49.告白と心の在処。
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「クリスティア様、僕の婚約者になってくれませんか?」
碧い目が優しく細められ、太陽の光が当たりキラキラと輝く綺麗な銀髪がサラリと風に揺れた。
第一王子アルフレッド殿下とのお茶会はもう何度目かのおかげで最初の時ほど会話が続かないなんてことは無くなっていて、それなりに楽しい時間を過ごせるようになっていた。
話の話題は専らユリウスお兄様の事がほとんどではあるけれど、たまにウィルの事や、第一王子としての悩みなど、最初の頃には考えられなかっただろう話もするようになった。
ゲームの中で悪役令嬢と第一王子が婚約するのは8歳の時で、私は既に9歳になっている。さらに、アルフレッド殿下と過ごしていてもそういった類いの話や雰囲気は少しもない。
そういった経緯から勝手に第一王子ルートのフラグは回避出来たのだろう、と思っていて油断した。
「優しく美しく聡明なクリスティア様をお慕いしております。僕に貴女を隣で護る権利をください。」
だからその言葉に私は目を見開いて驚いた。
だって、散々フラグ回避だと言って努力してきて、当初の目的とはだいぶ違う未来にはなっているものの友好な関係は築けてたはずだ。
ただそこに恋なんて気持ちは存在せず、烏滸がましいかもしれないけど、良き友人のような関係だと思っていた。
だからまさかこんな風に告白されるなんて1ミリも想像してなかった。
私は一瞬思考を停止させたが直ぐに動き出し今の状況の打開策を考えようとするも、どうすればいいか分からず今にも頭がショートしそうだった。
そしてなぜこうなったのか頭の片隅で考えるも結論は一向に出てこない。だって、別に何ひとつとしていつもと違う行動を私はしていないのだから。
もうすぐ暖かい季節がやってくる。冬の寒さで少なくなった庭の緑が少しずつ以前の様子に戻りつつある今日この頃。
いつも通り、アルフレッド殿下に誘って貰ったお茶会で、いつも通りお菓子を食べながら、いつも通りおしゃべりを楽しんで、そろそろ帰る時間かな?なんて思っていたら殿下が突然立ち上がり、私の前に片膝をついて腰を落とした。
そして私の手を取り、椅子に座った私よりも下にある綺麗な瞳が上目遣い気味に私の瞳を捉える。
その瞳はとても穏やかだ。
「ア、ルフレッド殿下……」
「少しだけ、お話をしてもよろしいでしょうか」
下ろしていた腰を上げると殿下は空になった私と自分のカップに紅茶を注いでからさっきまで座っていた私の正面の椅子に腰を下ろした。
「僕はずっと、 無力な自分にコンプレックスを持っていました。」
無力
そう口にした殿下は、さっきまでとは打って変わって視線を下げ表情を曇らせている。
元々魔力がなくて、でも魔力が無いからこそ将来国を治める者として誰よりも努力し続けたのを私は知っている。
でも、それが才能だと言われ努力を認めて貰えなかったことが殿下の闇になっていったことも知ってる。
でも、それを無力だなんて……、それにそれが私となんの関係が……?
「魔力も無ければ、これといって飛び抜けた才も無い。なのに、第一王子に生まれたと言うだけでいつか僕はこの国の王となる。
僕より才能に溢れ、僕より王の立場が似合うものが絶対に居るのに、何も持たない僕が彼らの頂点に立つ。
それがずっと苦しかった。だから少しでも相応しくなろうと努力してきたつもりだ。
でもその努力を僕は認めて貰えなかった。才能の一言で片付けられた。…………すごく、悔しかったのを今でも覚えています。」
悔しい
初めて殿下の口からその言葉を聞いた。これまでもちょっとした悩みや相談に似た話を聞いた事はあった。でも殿下はいつも目じりを下げて、しょうがないと諦めたように笑っていた。
だから悔しいなんてハッキリと自分の思いを伝えられた事に、その時の殿下の気持ちを考えて少しだけ胸が痛くなった。
「でも、そんな僕の心をクリスティア様が救って下さいました。初めて2人でお会いした時のことをクリスティア様は覚えていらっしゃいますか?」
「はい、その時もこの場所で、とてもたくさんの薔薇が綺麗に咲いていたのを覚えています。」
時期だったのもあって薔薇がたくさん咲いていて、そんな薔薇に囲まれてお茶を飲める事を少しだけ嬉しく感じたのを覚えている。
ただ、何故か国王陛下もが出迎えてくれるというプチハプニングによってそんな考えは秒で消し飛んだのだけども。
私が頷くと俯き気味だった殿下の顔はパッと上がり綺麗な瞳と視線が交わる。
その表情はどこか嬉しそうだ。
私もそんな殿下に釣られるように顔を緩ませた。
なのに……――
「そうです。あの日、正直僕は乗り気ではありませんでした。」
…………はい??????
思わず口から出そうになったのを慌てて飲み込む。もちろん表情は崩さずに。
目の前に座る殿下は私の気持ちとは裏腹にさっきよりも嬉しそうに目を細めて微笑んでいる。
いやいやいやいや……、はい???
乗り気じゃなかった???
ならなんで呼んだのよっ!?!?!?
……と、あの頃の私の気持ちを思えば叫びたくなるのも当然だと思う。というか叫ばせてくれと切に願う。
しかし、どういう事?なんて聞ける訳もなく、私は得意の貼り付けたような笑顔のまま次の言葉を待った。
「とても失礼なのは分かっています。でも、あの頃はお茶会よりもやるべき事があると思っていました。
剣や政治などやらねばならない事が僕には沢山ありました。あの時の僕は全ての事で1番でなければいけないと思っていたのです。」
ゲームの中では完璧王子と思われていた。なんでもソツなくこなし1番を取る。それが彼を取り巻く世界の当たり前だった。
ただ、唯一、魔力という特別な力以外で……。
だからアルフレッド殿下が少ない力ながらも魔力を発現させたこと、更にそれによってユリウスお兄様にコンプレックスを抱いた事、私はそれが悪役令嬢とアルフレッドの関係が崩れたキッカケだと思っていた。
でも、もしかしたらもっと前から……
「でもあの日、クリスティア様は僕に言ってくれました。僕には『努力できる才能』があると。これまで誰も認めてくれなかった。それがずっと悔しかった。でも、クリスティア様のその一言で僕は救われました。」
きっとアルフレッド殿下は周りから問答無用で与えられる圧力にずっと1人で耐えてきたんだ。
ゲームではそのプレッシャーが彼の裏の顔を生み出し、その発散先を嫉妬と名前を変えてユリウスお兄様や私に向けるようになった。
ただ、この世界では前世の記憶を持つ私が本来とは違った行動をしたことによって、知らぬ間に彼の心に触れてしまっていたんだ。
その結果が今の私たちの関係だ。
「あの日からずっと、僕にはクリスティア様しか見えていません。どうか僕にあなたの心をください。」
「っ!!」
真っ直ぐに綺麗な顔でそう言われてドキッとしないわけが無い。しかも前世は年下好きの私だ。たとえ今は同い年だとしても、前世の影響かまだ幼さの残るアルフレッド殿下にときめかずにはいられない。
でも、それか恋のトキメキなのかと聞かれれば、私は違うと即答するだろう。
だって…………
だって、ウィルと一緒にいる時の方が心臓が痛いくらい苦しくなるから……
苦しいのに、一言一言が嬉しくて、顔が熱を持つのは全部ウィルと一緒にいる時だから……
「っ!!」
あぁ、こんな時に分かるなんて……
自分の気持ちに、つい自嘲めいた笑いが零れそうになるのを堪え、私は自分の胸に手を当てた。
そして真っ直ぐに向けられた視線に自分の視線を交わらせ、私はゆっくりと口を開いた――。
20210721.
次回更新予定日は7月23日です。




