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54/85

54.寂しいです、とても。

ブックマーク&作品評価ありがとうございます!

 





 問題というものはどうしてこう、やっと自分の持つ気持ちが何なのか理解した時程やってくるのだろうか。


 とまぁ、そんな事を考えた所で答えなんか見つからないのだけれど……。




「リアムーっ!」



 ウィルの事をリアムと呼ぶ私よりも少しだけ高い声。



「ねぇ、今日はお買い物に行きましょう?私がリアムに何でも買ってあげるわ!」



 ギュッとウィルの腕に自分の腕を絡ませて体を密着させ、ふわふわとした髪を風に揺らすその姿は傍から見たら小さな恋人同士だ。



「ずっと会いたかったの。リアム、もう私から離れていかないで……」



 ありふれた茶色の私とは違う、綺麗な宝石のようなエメラルドグリーンの瞳をキラキラと輝かせウィルを見る少女は所謂美少女ってやつで、一言で表すなら蕩けるような甘さを持つ【わたあめ】みたいな女の子だと思った。





「モリンナ、正式な婚約前にこんな風に触れ合うのは良くないかと……」

「でも、ワタクシは離れていた分、リアムにずっと触れていたいわ。」



 ウィルの腕に自分の腕を絡めるモリンナを後ろからただ眺めるしか出来なくて。

 何故こうなったのか私には分からない。



 モリンナが家に突撃してきた翌日、再びモリンナが我が家を訪れた。

 てっきり私はまた追い返すのだと思っていた。しかし、お父様を始め、ウィルもお兄様も笑顔で彼女を受け入れた。


 そして、彼女の買い物に行こうという発言により、何故かウィルとモリンナ、後ろに私とユリウスお兄様が並んで歩いている。



「見てリアムっ!すごく可愛いお店よ!」

「そうですね。」

「行ってみましょ!」



 ふわふわとした雰囲気のピンク色の雑貨屋のようなお店。中にチラホラと女の子が買い物を楽しんでいる様子が店のガラス張りの窓から見える。



 すっかり2人きりの世界気分のモリンナに引っ張られるようにウィルは店内へと入っていく。


 その姿に私は胸が締め付けられるように苦しくなるのを感じた。



「寂しい?」



 隣に立つお兄様を見上げれば、少しだけ苦笑を浮かべて私を見ていた。



「寂しい、です。どうして急に……」



 その問いにお兄様は目を伏せて答えてはくれなかった。ただ一言、「ごめんね」と引き攣った笑顔を見せた。



 それからモリンナにウィルは引っ張られるがままにお店を移動し、その後ろをユリウスお兄様と私が追うように歩き続けた。



 終始モリンナの隣には腕を組んでいるウィルがいて、昨日はあんなに怒っていたのに今ではすっかり人が変わったかのように楽しそうに笑顔を浮かべている。



 ズキズキと胸が痛む。


 ギューッと苦しくなる。


 鼻先がツンと痛くなる。


 目頭が熱くなる。




 実際にこんな風にウィルが私じゃない誰かと笑い合う姿を見るのは初めてで。モヤモヤとした、酷く苦しく、悲しいといった感情が心に生まれる。



 今すぐあの二人の間に割って入りたい。


 腕を組むのは私でありたい。


 あんな風に笑顔を見せる相手は私であって欲しい。


 ウィルの笑顔の先に私が居ないことが今はどうしようもなく苦しい。



「世界一可愛いお姫様。僕は貴女の求める王子ではありませんが、良ければ今だけは僕と楽しみませんか?」



 そんなことを言いながら本物の王子様のように美しいお兄様に手を差し出されれば下がりきった口角が自然と上がる。



「はい、お兄様」



 その手を取れば優しく手を引かれる。久しぶりに繋がれた手はやっぱり大きくて温かくて、優しい。



「ティアの行きたいことろへ行こう。」

「はいっ!」



 お兄様の優しい笑顔を見れば、あっという間にさっきまでの寂しさはどこかへと飛んでいってしまって、引かれる手のままに足を進めれば自然と笑顔がこぼれた。



「ティアにはこれが似合うと思うな」

「可愛いです!」

「ほら、似合う。」



 ウィル達を追うようにピンク色のふわふわとした雰囲気のお店に入れば、お兄様はティアラをモチーフにした髪飾りを手に取り私の髪に(かざ)して見せた。



「ティアは世界一可愛いからなんでも似合うね」



 なんて手を伸ばせば触れられる……どころか抱きつけれるのではないかと思う程の近距離でそんな事を言われて赤くならずにいられる女性がいれば是非とも挙手願いたい。


 なんて。赤くなった隠すように下を向き額に手を付けて必死にニヤける顔を元に戻そうとしながら脳内でそんな事を考える。



 チラッと落ちた前髪の隙間からお兄様を覗き見れば、綺麗な瞳と目が合いニコッと微笑まれてしまった。



「ティア、これなんてどうかな?これも、それにこれも。全部ティアに似合うと思うな。まるでティアの為にあるような店だね、ここは。全部買ってあげたくなるよ」



 あれもこれもと次から次へと髪飾りなどを手に取り私の髪に翳す。


 甘い、というより過保護に近い気もしないでもないユリウスの言葉に思わずクスッと笑いがこぼれる。



「やっと笑ってくれたね。」

「だって、こんなに買ってもらっても使い切れないわ」



 今にも零れ落ちそうなほどの髪飾りを持つ兄の手から1つだけを手にとる。



「似合いますか?」

「うん。似合うよ。誰よりも。」



 髪に翳して尋ねれば、またフワッと表情を柔らかくして褒めてくれた。






20210804.


次回更新予定日は8月9日です。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 感想を送った者です。別のニュアンスのセリフも読めてとても嬉しいです、感想に反応していただきありがとうございます!今回の改稿でユリウスの切なさが強く表れているように感じました!解釈一致で光栄…
[良い点] ここまで楽しく拝読させていただいております、素敵な作品を生み出してくださりありがとうございます! [気になる点] ユリウスの『貴女だけの王子様ではない』という言葉が意外でした!ここまでのユ…
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