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【書籍化】乙女ゲームの設定で私に義弟なんていなかったはずだけど、トキメキ止まらないので悪役令嬢辞めて義弟に恋していいですか?  作者: 雨宮レイ.
第1章

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65/85

65.もう、何も感じない……。

ブックマーク&作品評価ありがとうございます。

 





 冷たい地面、ひんやりと冷える地下、古びた鉄の錆びたにおいや、嗅いだことの無い形容し難い不快な匂いが鼻をつく。



 ポチャン……ポチャン……、とどこからか聞こえる水の落ちる音だけがこの静かな空間に響き渡る。


 誰もいないのではないかと疑ってしまうほどここは静かで、この空間にたくさんの子供がいるだなんて信じられない。



 綺麗だったワンピースは泥や土がつき汚れ、裾の方は色々な所で擦ったりしたせいでボロボロだ。

 髪も侯爵令嬢とは思えないほどボサボサだ。



 ウィルに貰った兎のブレスレットも、ぶつけたりした拍子に壊れてしまったのか、チャームがいくつか取れてしまっていて少しもの寂しくなっていた。

 擦れて所々色も剥げてしまっている。



「せっかく……もらった、のに……」



 痛む身体を何とか座った状態まで起こし、壁の拘束具に拘束されていない方の手首を見れば、寂しくなったそれを見て涙が出そうになった。



 大切にしたかったのに。ウィルからの贈り物なのに。

 身体の痛みよりも、心の方が痛くて苦しい。



 さっき、伯爵が去り際に言っていた。


『さっさと公爵に手紙を届けろ。いい品が入ったとな。今日中に取引を行えるよう準備をしろ』と。



 恐らく取引とは人身売買の事だろう。いい品、とは私の事だろう。高く売れると言っていたから。



 そして問題なのは今日中に、という事だ。

 取引の隙を見て逃げよう、なんて考えていたけれど、今のこの痛む体では逃げるのはまず無理だろう。

 それに、なんの力もない子供の私なんかが簡単に逃げられるほど甘くない。とくにあの執事の目を掻い潜るのは不可能だろう。



 もし、助けが来なかったら……



 もし、間に合わなかったら……



 もし、売られてしまったら……




 静かで暗いく湿った空気やズキズキと痛む身体のせいで、私の心はもう頑張る事を諦めてしまっていた。


 悪い考えだけが頭の中をグルグルとまわる。



 重たい瞼にされるがまま目を閉じれば、お父様やお母様、ユリウスお兄様の顔が浮かぶ。



 それから、ウィルの顔も……


 もしかしたらもうウィルには会えないのかもしれない……



 ウィルへの気持ちを自覚したのに、伝える事も出来ないままもう二度と会えないかもしれないという考えが浮かべば、ツンと鼻先に痛みが走った。



 生理的な涙なんかじゃない。


 辛くて、苦しくて、怖くて、もう二度と会えないだなんて信じたくなくて、悲しくて……、そんな思いが形となった涙だ。



 ポタポタとゆっくり目から涙の粒が落ちだしたかと思えば、あっという間に次から次へと溢れ出しワンピースのスカートを濡らし、シミを作る。



「……っ、……グズッ……っ、っ……」



 静かな空間に私の鼻をすする音だけが、ただ、ただ静かに響き渡った。



 それが余計に寂しく、苦しく、惨めになる。



 泣いても解決しない。泣いてないで考えろ。


 そう頭の隅で考える私もいるけれど、1度溢れ出した涙は簡単には止めることなんて出来ない。そして涙が溢れれば溢れるほど、心は真っ暗に、闇に飲まれていく。



 嫌だ、真っ暗なのは嫌だ……



 歯を食いしばり重たい瞼を必死に上げて目を開ける。

 でも、そこにも真っ暗な世界しかない。



 開けても閉じても変わらない世界に、心が苦しくなる。


 人はこれを、『絶望』と呼ぶのだろうか……



 苦しさに耐え、痛みに耐え、悲しみに耐え、不安に耐える。でも、耐えれば耐えるほど、我慢すれば我慢するほど、余計に苦しくなり、痛みは増し、悲しみは溢れ、不安に飲み込まれる。



 我慢すれば我慢するほど、目の前も心の中もどんどん真っ暗になっていき、どこからか声が聞こえだす。




『もうやめてしまえ』『頑張らなくていい』『諦めろ』




 嫌だ!聞きたくない……




『諦めれば楽になれる』『さぁ、そのまま力を抜いて考えるのを辞めてしまえばいい』




 嫌だ……嫌……、諦めたくない……



 抵抗すればする程声は大きく、頭の中により響いてくる。




『早くこっちにこればいい』『こっちに来た方が楽だぞ』『早く諦めた方が気持ちがいい』『諦めれば苦しくないぞ』




 嫌……いや………………苦しく、ない…………?





『痛くもない』『苦しくもない』『悲しくもない』『不安もない』『諦めてしまえば楽になれるぞ』





 …………楽、に…………………あぁ、そうだ、もう諦めてしまおう……





『そうだ、諦めてしまえ』『そのままこっちへこればいい』『楽になれるぞ』




 痛いのは嫌だ、痛いのはつらい、真っ暗なのは怖い、一人は寂しい、苦しいのは嫌、そんなめで私を見ないで、逆らってはいけない、もう…………、もうやめてしまおう………



 私の心は暗闇の中へとゆっくりと落ちていく。真っ暗な世界へ。





『ほら、もう何も感じないだろう』『苦しくないだろう』『悲しくないだろう』『痛くもないだろう』



『楽に、なっただろう』



 そうすれば体の痛みは全然感じなくなって、目の前の光景もぼやけて見えなくなっていく。つらい、だなんて感じなくて、苦しさも、悲しさも、痛みも何も感じない。



 声も聞こえない。もう、何も、聞こえない。





 あぁ、もっと早く……、手放せばよかったんだ……



 何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。

 ただそこは無だった。



 でも、やっと、やっと解放された……。

 もう我慢しなくていいんだ……。


 最後に考えたのはそんな事だった。



 誘われるままに意識を手放せば、もう辛くなんてなかった。









20210903.



次回更新予定日は9月8日です。



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