55.お兄様が嫉妬(?)したらしいです。
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『これが一番ティアに似合うね。』
そう言ってお兄様は花のデザインの着いた髪飾りを買ってプレゼントしてくれた。
喜んで受け取れば、お兄様も嬉しそうに笑い返してくれる。
それからもウィルたちの後ろを着いて行くように移動する度に私はお兄様に『可愛いね』『天使みたいだ』『世界一綺麗だよ』なんて人目を憚らず言葉責めされていた。
恥ずかしい…っ!!!!
ただでさえ見目麗しいお兄様だ。普通に買い物に来ている女性たちがチラチラとお兄様を見れば、お兄様のそんな甘すぎる言葉にキャーキャーと黄色い声を上げている姿が視界の隅に映るが、お兄様は少しも気にしていないようでその瞳はずっと私を映している。
「お、お兄様……?」
「ん?どうかしたの?」
「ち、近いです……」
あまりの近さに離れようとするも繋がれた手は離して貰えず、さらにもう片方の手を腰に回されれば逃げることも出来ない。
綺麗な顔がにっこりと微笑んで目と鼻の先にある。紅潮する頬に気づいているはずなのに、お兄様は中々私を解放してくれない。
と、その時後ろから抱きつかれるように肩に手を回され、グイッと力強く後ろに引かれれば、あっさりと解放された。
「わわっ!?」
と、驚き声を上げる私を他所にお兄様は楽しそうだ。
「兄上、近いです。」
お兄様から解放されたはずなのに今度はギュッとウィルによって拘束され、その声は右耳の直ぐ隣から発せられていて、ウィルの顔がすぐ隣にある事がそれだけで分かった。
ウィルも近いから!!!
と心臓がうるさく鳴るのを感じながら心の中で叫ぶ。
「そう?」
「そうです。あまり近づかないでください。」
「えー、ダメかい?僕とティアは兄妹なのに」
「ダメです。」
傍から見たら一人の女を取り合う2人の美形男子。という図だろう。
チラチラと私たちを見ている女性陣があることない事噂している気しかしないのは、絶対に気のせいではない。
そんな居心地のすこぶる悪い空気を壊したのは、1人になったモリンナだった。
「リアム~?リアムどこ~?」
なんて、甘ったるく高い声が店内に響く。
「ほら、ウィル行きなよ。やるべき事を忘れてはならないよ?」
「……はい、分かってます。」
ゆっくりと回された手が離れればやっと体が自由になる。ただ、さっきまであったウィルの温もりが一瞬にして無くなってしまったことになんだか少し寂しさを覚えた。
「姉上」
優しくてを取られ引かれるままに振り向けば小さく金属のぶつかる音が聞こえれば手首に少しの重さを感じる。
「うん、似合ってる……」
私にしか聞こえない声でそう呟けば、ウィルはあっという間にその場からいなくなってしまった。
手首を見れば、小さなウサギのチャームや星のチャームが幾つか着いたブレスレットが器用に付けられていた。
どこでそんなテクニックを覚えたのか、ちょっと気になる所だが、それよりも今は突然の出来事に胸がキュンとしてしまって顔がどうにもにやけて仕方ない。
「嬉しそうだね、ティア」
付けられたブレスレットをニヤけた顔で見つめていれば、お兄様が少し拗ねたような表情を浮かべて私の手首に視線を落とした。
「ふーん、ティアは僕のプレゼントよりもウィルのプレゼントの方が嬉しいんだ~」
「えっ!?そ、そんなつもりでは……っ」
「なんてね。嘘だよ、僕の可愛いお姫様。」
冗談めかして、パチンとウインクしてから直ぐに、珍しくイタズラを思いついた子供のような表情をうかべたかと思うと私の手を取り歩き出した。
「でもウィルに嫉妬したからティアも一緒にウィルの邪魔しに行こ?」
そう言いながら今日1番楽しそうに笑いながらお兄様は私を連れて腕を組みながらお店の商品を見て回るウィルとモリンナの間に割って入ろうとした。…………いや、なんの躊躇もなく割って入った。
それはもう恋人の邪魔をする悪役のように。超笑顔で。
「っ!?お兄様っ!?突然どうなされたのですか?」
突然ウィルと腕を組んでいた間に割ってはいられた事に驚いたモリンナはユリウスお兄様の事を、さも自分の兄のようにシレッとお兄様呼びをする。
その事にお兄様は笑顔を崩すことなく、ただどこか冷たさを感じる声でモリンナに言葉を返した。
「ん?僕は君のお兄様になった覚えはないよ?僕の妹と弟はティアとウィルだけだよ?」
私とウィルの肩を優しく掴み自分の両サイドに引き寄せる。見事にセリンジャー家三兄妹がモリンナと向き合うように立ち並んだ。
しかしモリンナはウィルの腕を強引に引っ張ると自分の方に引き寄せる。
まるで玩具の取り合いの様にウィルがあっちこっちへ引っ張られることに私はちょっとムッと苛立ちを覚える。
「ワタクシはリアムと結婚いたしますの。そうすればユリウス様はワタクシのお義兄様ですわ。」
「え~?それはどうかなぁ~?」
「……どういう意味ですの?」
婚約関係ですらないのに、モリンナは既にセリンジャー家に嫁いでくる気満々だ。というより、決定事項だとでも言いたげにユリウスお兄様の事を自分も『お兄様』と呼ぶのは当たり前の事だと主張する。
……え、図々しくない???
そう思ったのは私だけではなかったようで、お兄様の惚けた言葉に苛立ちを見せるモリンナに対しお兄様はハッキリと、ただし、笑顔で言い放つ。
「我が家にはキミのように図々しく自己中心的な者はいらない、という意味だよ?」
その瞬間空気が凍りつくのが嫌でもわかった。
笑顔のお兄様と、明らかに引き攣った笑顔を浮かべつつもその苛立ちを隠しきれていないモリンナの視線は交わったままでその中心では火花が飛んでいるようにも見える。
ウィルを見れば、はぁ、と小さく溜息を吐いている姿が目に入るが、止める気はないらしい。完全に傍観している。
しばらくそんな無言の時間が続くと、モリンナが先に目を逸らし御手洗いに行くと言いその場を離れた。
その後ろ姿は歩き方こそ優雅だが、怒ってるなぁ……と思わせるほどぷりぷりしている雰囲気がダダ漏れだった。
「兄上、挑発しないでください。」
「ん?なんの事かな?」
ウィルが呆れ半分にお兄様に苦言を呈すと、お兄様はまたもや惚けたように知らぬ存ぜぬと言った雰囲気を出す。
「それよりも、どうだい?」
そう話を変えれば、ウィルは「はい。終わりました」と縦に首を振った。
そしてなんやかんやあって、家に帰る途中……
何故か私は一瞬お兄様たちから離れた瞬間後ろから口を塞がれ意識を手放した。
そして目が覚めるとガタガタと揺れる真っ暗な世界に私はいた。
20210808.
次回更新予定日は8月12日です。




