76.【SS】世界一平和なお菓子討論(?)会
ブックマーク&作品評価ありがとうございます。
感想もありがとうございます!!
「それじゃあ始めようか。」
「はい。」
「はい。」
静かな部屋にお兄様の声が響く。それに続いて私、ウィルの順番で返事をする。
いつもとは違いどこか暗く、怪しい雰囲気で丸いテーブルを囲む私たち。
「それじゃあ、せーので」
「わかりました。」
「はい。」
ゴソゴソと音を立てながらあるモノを取り出す準備をする。
そして――
「せーのっ」
お兄様のその言葉に私たちはいっせいに机の下に隠すように持っていたモノをテーブルの上にトンっと乗せた。
あるモノ。その正体とは……――
「私はマカロンを持ってきましたわ!」
「ま、かろん?」
「ティア、マカロンとはなんだい?」
「マカロンとは卵白と砂糖で作ったお菓子ですわ。サクッとした軽い食感のお菓子ですの」
「すごい……カラフルですね」
「えぇ!赤色はイチゴ、黄色はレモン、緑は葉野菜、茶色はチョコレートで色付けされてますの。」
「へぇ、すごいね。こんなお菓子があったなんて初めて知ったよ」
マカロンを前に感心するお兄様とウィル。
前世の知識です。なんて言える訳もなく、アハハと苦笑を貼り付け言葉を濁す。
「次は僕だね。僕はこれ。チョコレートケーキだよ」
「チョコレートケーキ!すごい、美味しそうですわね!」
「ティアはチョコレートが好きだもんね」
「はい!大好きです!」
「これは兄上が……?」
「いや、ティアを真似て自分で作ってみようと思ったんだけどね。僕にはどうやら才能がなかったらしい。」
「ということは、ヴィーおじ様ですか?」
「うん。あ、でも組み立てとか仕上げは全部僕がやったんだよ。だから全部おまかせって訳じゃないからね。」
机に置かれた明らかに3人では食べきれないほど大きなホールケーキ。
美味しそうなチョコレートクリームがふんだんに使われていて、スポンジにチョコレートクリームを塗ったあと、溶かしたチョコでオシャレにコーティングされているデザイン性のあるケーキ。
才能ないって言うけれど、見た目はプロが作ったものと大差なく、お兄様がじぶんでやったと言わなければプロが作ったものだと勘違いしたままだったであろうオシャレなデザイン。
お兄様、恐るべし……
やはりお兄様はなんでも出来ちゃうらしい。もしかしたらやり方さえ分かればスポンジも1発で成功させてしまいそうだ。
そんなお兄様の器用さに、思わず口を開けたままボーッと目の前にあるケーキを見つめる。
「早く食べたい?」
「いっ、いえ!ただ、美味しそうだなって」
「ふふっ、きっと美味しいよ。2人の事を想って作った愛情たっぷりのケーキだからね。」
柔らかい笑顔を浮かべながら、いつも通りサラッと恥ずかしい言葉を恥ずかしげもなく言うお兄様。
なのになんだか私は、食い意地を張ってるみたいになってしまって少しだけ恥ずかしくなる。
「では、最後は僕ですね。僕はこれです。」
「うわぁ、バターのいい香り」
「すごいね、これウィルが作ったのかい?」
「はい。クッキーは僕が一番好きなお菓子なんです。」
「ウィルもとても器用なのね。こんなに美味しそうに作るだなんて……」
「でもやはり、僕は姉上が作ってくれるクッキーが一番好きです。」
「ふふっ、ありがとう。なら今度一緒に作りましょう」
私がそう言うとウィルは嬉しそうに目を開いて「はいっ!」と答えた。
テーブルの上からはチョコレートの甘い匂いやバターのいい香りが漂っている。
今日はきょうだい三人の仲をより深めるため、『それぞれの一番好きなお菓子を自分で作って一緒に食べよう』というお兄様の言葉により生まれた、世界一平和なお菓子討論会の日だ。
本来、侯爵家の者、特に男性がキッチンに立つなんて絶対にありえない。
それは私にも言えることなんだけど……。
でも、やはり私の家族は貴族だけど貴族らしくないらしい。お兄様自ら『全部じゃなくてもいいから必ず自分の作業も入れる事!』という条件を出してキッチンに立っていた。
それを見たお父様とお母様は、そんなお兄様を凄い形相で怒った……りすることもなく、むしろ楽しそうにその姿を廊下から覗き見していたのを私は知っている。
いい意味で、貴族らしくない。だからこそ私は自分の家族が大好きなんだけれど。
「じゃあ食べようか。」
「はい!」
「はい!」
お兄様の言葉を合図に私たちは自分のお皿にお菓子をホイホイと移動させる。
ケーキに関しては、お兄様自ら切って下さり私とウィルのお皿に盛り付けてくれた。
ケーキってお皿に移すの難しいのに……、やっぱりお兄様はなんでも出来ちゃうのね。
まるで元々そこにあったかのように綺麗に盛り付けられたケーキ。
私がやったら確実にパタンって横に倒れたり、お皿の至る所にクリームがついたりして汚くなるのに、お皿は綺麗なままだ。さすがお兄様。
と、ひっそりと感心していている横で、ウィルが驚いたように声を上げた。
「美味しいです!」
その手には半分残ったピンク色のマカロン。
どうやら初めて食べるマカロンに驚いたようだ。
「本当?それは良かったわ。」
「こんなお菓子初めて食べました!」
「んっ、本当だね!とても美味しいよ、ティア。
でもこんなお菓子よく知っていたね。僕も初めて見るよ」
前世でよく作ってましたー!なんて言える訳もなく、マカロンを生み出した人には申し訳ないけれど誤魔化させてもらう。
「以前読んだ本に出てきていたんです。それを参考にして作らせていただきました。私も初めて食べた時は驚きました」
「そうだったんだね。世界にはまだまだ僕らの知らない美味しいお菓子があるみたいだ」
「また作ってくださいますか?」
「もちろん!お兄様とウィルのためならいつでも作るわ!」
そう言いながら私もウィルのクッキーを口に運ぶ。サクッとした食感の後に口全体に広がるバターの香り。
「美味しいっ!ウィルの作ったクッキーもとても美味しいわ!私の作るクッキーより美味しいかもしれない!」
「そ、そんなことありません!姉上のクッキーが世界一美味しいです」
「ほんとだね、すごく美味しい。僕はティアのクッキーもウィルのクッキーも両方とも大好きだな。」
「あ、ありがとうございます……」
お兄様の褒め言葉にウィルは嬉しそうに口を緩ませてそれを隠すように下を向く。
どうやらまだ褒められるのは慣れていないようで、緩んだ顔を見られるのは恥ずかしいらしい。
そんなウィルを微笑ましく感じながら今度はフォークを握りお兄様の作ったチョコレートケーキを一口口へと運ぶ。
口に入れた瞬間柔らかな食感のスポンジとチョコレートクリーム、それからほんの少しだけパリッとした溶かしたチョコの食感が感じられ、程よいチョコレートの甘みが口いっぱいに広がる。
「甘すぎず、でも苦すぎず、とても美味しいですわ!」
「本当?ティアの口にあったようで嬉しいよ。」
「本当だ、とても美味しいです!」
「それは良かった。2人に喜んでもらえて僕は嬉しいよ。」
正直、お兄様とウィルの作ったお菓子は私が作るよりも美味しいかもしれない。
それに対し嫉妬心がない訳では無い。でも、こうやってきょうだい三人で楽しい時間を共有できる事ほど素敵な事はないとも思う。
嫉妬や負の感情は誰も幸せにならない。むしろ、それらの感情は人に伝染しやすい。
だから私は負の感情を伝染させるくらいなら、幸せな感情を共有したいと思う。
だって絶対、幸せな気持ちの方が日常を楽しくしてくれると思うから。
「美味しかったです!是非またやりましょうね!」
思い思いに自分の好きなお菓子のどこが好きかなどを話し合いながら、相手の作ったお菓子を食べて幸せになる。
私がそう言えば、お兄様もウィルも笑顔で首を縦に振ってくれた。
それが嬉しくて。
今度こそお兄様やウィルに負けない美味しいお菓子を作ってやる!とひっそりと心に決め、その日が来るのを楽しみにするのだった。
20211001.
次回更新予定日は10月2日です。
ランキング維持のお礼SSです。平和な回でした。
そして、今日から10月ですね!!
今後とも応援よろしくお願い致します!!!




