62.悔しくて仕方ない(ウィリアム目線)
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「父上!!!突然申し訳ございません!!ティアが……っ!!」
兄上に続くように急いで家へ帰り、普段なら気にする歩き方も、今はバタバタと足音を荒らげながら父様のいる書斎へと駆け込んだ。
兄上のその言葉に椅子に座り机に積まれた書類に目を通していた父様は眉間に皺を寄せながら顔を上げた。
「ティアがどうした?」
「申し訳ございません。目を離した隙にティアが、拐われました……」
「っ、……犯人はガンバッタロー伯爵家の者か?」
「恐らく、そう思われます」
唇を噛みしめ悔しそうに顔を歪める兄上。握り締められた手からはポタポタと血が流れ出した。
「ユリウス、お前はまず手当が先だ。自分を傷つけるな。」
「……はい、申し訳ございません。」
兄上は姉上の事が気が気ではなく自分では手の平の傷に気づかなかったのだろう。
父様に言われて初めて痛みを感じたのか、ゆっくりと血の出ている手の平を広げて見つめていた。
「私は王宮に行ってくる。今回のことについては証拠がない。しかし、娘の方の話を国王陛下には通しているからな、その件ですぐにガンバッタロー伯爵家に追求できるよう手配してくる。」
「かしこまりました。」
「父様、モリンナの事についてお話があります。王宮までご一緒してもよろしいでしょうか。」
「分かった、着いて来い。」
「はい!」
「ユリウスは手当が終わったら魔力を飛ばしてティアを探せ。それから馬の準備をして待て。」
「はい。」
的確に指示を出せば父様は椅子の背にかけられていたジャケットを羽織りながら急ぎ足で部屋を飛びだした。
その後ろを走って着いていく。
……油断した。モリンナの機嫌を損ねることなく、無事今日という日を終わらせたつもりだった。
でも、少し目を離したほんの数秒の間に姉上は誘拐された。
後ろを見た時にはもう姉上の姿はなくて、慌てて近くを探したのに姉上は見つからなかった。
こうなったのも僕のせいだ。
僕がモリンナなんかと知り合いだったから、だから姉上は……。
どうにも出来ない事だと分かってる。それでも自分を責めずには居られなかった。
父様に続いて用意された馬車に乗り込めば、早速父様にモリンナについての報告をする。
「モリンナは父親が慈善活動を行っていると言っていました。」
「慈善活動?」
「はい。教会の真似事でもしてるのだと言っていました。身寄りのない子供を集めて世話をしていると。」
「そうか、十中八九それが誘拐された子供たちだろうな」
「家によく商人と名乗るもの達が出入りしていたようでかなりの頻度で来ていたそうです。ただ、何を買っているのかは教えて貰えなかったらしいのと、身なりがあまり商人らしくないと言っていました。」
「商人、恐らくそれが実行犯だろう。商人と名乗り出入りする事によって使用人に怪しまれないようにしてるのか。」
モリンナが初めてセリンジャー家に来た日、僕は父上の命でモリンナを探る事になった。
どうやら彼女の父親がこの国の誘拐事件に関わっているのでは無いかと疑われていたからだ。彼女から何かしらの情報が手に入るかもしれない。彼女を利用しない手は無かった。
翌日からコロッと態度が変化したのはそのためだ。これは父様と兄上しか知らない。だからモリンナに連れられて行った街で、姉上が何度も寂しそうに僕たちを見ている事に気づいていたが僕は何もすることが出来なかった。
モリンナの機嫌を損ねれば情報を聞き出せないと思ったからだ。
それでも流石に兄上が姉上にすごく近い距離で触れているのを見るのは我慢できなくて、モリンナが買い物に夢中になっている間にその場を離れ、姉上と兄上の間に入り分かりやすく嫉妬した。
前の店で姉上に似合うと思って買ったブレスレットを姉上の腕に付ければ、それだけで僕の心は穏やかに幸せが溢れた。
でも、それが全てモリンナの怒りを買っていたのかもしれない……。
クソっ!!!僕のせいで……僕のせいで姉上が……
自分を責めた所で姉上が戻ってくる訳では無い。それでも自分を責めずにはいられなかった。
「ウィリアム、君はよくやってくれた。嫌な役目を押し付けてすまなかった。ただ、今回の件は君のせいではない。だから自分を責めてはいけないよ。」
父様は姉上の事を溺愛している。本当に凄く大事にしている。だからこそこんな事になってきっと誰よりも取り乱したいに違いない。誰よりも僕を責めたいだろうに、そうしない器の大きさに申し訳なさを感じる。
今すぐにでもモリンナの実家に乗り込んで姉上を探したいだろうに。
表情は、心配ない、と言った風に穏やかな笑みを浮かべているが、その手は兄上と同じで固く、強く握りしめられていた。
それから報告がひと通り終わり、モリンナの父親がこれまでの誘拐事件の犯人である事がほぼ黒と判断されるだけの証言だと父様は言った。
この後王宮で、以前のモリンナの愚かな行動に対するガンバッタロー伯爵家へ国を通じての報告と追求をすぐさま行わせる手続きと、今回の姉上の誘拐及び僕の手に入れた証言を踏まえて家宅捜索の許可を隣国の国王に取る手続きをするらしく、馬車が王宮に着けば、僕はここで待機するように言われ父様は急ぎ足で馬車から降りて王宮へと入っていった。
どうか姉上が無事でありますように。
何も出来ない僕は、そんな風に祈ることしか出来ない。
世界一大切で、世界一愛おしい相手。姉上の隣にはずっと僕が立っていたい。僕の一生をかけて姉上を幸せにしたい。
そんな風に願う相手を守るどころか、自分のせいで危険に晒してしまっている現状に、自分の力のなさを突きつけられ悔しくなる。
姉上の為に強くなると決めた。姉上の為に強くなると。
でも結局、今の僕には何も出来なくて、それがとにかく悔しい。守れなかった事が悔しい。
どんなに魔術を学んでも、どんなに剣術を学んでも、必要な時にその力が発揮できないなら意味なんてないのに。
モリンナから聞き出したところで、今の僕にはそれを父様に伝える事しか出来ない。後は全て父様に任せることしか出来ない。
結局無力な子供だと思い知らされる。
もし、自分がもっと大人だったら。
せめて兄上くらい大きくて、立派だったら。
そしたら自分1人で姉上を助けられたかもしれないのに。父様に頼らずとも王宮に応援を呼べたかもしれないのに。
自分がまだ子供な事が、姉上よりも年下な事が今はとにかく、悔しくて仕方ない。
20210827.
次回更新予定日は9月1日です。




