41.殿下の魔力量は国内でも上位らしいです。
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「アルフレッド殿下。私はクリスティア様に私情により失礼な発言や態度をとりました。今ここでその罪をお裁きください。……騎士団からの除籍も受け入れる所存です。」
突然エルガーがそんな事を言い出したため私は思わず目を見開いて驚いてしまった。
しかし、殿下は特に驚いた様子もなくエルガーに向けていた視線を静かに私に移した。
「クリスティア様、彼の言う事は本当ですか?」
事実確認、と言ったように殿下が私に問いかけている間もエルガーは頭を下げたままだ。
告げ口するつもりなんて本当に無かったし、何故敵意を向けられているかは分からないが、彼が仕事だと言ったのも私に関係が無いことも事実であり、態度はともかく失礼な発言は何も無かった。
確かにさっきは彼の態度に腹が立ったが、今となってはもうそんなに気にしていない。それに、ヘラヘラと媚びへつらう人よりは全然騎士として信頼できる態度だった。
それよりも、今ここで彼を近衛騎士団から除籍しルートから外すよりも、味方につけた方が得策なのではないか。……なんて私の脳内は如何に自分が将来断罪されないかばかりを考えている。
私って結構自己中心的だよね……。
「騎士様はご自分のお仕事をしっかりされておりました。そのため私には、騎士様が仰るような事をされた記憶がございません。」
「っ!?クリスティア様!?」
「残念ながら、私には無実の方に濡れ衣を着せる趣味はございませんわ、殿下。」
私のエルガーを庇うような発言に、彼は下げていた頭を勢いよく上げたが、私は殿下に対しハッキリと事実無根の話だと言い切った。
「それに、仮に事実だったとしても私は将来有望な騎士様を失う事を得策だとは思いません。もしエルガー様が気になさるのであれば、殿下や国の為、今後今まで以上に精進してください。」
私がそう言えば、エルガーは右の掌を胸に充て真っ直ぐに私の目を見た。そして……
「エルガー・ヒューベルト、今後より一層精進する事をクリスティア様に、そして騎士の名に誓います。」
そう騎士の名に誓うと言った彼の目からはさっきまでの鋭さはなくなっていた。その代わりどこか優しさを含んだ柔らかい視線が私に向けられていた。
あれ……?誰かに似てる気が……
ふと、エルガーの顔を見てそう思った。先程までの鋭い視線の時は何も気にならなかったのに、今の柔らかい視線は何だか見覚えがある気がした。
しかし、それが誰なのか喉まで出かかっているのに引っかかって中々出てきてくれない。
えっと……んー、あー、えー、だれだったかなぁ……、と頭を回転させるも何だか凄くもどかしいと言うか、気持ち悪いというか。悶々とした気持ちになる。
そんな私を余所に殿下は「分かりました。」と私とエルガーを交互に見てから言葉を続けた。
「では僕は何も聞かなかったことにしましょう。」
それは遠巻きにここに居る者に対し、この事は口外するな、忘れろ。という意味だろう。私がいくら否定してもここに居る人が噂話として広めてしまっては元も子もない。それに噂話なんて誇張されて広まる物だが、それを真実と受け取る人もいる。そのため、この場限りの話として貰えるのは正直かなり有難かった。
「エルガー、2度目はないと思え。」
「はい。」
「クリスティア様、お心遣いに感謝致します。僕個人としても国としても、優秀な騎士を失わずに済みました。」
「私は本当の事を言っただけですので感謝される事などしておりませんわ。」
そう笑顔を見せれば殿下もホッとしたように目じりを下げて笑顔を浮かべた。
近衛騎士団に入れるほどの実力を持つ彼を除籍するとなると相当な痛手になる。それに近衛騎士団は貴族平民関係なく実力主義ではあるが、エルガーは貴族であり、騎士の家系である。そんな彼を除籍するのは王族として避けたかったのだろう。
私としても、ゲーム内容と違う現実を進む今、彼がルートから外れて知らない所で知らないうちにヒロイン側に付いていたりして敵対するのは是非とも避けたかった。
それこそ逆恨みでもされたらたまったもんじゃない。それなら味方につけた方が色々と安心できるし、心強いもんだ。……まぁ味方になってくれるかはわからないけど、それでも敵対しているよりは全然マシ。
……という、100%自分の明るい未来のための行動だから、感謝をされると良心がちょっと痛む。
「それじゃあそろそろ帰ろうか。」
「もう今日は終わりなのですか?」
「うん、初日だしね。最初から無理しすぎても良くないからね。魔力制御を覚えながら少しずつ使う魔力量を増やすつもりだよ。」
そういうものなの?
ウィルの魔力操作の訓練は最初から結構ハードだった気がしたけど……
魔力を使った訓練を始めた頃のウィルを思い出す。外が暗くなるまでやっていたからいつもウィルはヘトヘトになっていた。(お兄様は涼しい顔をしていたけれど。)
そして直ぐに魔力操作だけではなく、剣を握りながら魔術を同時に使う訓練もしていたはすだ。
もしかして、短時間の訓練しかし無いのは殿下の魔力量が関係してるとか?
ゲーム内で殿下は魔力量が少なかった。それはお兄様と比べられコンプレックスを抱くほどに。だから直ぐに魔力が切れてしまって長時間の訓練が出来ないとか――
「アルフレッド殿下、殿下の魔力量は国内でも上位に入るほどです。ですので先ずは魔力制御の訓練を続けましょう。大切な人を守るためにも魔力のコントロールは大切です。」
――え?まって、まって???今、『殿下の魔力量は国内でも上位に入る』って言った!?どういう事??
私の記憶が正しければ殿下の魔力量はかなり少なかった。そのせいで悪役令嬢は近い未来とばっちりを受ける。……はずなのに、殿下の魔力量が多い?つまり、どういう事??
私は直面した矛盾に混乱しつつも、情報を整理しながら頭をフル回転させる。
殿下は魔力量が多い。つまり、お兄様に対してコンプレックスを抱く事はない。そしてそれはつまり、私にとばっちりがやってこないということ?で、オーケー?
「そうですね。せっかく手に入れた力です。僕はこの力で大切な人を守れるようになりたい。ユリウス殿、今後も御指導よろしくお願いします。」
「もちろんです、殿下。」
ギュッと自分の掌を見つめながら強く握りしめた殿下の目には強い決意が込められているように見えた。
そしてふとゲームの断罪イベントでの殿下の台詞が脳裏に浮かぶ。
『俺が守るべき民の中に彼女も居たのだがな。』
悪役令嬢を断罪した後、王太子殿下がヒロインにそう呟くシーンがあった。
これは確か、正確な選択肢を選べなかった時に進む普通のハッピーエンド……つまり、ファンからしたらなんの面白みもない例のノーマルエンドでのみ出てくる台詞である。
ノーマルエンドではアルフレッドの裏の顔は出てこないため、ヒロイン目線からすると穏やかで優しい王子様、として話が最後まで進む。
そんな彼が断罪した相手に対し、『俺が守るべき民の中に彼女も居たのだがな。』なんて言うのだ。何も知らないヒロインからしたら彼は優しい王子様に見えるだろう。
……実際私も様々な隠しルートを見つけ、全て正しい選択肢を選ばなければならないハッピーエンドに出てくる彼の裏の顔を見るまでは優しい王子だと信じきっていた。そのためそのセリフに母性本能を擽られたのを覚えている。
その言葉が殿下の本心なのか、本心では無いのかは今となっては分からないけれど、少なくとも目の前にいる殿下はこの国の第一王子として、次期国王としてこの国を守りたいのだろうと。そしてその中にはきっと私も入っているのだろうと今なら信じられる。
……なんて都合のいい考えなのかもしれないけれど。
20210621.
次回更新予定日は7月1日です。