の効力で、ここまで魔法の効果が上がるなんてねぇ」


 それはサリシュも同様であったが、スークァヌの独白を聞いて彼女が何をしたのかを理解していたのだった。

 とは言え、魔法使いであるスークァヌの行動などは、今更本人に聞くまでもない話だ。だがそれほど魔法の行使に集中した訳でもないのに、現れた効果は強力だったと言う事実に誰もが驚きを隠せなかっただけであった。


「これなら、意外に容易く倒せるかも知れないわねぇ。……グローイヤァ」


 当のスークァヌはと言うと、自身の発動した魔法で納得したのか戦いの趨勢に確信を得ていた。そしてそのまま、グローイヤへと声を掛ける。

 先ほどのサリシュの様に「拡声(ヴァース)」を使った訳でもないのに、その声は驚くほど通り前方のグローイヤの元まで届いた。


「ああっ、分かってるよっ!」


 そしてそれを聞いたグローイヤもまた、この戦いの終結に自信を持ったのだろう。


「はああぁぁっ!」


 彼女はその場で、足を止めて力を籠め始めたのだ。


「な……何をするつもりなんだよ!?」


 それを遠目に見ていたセリルだが、グローイヤの高める気迫に気圧されてか震えた声でそれだけを呟いた。バーバラも同様の気持ちなのだろうが、彼女は声を出さずにただ息を呑んでその様子を見つめるに留めていた。


「ちょ……ちょっとぉっ!」


 ただマリーシェとサリシュにはグローイヤが何をしようとしているのか分かっているようだった。マリーシェは動きを止めたグローイヤを狙うカブリカラマルの腕を、強化された技と動きで何とか防いでいたし。


「……雷槍(トルエノ・ハルバ)


「ギュギュゥッ!」


 サリシュは援護射撃とばかりに雷撃系魔法を放っていた。先ほども同じ魔法を使用していたサリシュだが、今度の魔法では明らかに魔物はダメージを負っていた。倒す程ではないにしろ、それだけで牽制と時間稼ぎになる。


「いいわぁ……いいわねぇ。この力……もう少し試したくなっちゃったわぁ」


 準備の為に立ち止まっているグローイヤの援護を行うのは、何もマリーシェ達ばかりではなかった。スークァヌは恍惚とした表情で満足そうに呟くと。


聖圧(バッルード)天におわす(ロートス)我らが神よ(バンデス)その吐息を彼の者に(アルグドブラナロ)溢れんばかりの聖息は(オクホワーン)我が敵を取り込み(ジャシント)動きを奪わん(グリフィナ)。……重縛(エンダフィ・ティオー)


 すらすらと長い呪文を違う事無く唱えきり、そのまま先ほどと同様に掌を蟹烏賊へ向けて付きだした。


「ギュ……ギュウゥ……」


「な……何や、あの魔法!?」


 その途端、カブリカラマルはまるで上方から見えない何かに押さえつけられているかのように、その場で(ひしゃ)げだしたのだった。初めて見る、知り得ない(・・・・・)魔法を目の当たりにして、サリシュは思わず驚きの声を上げた。


 サリシュは魔法の知識に関しては貪欲で、自分ではまだ使えないレベルの魔法も色々と調べていた。それだけではなく、既にレベル50までの魔法については、その効果や呪文なども暗記するほどであった。

 そんな彼女でさえ、スークァヌの使った魔法は記憶のどれにも当てはまらない。彼女が驚嘆の声を上げるのも当然だった。

 そして、サリシュがその魔法を知らなかったのもまた当たり前だと言えるだろう。

 スークァヌは所謂「邪教の信徒」と言う位置づけに居る。辺境ならばそうでも無いだろうが、サリシュ達が活動している地域はまだまだ女神フェスティスを主神と崇めるゴッデウス教団のお膝元であり、他の宗教の情報など入って来ないのだ。仮に伝わって来たとしても、すぐに排斥され抹消される事になるのは間違いがない。


「ふ……ふふふ。良い……良いわぁ……。もっと……もっとよぉ……」


 そんなサリシュの思案をよそに、スークァヌは付きだした左手の肘を右手で支える様に持ち、愉悦の表情に汗を浮かべ妖艶な声で独り言ちていた。それだけを見れば、彼女が今使っている魔法は強力なだけに掛かる負担は相当なものだと理解出来る。

 もっとも、スークァヌはそんな状況に喜び満足している様にしか見えなかったのだが。


「ま……まだ効果が続くん!?」


 そして、更にサリシュを驚かせたのは魔法の持続時間でもある。

 サリシュの知る魔法は、発動すれば規定時間内だけ発現し、その後は消え失せる。防御や回復系ならばその限りではないが、攻撃系の魔法は至極短時間だけ出現し消失するものが殆どなのだ。

 しかしスークァヌの使用している魔法は、その兆候が表れない。そして、スークァヌも苦悶の表情が収まらなかった。

 そこからサリシュは、スークァヌが魔力を放出し続けている間は効力が持続すると推測し、その考えは間違っていなかったのだった。


グローイヤに続いて、スークァヌも「実」の効力を得て攻撃を仕掛けた。

そして、その効果に満足し喜悦していた。

そして4人は、一気に攻勢へと転じてゆく。

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