57.【SS】3ヶ月目の夢(ウィリアム目線)
ブックマーク&作品評価ありがとうございます。
3ヶ月記念のお話です。
「ウィリアム、すまない。これだけしか取り戻すことが出来なかった。」
僕がセリンジャー侯爵家に来てからもうすぐ3ヶ月を迎えようとしていたある日、お義父様に呼ばれて後ろを着いていけば書斎へ案内された。
そして中へ入れば、どこか懐かしい、見覚えのある宝石の着いたネックレスなどのアクセサリーや服が数点机の上に丁寧に置かれていた。
「男爵家に残っていた物と、なんとか見つけ出せたものなんだが、それ以外の行方は分からなかった。すまない。」
そう言って頭を下げるお義父様。悪いのはお義父様では無いし、むしろもう二度と戻ってこないと諦めていた。
机の上にお母さんがいっそう大事にしていたブルーサファイアの宝石を見つけて、懐かしさともう二度と戻らない両親を思い出して少しだけ胸が苦しくなった。
「だからという訳では無いが、2人の遺した財産だけは必ず取り返すと約束しよう。」
「あり、がとう、ございます……」
泣きそうなのを我慢して礼をいえば、お義父様は申し訳なさを含みながらも優しく微笑んでくれた。
きっと僕が泣きそうになったのに気づいたんだ。
そう思ったけど、あえて口に出すような事をしない姿を見て僕も黙っておくことにした。
「ここにあるのは君のものだ。君の手元に置くでもよし。加工するも良し。もし私に預けるなら、ウィリアムが大人になるその時まで私は命に変えてこれらを守ると誓おう。これは君が望むようにすればいい。」
前の家では全てを奪われた。全てを奪われた挙句僕は奴隷の様に扱われた。
なのに、ここの人達はみんなとても優しい。その優しさが最初は怖かった。何か裏があるのではないか、もう遺っていない僕の財産を取ろうとしてるのではないか。
そんな風に疑った時もあった。でも、違った。僕に綺麗な服を着せてくれて、実子と変わらない食事や個人部屋を与えてくれた。
勉強する環境を与えてくれて、やりたいと願えば剣術も学ばして貰える事になった。ここの家は僕に自由と尊厳を与えてくれた。
だから、預かるという言葉も信じられる。命をかけてと言ったら、この人は本当に命をかけて守ってくれるだろう。
2年以上も前に売られてしまった物を、全部ではないとはいえかなりの数をこうやって取り戻してくれたんだ。信じられる。
「あの、お願いがあります。」
だから僕はある事をお願いして、ここにある両親の大切な形見を預かってもらう事にした。
僕のお願いに、お義父様は二つ返事で頷いてくれて、早速願いを叶えるために手配してくれた。
それからしばらく経って、この家に来てちょうど3ヶ月が過ぎた。再びお義父様に呼ばれついていけば書斎へ入り、机を挟んで向かい合う。するとお義父様は僕の前にあるモノを2つ置いた。
「確認して欲しい。どうかな?」
そう言われ僕は机の上に手を伸ばす。手に取ったそれらは想像以上に完璧に仕上がっていて、きっと凄く腕のいい人に頼んでくれたのだと素人目にも分かるものだった。
やっぱり、この人は信用出来る。
透き通るように綺麗なブルーサファイアは換金すれば相当な値段になる。例えば加工の過程で宝石を小さくし、削ったと言って小さくなった破片の部分を盗むことも出来たはずだ。
しかし僕の手にあるのは昔とほとんど変わらない大きさで、加工されたことにより、より輝きをましたブルーサファイアだった。
「ありがとうございます。理想通りです。」
仕上がりに安心と満足した僕は机の上にそれらを戻す。
加工されたブルーサファイアの宝石が着いた指輪と、お母さんのお気に入りだったワンピースを今風にリメイクして少しサイズを小さくしたもの。
大切な形見が形を変えて新たに輝く様を見て、ジンと心の中が熱くなった。
両親が生きていた頃、よくこのワンピースをお母さんが着て一緒に出かけたことを思い出す。
買い物に行ったり、旅行に行ったり、時には近くの自然豊かな場所へお弁当を作ってピクニックに行ったり。思い出の中のお母さんは長い綺麗な髪とワンピースの裾を風に靡かせていて、とても綺麗だった。
白地に青い刺繍のされているワンピース。侯爵家のお嬢様が着るには少し安っぽく感じるかもしれない。むしろこんなもの着れないと言われるかもしれない。
それでも僕は、僕の瞳の色と同じこれを姉上に着て欲しいと思った。
きっと綺麗だと思う。
想像の中で姉上がこれを着て笑いかけてくれる姿はまるで天使のように美しい。
「これも他のものと一緒に少しだけ預かっていただけますか?」
「あぁ、もちろん。大切に保管しておこう。」
今はまだ大切に閉まっておこう。
それで僕らがもう少し大人になったら、姉上にプレゼントしよう。
ワンピースは来年の夏がいいだろうか。その頃には今はまだ少し大きいこのワンピースも、きっとちょうどいいサイズになるだろう。それで一緒に2人で街へ出かけよう。
大切な人の物を大切な人に着てもらう。
それがお母さんの夢であり、僕の夢でもあった。
ブルーサファイアの指輪の出番はまだ当分先だろう。もう少しだけ待ってて。と心の中で呟き箱を閉じる。
首から下げられたオーダーメイドであろうセンスのいいプレートの着いたネックレス。
これはこの家に来て初めて迎えた誕生日に姉上がくれた宝物だ。
普段は見えないからきっと姉上は知らないだろうけど、あの日からずっと、これは僕の首から下げられている。
いつか僕の力で姉上を幸せに出来るようになる日まで。その日までこれを外すつもりは無い。
僕なりの誓い、だ。
いつか姉上の前に膝を着き、綺麗なその指にこの指輪をはめるその日まで。
そしていつか、指輪の隣にこのネックレスを飾れる日まで。
僕は剣術や体術を磨き強くなろう。たくさん勉強して賢くなろう。
姉上を守れるような男になるために。
20210812.
次回更新予定日は8月16日です。
この物語を書き始めてから3ヶ月が経ちました。正直、こんなに第一章が続くとは思っていませんでした。日に日に増えるブックマーク数や作品評価が本当に励みになっています。ありがとうございます!⚑︎⚐︎⚑⁎∗
まだまだ続くであろうティアとウィルの物語にこれからも是非お付き合い下さい。
雨宮レイ.