46.【SS】僕は君の騎士でありたい。(ユリウス目線)
ブックマーク&作品評価ありがとうございます!
僕にとってティアは生まれた時からずっと可愛く天使のような女の子だった。正直、存在自体が尊すぎて一生そばに居てくれるだけでいいとさえ思っていた。
嫁になんて行かないでいい。鳥籠の中で世界を知らない小鳥でいてくれればいい。愛なら僕が嫌という程注いであげる。一生何一つとして不自由のない生活をおくらせてあげられるのにと、ずっとそう思っていた。
……いや、なんなら今でも少しはそう思っているが、当時は今よりもっとそう強く思っていた。
ティアが9歳ながら年齢に似合わず聡明な事はずっと前から気づいていた。
いつからだろうか。…………あぁ、あれは確かティアがまだ5歳の時だ。
何かを考えてよく首を傾げている姿を何度も見た事があるし、聞いたことも無い物の名前をよく口にしては頭の中で何か答え合わせをしているような感じだった。
そしてある日、ティアは突然大人びた表情を見せるようになった。何かを考え集中しているのかたまにどこか一点を見つめてボーッとしていることもあった。部屋にこもり紙に何かを書き殴る姿を見た事も何度もあるし、その度に頭を抱える姿も何度も見た。
僕に気づけばふわりと頬を緩ませ笑顔を見せるが、常に何か悩んでいるような表情を浮かべていた。
そしてある日を境にティアは無理しすぎじゃないかと心配になるほど淑女のマナーレッスンを受けるようになった。親バカならぬ兄バカと言われるかもしれないが、元々美しい容姿に努力が加わりティアはみるみる美しい少女へと成長していった。
しかも美しいだけではなく、賢く情勢についてもよく考える子だった。どうすれば領地が潤うのか考え、人材採用の制度について幾つか僕らが思いつかないような改正案を出しそれは見事採用された。
たった7歳の子供が提案した事が採用され、さらに数ヵ月後には目に見えて数字として表れた事実に僕も父も驚かされた。
それ以外にも6歳の時既に高レベルの数の計算を軽々と解いたり、学者が聞いたら目を飛び出すであろう発想を何度もしてきた。他にも見た事ない独特な絵の描き方をするがこれがまた上手い。
ティアのおかげで領地が潤いつつあるのは我が家では使用人含め当たり前に知っている事だった。……恐らくティアだけは知らないだろうが。
だからこそずっと危惧していた。ティアに利用価値を見出した奴がティアを利用してしまうのではないかと。
美しい容姿に目を惹かれれば、ティアの聡明さに気づくのは時間の問題だ。
それがまさかユーリだとは思わなかったが。
ユーリの事情は分かっている。だからこそどうしてユーリがティアを選んだのかもすぐに分かった。
現在、伯爵位以上の貴族子息令嬢は圧倒的に男児の方が多い。だからこそ跡取りである長男は早い段階で親同士が婚約を決める。
しかし王太子であるアルフレッド殿下が産まれて以降、どの家も自分の娘を未来の王妃にと考えるようになったため貴族間の婚約が一時的に減ってしまった。
殿下が婚約者を決めさえすれば、再び殿下の婚約者になれなかった令嬢の親達は少しでも好条件の相手を探そうと躍起になり両家の長男、もしくは二男との婚約を結ぶだろうが、アルフレッド殿下はまだ数年は決める気が無さそうだ。
……というより殿下もティアの事を婚約者にと考えているらしいのだが、ティアにその気がない以上王族といえどお断り案件である。
しかし、だからこそユーリには時間が無い。
現在婚約者のいないユーリは三男という事もあり婚約の優先順位は兄弟の中では最も低い。長男にはいるものの二男にはまだいない。
だから呑気にアルフレッド殿下が婚約者を決めるのを待っていては、先に長男が結婚し正式に跡を継いでしまう可能性がある。
さらに、例え殿下が婚約者を今日決めたとして、選ばれなかった令嬢の1人がユーリの婚約者になったもしても、彼女がユーリの野心を支えられるほど聡明な女性とは限らない。
そんな、さてどうするか。と考えていた所に現れたのがティアだった。
我がセリンジャー家は王家に忠誠を誓っている事で国王陛下からの信頼が厚く、歴史もある家だ。
さらにティアのこれまでの功績からしても、ティアと婚約することはユーリにとって大きな後ろ盾となる。
さらにユーリが持って生まれた魔力という才能。博識な長男に負けず劣らずの知識量、近衛騎士団所属の二男をも凌駕する剣の才。そして隠し持っている野心。
そこにティアの聡明さが加われば、ユーリが次期当主になる可能性は飛躍的に上がる。
これがユーリがティアにこだわる理由だ。
「……腹立だしい」
1人残された廊下の一角でバンッ!!と握りしめた拳を壁に打ちつければジンジンと鈍い痛みが広がる。
普段こんなにもイライラする事はほとんどないため、この行き場のない怒りのおさめ方が分からず余計にイライラする。
グシャッと前髪を掻き毟れば、手を握りしめ過ぎたせいで爪がくい込んだ掌に血が滲んでいるのが目に映る。小指側の側面はぶつけたせいで赤くなりじんわりと熱くなる。
僕の天使のような妹。
僕の可愛いティア。
ティアには自身が望むように生きて欲しい。
政略のためになんて絶対使わせない。
家に縛られるのは僕一人で充分だ。
もしティアが望むならその全てを叶えてやりたい。
ティアが僕の元を自分の意思で離れていくまでは、僕は君の優しい兄であり、君を守る騎士でありたい。
20210709.
次回更新予定日は7月15日です。
今日でこのお話を書き始めてから2ヶ月が経ちました。読者の皆様には感謝の言葉しかありません。
本当にありがとうございます!
今後もよろしくお願い致します!!




