【50話記念SS】ユリウスの誕生日 (ユリウス目線)
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「ユリウスお兄様っ!お誕生日おめでとうございます!!」
「兄上!おめでとうございます!!」
朝起きて朝食に向かえば、先に起きて僕を待っていたであろう世界一可愛い妹のティアと、以前よりも年相応に笑うようになった可愛い弟のウィルが僕にギュッと抱きつき顔だけを上げて天使の笑顔を見せた。
そしてここでようやく今日が自分の誕生日だと思い出す。
「ありがとう、2人とも。朝から2人の笑顔が見れて僕は世界一幸せ者だね。」
膝を折り曲げ目線を合わせれば、満面の笑みを浮かべた天使と目が合う。
可愛い……っ!!!!
表情は柔らかい笑顔を浮かべるが、内心ではもう右へ左へと悶えている。
そっとティアとウィルの頭を撫でれば柔らかい猫っ毛の髪がフワフワしていてそんな所すらも愛おしくなった。
そんな2人の天使から始まった今日だが、この後の事を思えば心底憂鬱になった。
◇ ◇ ◇
「ユリウス様っ!お誕生日おめでとうございます!」
「お誕生日おめでとうございますぅ!」
「キャーっ!今絶対わたくしの事見られましたわ!」
「いいえっ!絶対わたくしよ!」
見事に的中した憂鬱にもはや溜息すら出ない。
こうなる事は何となくわかってはいたが、近くで叫ばれるのも鬱陶しいし、そもそも名前も知らない令嬢を自分から視界に入れるわけもない。ただの勘違いだ。
煩わしい甲高い声に眉をひそめつつ、いつものようにガン無視しながら教室までの道のりを進む。
「ユーリーウースーっ!!誕生日おめでとーうっ!!今日から同い年だな!……って、おい!避けんな!」
教室のドアを開ければ勢いよくユーリが走ってきたのが見えて抱きつかれる寸前にスっと体の位置をずらして回避する。
そして何事も無かったように教室に入れば後ろから「おーい!無視すんなよー!」なんて叫びが聞こえてくる。
あぁ、本当に煩わしい。
内心イライラしながら席へ着けば、いつも通りヘラヘラと笑っているユーリが追いかけてきて隣の席の椅子へと腰を下ろす。
「よっ、誕生日だってのに相変わらず無表情なのな。もっとニコッと笑って『ありがとう』とか言えねーの?」
「祝ってくれと頼んだ覚えはない。」
「ふーーーーん。どうせクリスティアに言われたらデレデレするくせに。」
「当たり前だ。世界一可愛い僕の妹と弟だ。」
「2人が今のユリウスを見たらショックだろうなぁ。とくにクリスティアは優しい兄の正体がコレなんて知ったら……」
ジロリと鋭い視線で見れば、ヘラヘラと笑いながら「冗談だよ」なんて言うユーリ。
でも、ユーリが言ったように学園での姿だけはティアには見せられないな、と自分でも分かっている。だからこそそれをわざわざ口に出すユーリを今は心底煩わしく思う。
甲高い声で擦り寄ってくるやつが嫌いだ。キツい香水の匂いも、やけに触れてこようとするやつも、気持ち悪い上目遣いのような事をして僕を見てくるやつも、全員嫌いだ。
目が合った?自分を見てくれた?勘違いも甚だしい。
たとえ視界に入れていたとしても認識していなければ見たとは言わない。
万が一視界に入れ認識したとしてそれがなんだと言うのだ。たかが認識されただけで恋に落ちるとでも?婚約者になれるとでも思っているのか?
哀れだな。
「ユリウス様!こちらよろしければ受け取っていただけませんか?」
あぁ、まただ。本当にやめてくれと心底思う。
話したこともない者から貰うプレゼントなんて恐怖以外ないだろう。
この令嬢は知らない男から渡されたプレゼントを嬉々として受け取るのか?自分が相手の立場になって考えれば分かるものを、どうして受け取ってもらえるなどと思っているのか不思議だ。
「申し訳ございませんが、お気持ちだけ頂いておきます。」
さっきまでのユーリに話していた態度とは打って変わって丁寧にお断りする。
頬を緩ませることは無いが、不快感を与えることもないだろう至って丁寧な拒絶。
僕は貴族の子息、さらには次期当主だ。わざわざ酷い言葉や態度で突き放して関係を絶つよりは、いつかのために反感を買わない程度に距離を取った方が賢明だろう。
さっきまでとは正反対に肩を落として教室を出ていく令嬢の後ろ姿を見ながら、「……はぁ」と小さくため息をついた。
あれは確か……
「シルバー・スリザックの婚約者じゃね?」
「あぁ、そうだと思う」
「婚約者がいるのに他の男にプレゼントねぇ。ユリウスの最も嫌うタイプの人種じゃんか。」
本当、頭が痛くなりそうだ。彼女が僕に近づいてきた理由は分かってる。あわよくば、だ。
もし彼女からのプレゼントを受け取っていたらそれを理由に婚約破棄をしてこっちへの婚約の話を強引に進めるとかそんな話だろう。
この学園に在籍する貴族子息の長男はほとんどが既に婚約者を持っているだろう。もしかしたら婚約者がいないのは自分くらいかもしれない。
次男や三男はまだ決まっていない者がいるが、やはり長男とそれ以外では天と地の差がある。
だからこそ長男で婚約者を持たない僕に取り入ろうとする令嬢は多く、それが余計に僕をイライラさせる。
「まぁ力を失いつつある伯爵家に嫁ぐよりは力を持つ侯爵家に嫁いだ方がいいに決まってるわな。
それに容姿と学力だけじゃなく、剣術も魔術も使えるんだからな。金も地位も名誉もスリザック伯爵家とは雲泥の差だろうよ。」
自分が如何に恵まれているかは分かっているつもりだ。先祖が遺してくれた地位や財産、そして特別とされている魔力。
これを恵まれていると言わなかったらバチが当たるだろう。ただ、そんなものに群がる奴は男だろうが女だろうが吐き気がする。
そういう意味では、ユーリ以外に気を許せる相手は居ないのかもしれないな。調子に乗るから本人には絶対言わないけど。
いつかは跡継ぎを。それは分かっている。でも、せめてティアとウィルが幸せになるまでは可愛い僕のきょうだいを護ってあげたい。
だからもし結婚するとしてもその後だろう。それに、僕はきっと2人以上に愛することはないだろう。例え妻だろうが婚約者だろうが、何かあれば僕は大事な妹と弟を優先する。
だから嫌いなんだ。愛情が無くてもいいと近づいてくるやつが。地位や財産、名誉だけを欲し近づいてくるやつが。特別な力を持つ僕の妻という立場を狙うやつが。
誕生日になると毎年、近づいてくるやつが増えるからそんなくだらない事を嫌でも考えてしまう。
◇ ◇ ◇
「ユリウスお兄様!おかえりなさい!」
「兄上!おかえりなさい!」
家に帰れば天使の笑顔で出迎えてくれる2人をギュッと抱きしめる。それだけで1日のストレスが全部消えてなくなるようだった。
「お兄様、体調が悪いのですか?顔色があまり良くありませんね……」
「ううん、大丈夫だよ。心配させてしまったね。ごめんね、ありがとう」
普段なら上手く隠せるのにな……。
学園での一日を思い返せば、心底嫌気がさし大きな溜息をつきたくなった。何があったかは想像に容易いだろう。そりゃあ顔に疲れが出るわけだ。
「ご無理はなさらないでくださいね。お兄様は私とウィルの世界一大好きなお兄様なんですから!」
「そっか、世界一か……、ありがとう。僕も2人のこと世界一愛してるよ」
もう一度、さっきよりも強い力で2人まとめてギューっと抱き締めれば自然と笑顔になって笑いが起こる。
いつまでもこの2人のそばに……
年々ちょっとずつ小っ恥ずかしくなってきた誕生日パーティーでロウソクに火のついたケーキにそう願いをする。
その瞬間風もないのに火が上下左右に楽しそうにユラユラと揺れ、願い事を聞き入れて貰えた気がした。
フッと一息で火を消すと部屋の明かりがついて家族の優しい笑顔が見える。
やはり僕は恵まれているな。
15歳の誕生日、僕は改めて家族に、生に感謝したのだった。
20210721.
次回更新予定日は7月26日です。
実は今日、7月23日は作者の誕生日です。たまたま50話記念と重なったので番外編としてユリウスの誕生日の様子を投稿させて頂きました!
昔は誕生日が嬉しかったのに、大人になるにつれて誕生日が辛くなってきて、最近早生まれの人を羨ましく思うようになってきました(笑)
そんなこんなで(?)年齢を重ね、またひとつ大人になりました。今後も頑張っていきますので応援よろしくお願いいたします⚑︎⚐︎⚑⁎∗




