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【書籍化】乙女ゲームの設定で私に義弟なんていなかったはずだけど、トキメキ止まらないので悪役令嬢辞めて義弟に恋していいですか?  作者: 雨宮レイ.
第1章

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45.【SS】ユリウスの怒り(ユリウス目線)

ブックマーク&作品評価ありがとうございます!


現在誤字脱字など全話確認中です。

内容に大幅な変更はございませんのでご安心ください。






――バンッ!!!



叩きつけた手によって机が大きな音を立て、鈍い痛みが握りしめられた手にジンジンと伝わるが、今はそれよりも目の前の手紙に苛立っていて痛みなどどうでもよかった。


目の前に書かれた名前に僕は今苛立ちを隠せそうにない。この場に父上以外いなくて良かったと、特にティアがいなくて良かったと心底安心する。こんな姿ティアには見せられない。



「もちろんこの話は断ったのですよね?」

「いや、まだだよ?」

「まだ……?なぜですか!!」

「公爵家からの申し出だからねぇ。そう簡単には断れないよ。」

「僕はティアに望まぬ相手との婚約をさせつもりはありません。それは父上も同意見だと思っていましたが」

「僕も同意見だよ。だから今はまだ、ね」



今はまだ?…………なるほど、そういう事か。


父上の含みを込めた言葉に、自分がどれだけ冷静では無かったのか分かり、小さく息を吐いて苛立つ心を落ち着かせる。



父上はヒューベルト公爵家三男、ユーリ・ヒューベルトからの婚約申込をキープすることで他家からの婚約を牽制しようとしている、という事だろう。


今すぐ断ってしまえば、これから先ティアへ来る婚約の申し込みかよりいっそう増える事は目に見えている。

しかし、この国で王族に次ぐ力を持つヒューベルト公爵家からの婚約申込を検討中とあれば、常識を持つ貴族ならばそう簡単にティアに近づくことは出来なくなる。

つまり、父上はユーリを利用しようとしているという事だ。



「しかし、その効力は長くは持たないはずです」

「そうだね、せいぜい一ヶ月、と言ったところだろうね。」

「その後はどうなさるおつもりですか?」

「どうしようね。」



苛立つ僕を見て楽しそうに笑う父上は性格が悪いと思う。この人はいつもそうだ。ティアを大切に思っていて、きっとどうするかなんて決めているくせにわざとはぐらかす。



これ以上突っかかった所で父上を楽しませるだけだと思うとこんな所でイライラしているだけ無駄なことだろう。


僕は自室に戻り急いで学園の制服に身を包み家を出た。






◇ ◇ ◇






「ユーリ」



学園へ着き教室へと入るとすぐにクラスメイトと楽しそうに話をしているユーリに声をかけた。


学園での僕は基本的に何に対しても興味が無い。ティアやウィルに見せるような表情の変化はほとんどなく、冷たい印象を周りには与えている事だろう。



「よー、ユリウス」

「ちょっと」



まるで、どうした?とでも聞きたげに笑顔で近づいてくるユーリに僕は苛立ちを隠すことなく背を向け教室を出る。

後ろを着いてくるユーリはニコニコといつもの楽しそうな笑みを浮かべたままだ。



……ユーリもそうだ。分かっていて知らないフリをする。僕がどんな風に怒りを見せるかを楽しみにしているんだ。

それが分かるから余計に腹が立つ。


人気のない場所で足を止めてユリウスと向き合えば僕は鋭い眼差しで彼の瞳を真っ直ぐに睨みつけた。



「どういうつもりだ?」

「どういうつもりって、何が?」

「本当に分からないと?」

「んー……あぁ、もしかして婚約のことか?」



もしかして、なんて態とらしいにも程がある。



「いやぁ、なんつーか、本気で欲しくなったんだよ。クリスティアの事」

「それは、()()()()()()か?」

「そんなつもりは無い、って言ったら嘘になるな。でも、クリスティアだから欲しいって気持ちの方が大きいのは確かだぜ?」



私欲のためにティアを利用しようとする。その気持ちに大きいも小さいも関係ない。少しでもそんな気持ちを持ち、さらに行動に移したユーリを今は心底軽蔑する。



「普段のお前が良い奴な事も、お前が自分の立場にもどかしさを感じている事も僕は知っている。けどな、お前の都合でティアを利用するのだけは許さない!!」



怒りのままに手が伸びれば、ユーリの襟首を掴み壁に押し当てた。ドンッと衝撃が僕にも伝わるくらいだ、ユーリも背中を壁に打ち付けた事だろう。



「それはクリスティアが決める事だ。ユリウスが決める事じゃない。」

「それでもそんな考えを持つお前にはティアは渡さない。」

「俺はクリスティアの意思に従うだけだ。それに、正式に家を通して書類を送れって言ったのはユリウスだぜ?」



笑顔を崩すことなくいつもの調子でそっと襟首を掴んでいる僕の手を掴みゆっくりと離させれば、ユーリは案の定楽しそうに声をあげた。



「ははっ、ユリウスでもそんな顔するんだな。」



その表情は笑っているのにどこか泣いているようにも見える。乾いた笑いと共に、呟いたどこか悲しげな声はすぐに空気に溶けて消えていった。



「俺はお前が羨ましいよ。」



ずっとユーリが三男という立場に悩んでいたのを僕は知っている。

だからユーリのこの言葉は、僕が長男であり家を継ぐ立場だと言うことへの羨望からでたのだろう。



ヒューベルト公爵家は貴族の中で最も力を持っており、過去には何度も王族との婚姻関係を結んできた歴史ある家系だ。

騎士の家系であり、代々騎士を輩出し王宮に仕える事を誇りとしている。そんなユーリの兄2人もエリート集団と謳われる近衛騎士団に所属している。



僕から見ても彼らはとても優秀な方々だ。恐らく数年以内に長男は家を継ぎ、二男は近衛騎士団団長になるだろう。


そうなると三男のユーリは出る幕がない。例えユーリが兄達にはない魔力を持っていたとしても、剣の才を持っていたとしても所詮三男。ユーリに家を継ぐ未来はない。



騎士になるか、魔術士になるか、分家を立ち上げるか、もしくはどこかの家に婿入りするか。

放浪という未来を除けば、ユーリに残される選択肢はせいぜいこの4つだろう。



この世が全て実力主義だったなら彼は簡単に次期当主の(その)座を手に入れられるというのに。


これは少しの同情だ。



ユーリの兄達は優秀だ。しかしユーリはそんな優秀な彼らとは比べ物にならない知識と力と野心を隠し持っている。


剣においてはユーリが()()()()()()()敵う者はこの国には居ないだろう。現在(いま)の近衛騎士団でさえ数人がかりで挑んでもユーリは軽々と勝利を収める実力を持っている。

単純な魔力勝負なら僕も負けないが、剣と魔術を組み合わせ本気を出したユーリには僕も勝てるとは思えない。



生まれつき魔力を持ち、剣の才能に恵まれ、さらには野心まで隠し持っている彼は、三男という立場からそれらを隠してきたが、その力を表に出せば簡単に2人の兄を超えてしまうだろう。



しかしそうしたが最後、家族や国から自分がどんな扱いを受けるかユーリ自身が一番理解している。だからこそその力を隠し、無害な三男を演じているのだろう。



ただ、僕は知っている。ユーリが野心を隠し持っている事を。ニコニコと笑顔を浮かべるその裏で、機会を伺っていることを。そして、ティアを利用しようとしてる事を。









20210708.


次回更新予定日は7月14日です。



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