82.事件の終幕(ユリウス目線)
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「兄上っ!!」
ゆっくりと開いた目に太陽の光が差し込み思わず目を細める。
手で目を覆うように隠せば、それに気づいたウィルの声が聞こえた。
「兄上!よかった……、本当に、よかった……」
見慣れた部屋、体に馴染んでいるベッドの感覚。
ベッドの横には僕の顔を覗き込むようにウィルが立っていて、その目には涙を溜めていた。
身体を起こそうと手をつくも、力が入らず体制を崩しかけたところをウィルに支えられる。
「大丈夫ですか?まだゆっくり休んでください」
「あぁ、ありがとう、ウィル」
ウィルに支えられながらベッドの背に体を預ければ体の至る所に痛みを感じるが、まずは自分が生きていたことに小さく息をついた。
「ウィルも無事でよかった」
「はい。兄上のおかげです。ありがとうございました」
「ティアは……?」
そう尋ねればウィルは少しだけ目を大きく開き、その表情に影を落とす。
「まだ、目を覚ましていません」
「……そうか」
なんと言えばいいのか分からなくなった。
ティアがまだ目を覚まさない。それだけでこんなにも心が苦しくなる。
ウィルの話によれば僕を助けてくれたのはアルフレッド殿下だという。
魔力が底をつき意識を飛ばし倒れたあと、子供たちは救助に来た兵たちによって外に連れ出されたらしい。
そして危険を顧みず僕を助けに来てくれた父上により外へと運ばれようとした時、ずっと悲鳴を上げていた天井がとうとう崩れ落ちた。
……のだが、タイミング良く駆けつけてくれた殿下の魔術により僕は無事外へと連れ出されたらしい。
その後、ガンバッタロー伯爵はじめ今回の件に関わっていた貴族やゴロツキが芋づる式に判明し捕まったそうだ。
それはもちろん、ガンバッタロー伯爵の娘であるモリンナも。
そして今回の誘拐については、隣国のリオライト殿下とアルフレッド殿下により箝口令が敷かれた。
それはどうやら侯爵令嬢であるティアの今後の為らしい。
『拐かされた』
たったそれだけの一言で貴族令嬢の未来は真っ暗になる。
たとえ何もされていなくてもあることない事噂され、好奇な視線に晒されることとなる。
だからこそ殿下はこの事実を隠そうとした。
例えそれが、ティアに対する殿下の気持ちの都合だとしてもこれ程有難いことは無かった。
そしてあの日から1週間、僕は無くなった魔力を回復するかのように眠りについていたらしい。
いつの間にか自分の家へと帰ってきていて、その間ウィルは僕とティアの部屋を何度も行ったり来たりして看病してくれていたそうだ。
「このまま兄上が目を覚まさなかったらと思うと、僕は……」
「すまなかった。ティアを連れ出してくれてありがとう」
きっと僕を置いて先に外へと出てしまった事を後悔しているのだろう。
ティアを死んでも守ると約束し、その約束をきちんと果たしたウィル。兄として、同じ男として尊敬に値するというのに。
そっとウィルの後頭部に手を回し、ゆっくりと自分の方に引き寄せる。
「あっ、兄上っ!?」
「ウィルが弟で、僕はすごく誇らしいよ。心配かけてすまなかったね」
ポンポンと軽く手を動かせば、ウィルの肩が小刻みに震える。
きっとこの一週間、僕もティアも目を覚まさなくて、不安や責任を全部一人で背負っていたのだろう。
強くなれ。これまでそう教えてきた。
守りたい者を護るためには強くならなければならない。
それでも、今、この時だけは見なかったことにしようと頬を少しだけ緩ませた。
20211214.
7ヶ月です。
いつも支えて下さる読者の皆様に感謝を。




