51.何やら問題が発生しそうです。
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0時に更新できませんでした。すみません!!
問題というものはどうしてこう、やっと自分の持つ気持ちが何なのか理解した時程やってくるのだろうか。
とまぁ、そんな事を考えた所で答えなんか見つからないのだけれど……。
「リアムーっ!」
ウィルの事をリアムと呼ぶ私よりも少しだけ高い声。
「ねぇ、今日はお買い物に行きましょう?私がリアムに何でも買ってあげるわ!」
ギュッとウィルの腕に自分の腕を絡ませて体を密着させ、ふわふわとした髪を風に揺らすその姿は傍から見たら小さな恋人同士だ。
「ずっと会いたかったの。リアム、もう私から離れていかないで……」
ありふれた茶色の私とは違う、綺麗な宝石のようなエメラルドグリーンの瞳をキラキラと輝かせウィルを見る少女は所謂美少女ってやつで、一言で表すなら蕩けるような甘さを持つ【わたあめ】みたいな女の子だと思った。
◇ ◇ ◇
いつもと何ら変わりない朝だった。
ただ一つ違ったことと言えば、家族揃って朝食を食べている時に突然バタバタと激しい足音が聞こえ、執事の引き止める声を無視して部屋の扉をバンッと可愛い少女が勢いよく開けたことだろうか。
私たち家族が揃って視線をドアの方へ向ければ、目の前の少女は金髪のウェーブした髪を揺らしエメラルドグリーンの宝石のような綺麗な瞳を揺らした。
そしてその瞳が1人の姿を映すと、少女は勢いよく私の隣に座るウィルに抱きついた。
「リアムっ!!会いたかったわ!!!!」
「はい??」
ギュッと躊躇なくウィルに抱きついていて、顔なんてすごく近い。それは、少女はウィルの首に顔を埋めているけれど、彼女が顔を上げれば唇と唇が触れてしまうのではないかと思うほど。
しかし、当の本人のウィルは状況を理解するには少しだけ時間を要したらしく、驚いてから少しだけ眉間に皺を寄せた。
「えっと……、どなたでしょうか。」
「私よ!私!モリンナよ!覚えてない!?よく一緒に遊んだじゃない!」
「モリンナ……?」
名前を繰り返すよう呟けば、記憶を遡って探しているようだ。顎に手を置いて考えたと思うと、しばらくして思い出したのか、あぁ。と声を上げるも感動の再会、なんて雰囲気はなく珍しく怒っているようにも見えた。
が、すぐにいつもの優しい笑顔へと戻っていた。
「あぁ、モリンナですか、お久しぶりです。」
「思い出してくれたのねっ!嬉しいわっ!」
「あまりに非常識で思い出すのに時間がかかってしまいました。」
「っ!?」
優しく甘い笑顔から吐き出される甘くない言葉にモリンナと名乗る少女は驚きウィルから体を離すと、そこでやっと周りが視界に入ったようだ。
彼女の後ろにはどうしたらいいか分からずオロオロとしている彼女に着いてきたであろう彼女付きのメイドが2人。
私たち家族は一家団欒の食事の時間に押しかけられた事に、いつもの優しい雰囲気は無く厳しい目を向けている。
そりゃそうだ。なんの許可もなく押しかけただけでなく、執事が止めたにもかかわらず無視して乗り込んできた。……もしかして不法侵入なのでは?なんて疑いもあるのだ。
いくらウィルの知り合いだとしてもその行動を許せるほど私の家族は甘くない。というより、常識知らずの迷惑な見ず知らずの少女に優しくする者などこの世界にいるのかすら怪しいところ。
「ご、ごめんなさい……、でもやっとリアムに会えたからついはしゃいでしまったのよ。」
その言葉は完全にウィルにのみに向けられており、どうやら彼女の世界の中心にはウィルがいるようだ。
周りが見えた、と言っても世界の中心にはウィルがいるため、彼女にとってはこの家の当主であるお父様ですらモブのような存在なのだろう。
さて、はしゃいでしまった。で許されるのかと視界の端でお父様の表情を確認すれば、さっきよりも厳しい表情をしている。
綺麗な所作でドレスの裾をつまみウィルに向けて軽く頭を下げた少女にはお父様の表情は見えていないようだが、正直私からしたらお父様はかなり怒っているように感じる。
あんなに厳しい表情を私も初めて見た……。
普段の優しいお父様とは正反対の表情。それを見てかなり怒っているのだと理解して私はお父様から視線を逸らした。
「ウィリアム、彼女は知り合いかな?」
「……はい。両親がまだ生きていた頃の取引先のご令嬢です。」
「もう!そんな他人行儀な関係は嫌だわ!私たちは幼馴染みであり、婚約者でしょう?」
「は??」
彼女の突拍子もない暴露にウィルが露骨に顔を歪めた。
私もその言葉に思わず生唾を飲み込む。
婚約者……?
これまで知らなかった存在に胸の奥がギューッと苦しくなった。
元々ぴりっとした空気も今では重力よりも重く、今にも雷が落ちてきそうな緊張感しかない雰囲気だ。
しかしそんな空気に一切気づく事の無い少女は、重たい空気に似合わない高く明るい声でウィルへと話しかけた。
「ねぇリアム!久しぶりに2人でお出かけしない!?会えなかった時間を取り戻したいの!」
そう言ってウィルの手を取れば、周りにいる私達なんか気にせず今にもその手を引いてこの部屋から出ていきそうな勢いだ。
それには流石にウィルが声を上げた。
「あなたは今何をしているかわかっているのですか?」
「あなたなんて他人行儀は嫌よ。昔のようにモリンナって呼んで!」
あまりにも成り立ってない会話にウィルは掴まれていた手を勢いよく払い除けた。
「キャッ!」
と声を上げたモリンナは少し体をふらつかせたが、後ろにいたメイドによって支えられ、直ぐにその瞳を潤ませた。
「リアム……?どうしてこんな酷いことをするの……?昔のリアムはもっと優しかったのに……っ!、」
そこで初めてウィルの自分を見る冷めたい瞳に気づいたのだろう。
私も驚いている。ウィルのこんな表情を見るのは初めてだったから。普段から優しい瞳を浮かべているウィル。そんな彼が今、感情を見せない冷たく冷えきった瞳を浮かべてモリンナを見ている。
「今そんな話をするつもりはありません。早くこの場から立ち去って頂けますか?」
「なぜ……?なぜですの!?リアムはもっと優しくて……っ!!!あの頃は、あの頃は……」
ウィルに縋り付くように涙をうかべたモリンナを無視してウィルは立ち上がり開け放たれたままの扉まで足を運ぶ。
そしてまるでパーティに行くためにエスコートするかのように扉に手をかけいつもの優しい笑顔を浮かべて空いた手で彼女を促す。
「どうぞ、我が家の執事が外までご案内させていただきます。」
「嫌よ!!嫌!!!!リアムと離れたくないわ!!!」
ウィルのその言葉にモリンナは涙を浮かべ叫んだ。ウィルの座っていた椅子に座りその場から動こうとしない。
話の流れからして彼女、モリンナはどこかの令嬢だろう。しかし、あまりにも令嬢らしからぬ行動にもはや怒りを通り越して呆れてしまう。
チラリと家族の顔を見ればお父様達も同じなのか、大きなため息をついて呆れ顔をしているのが目に映る。
「その不格好なまま椅子ごと外に出されたいのですか?それがお望みでしたらそのように致しましょう。」
「キャッ!?」
ウィルの言葉にすぐに執事が椅子ごとモリンナを持ち上げようとしてグラりと不安定になった体に驚きの声を上げた。
20210726.
次回更新日は7月29日です。