37.ウィルの才能は天才級でした。
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「もう終わり?」
「……っ!!まだ、ですっ!!」
肩で息をするウィルは再び剣を握る手に力を込めると剣を振りかぶりお兄様目掛けて振り下ろした。
キィィィン――と剣がぶつかる音がしてすぐ2人が同時に距離をとったかと思うと、今度は間髪入れずに目の前で魔法攻撃が繰り広げられている。
夏も終わりに近づいて、ほんの少し肌寒さを感じ始めた今日この頃。
私は毎日料理長のヴィーおじ様と一緒にお菓子を作って、それを持ってお兄様とウィルの実技稽古を見に来るのが日課になっていた。
あの日、ウィルは大事な秘密を私たちに打ち明けてくれた。それは私にとってもお兄様にとってもすごく驚いた事だったけど、ずっと秘密にしていた事を話すのはやはり勇気がいるのかウィルのいつも以上に固く握られた手は少しだけ震えていた。
ウィルがどう思っていたのかは分からない。怒られると思っていたのか、それとも嘘だと言われるのかと思っていたのか、何故あんなに思い詰めた表情で打ち明けてくれたのかは今でも分からないけど、私とお兄様が大興奮した事でウィルが少しだけ安心した表情を浮かべた事を私は見逃さなかった。
『実は僕には――――、魔力があります。』
そう言ったウィルに私とお兄様は一瞬ポカンとしてから、興奮して喜んだ。
ただ、ウィルは一度も使ったことがないようで属性や自分の力がどれほどなのか知らなかったが、お兄様が簡単に魔力の流れや発現させる方法を伝えるとウィルは簡単にやってのけて魔術を発現させた。
しかも、3つの属性を、だ。
ウィルには氷属性、風属性、そしてこの世界ではかなり珍しい雷属性を持っていた。
しかも氷属性は調節することで水属性も使えると言っては過言でないため、ほぼ4属性である。
ウィルは天才だったのだ。
それもお兄様を上回る才と魔力量を持ち合わせた。
この世界には8つの属性が存在する。
火・氷・雷・風・土・水・光・闇
その中でも光属性は特別で今この世界に持っている人はいないらしい。
闇属性は持って産まれてくるものではなく後天的に条件を満たせば手に入れることが出来るが、何百年も前から禁止され王宮にて関連書籍は全て厳重保管されている禁忌魔法である。
つまり今この世界に存在しているのは6つの属性であり、そのうちの3つ、もとい4つを使えるウィルは天才以外の何者でもないのだ。
しかしその力を持つということはメリットばかりでは無い。力が大きすぎると暴走する事もあるし、身を滅ぼすこともある。
それに魔力を持つ子供は貴族から欲しがられる。たった一人魔力を持つ子供がいるだけでその貴族には国から恩恵を受けられるからだ。全ての人がそうではないが、中には誘拐や脅迫がまいのことをしてその子供を奪う人もいるという。
そして力の大小はどうあれ、そのたったひとりが貴族間のバランスを崩すほどの力を持つのも事実。
きっと、ウィルの両親はウィルの才能に気づいて争いに巻き込まれないようにその力を隠そうとしたんだ。
ウィルは自分の持つ力を忌み嫌われた力だと言った。
それはきっとそう言う事でウィルに力を使わせないようにしたんだ。
そしてそれはたぶん、正しい判断だったと思う。
「ウィル、もっと集中して」
「っ、はい!!」
「そう、しっかりとイメージするんだ」
目の前でお兄様がウィルに声を掛けながら自分に向かってくる剣や魔法をサラリと躱している。
お兄様も凄いけど、たった2ヶ月で魔力をコントロールし、魔術を次から次へと繰り出せるウィルも凄い。
お兄様の稽古によってウィルは直ぐに魔力コントロールを覚えた。
この世界に魔力を扱える人は少ないため本来なら幼少の頃より王宮、もしくは他家から家庭教師を呼びその力の使い方を覚えるのだが、この家には誰よりも優秀なユリウスお兄様がいるためユリウスお兄様自らウィルに力の使い方を教えていた。
ウィルの力はあのお兄様をも超える。となると、並大抵の魔術士ではウィルの力にならないだろうという国王陛下直々のお達しである。
元々ウィルの事は養子にするときに国王陛下に報告していたらしい。それもそうだ、お父様と国王陛下――もといアッシュおじ様、ウィルのお父様は学園での親友だったのだから。アッシュおじ様もウィルの事をとても心配していたのだから報告するのは当たり前である。
……が、ウィルに魔力がある事を報告した時は流石に驚いていたらしい。しかし、懐かしむように「そうか」と呟いたアッシュおじ様は国内外問わず狙われるであろうウィルを守るようにお父様に言ったそうだ。
「お疲れ様です、休憩ですか?」
「うん、無理のし過ぎは良くないからね。」
「ウィルもお疲れ様、かっこよかったよ」
「っ!!あ、ありがとうございます!」
テーブルと椅子、お菓子やお茶のセットが置いてある私の元に剣を鞘にしまってから来たお兄様とウィルに私は綺麗なタオルを渡す。
ウィルはかなり汗をかいていて肩で息をしているが、ユリウスお兄様は汗ひとつかいておらず余裕の笑みを浮かべていた。
「ティアはずっと見ててつまらなくないかい?」
「いいえ、お兄様とウィルのかっこいい姿を見るのはとても楽しいです!」
「そっか。それは嬉しいね。でも少し寒くなってきてるから風邪だけは引かないように気をつけるんだよ?」
「はい、ありがとうございます。」
相変わらず優しく心配してくれるお兄様は私の右隣の椅子に腰掛けるとウィルも続いて左隣に腰を下ろした。
「ウィル、稽古はどう?辛くない?」
「そうですね、辛くは無いです。どちらかと言うとやはりまだ難しいですが、でも楽しいです。」
「そう、それはいい事ね。」
「はい。今はまだ自分の力や体力の無さを痛感するばかりですが、以前と比べるとこの力を使いこなせるようになったと実感出来るので……」
その表情はとても柔らかい。
ウィルがこの家に来た時より、ウィルの笑顔を見ることが格段に増えた。それに無理した笑顔とかではなく、自然と出てくる笑顔だとわかる。弟の柔らかくなった表情を見ると私も釣られて笑顔になってしまう。
「ウィルは筋がいいからね。僕も追い抜かれないように頑張らないとね」
「いえ、まだまだ兄上には敵いません。でも必ず追い抜いてみせます。」
「ははっ、それは負けられないね。」
兄弟仲もかなりいいようで嬉しくなる。というより、師弟関係に近いのかな?
これまでお兄様の戦う姿をあまり見た事がなかったけれど、ウィルの稽古で2人の戦う姿を見る機会ができて私はとても嬉しい。2人とも自慢したりするような事をしないから。
仲良く話す2人を眺めながら紅茶を口に運ぶと「そう言えば」とお兄様が口を開き、私はお兄様の耳に声を傾けると思わず……盛大に噎せた。
それもそのはず――
「ティアは好きな人はいないのかい?」
なんて急に聞かれたのだから。
「ゴホッ、ゴホッ……、えっ!?きゅ、急にどうされたのですか!?」
「いやぁ、最近父上の元にかなりの数の婚約の申込が届いているらしくてね?」
「えっ!?」
そうなの!?初耳なんだけど……!?
「まぁ、ティアは世界一美しい女性だからね。実はこっそり父上の机に僕からの申込書も置いておいた。」
「っ!?えっ!?お兄様もですか!?」
「うん。僕も候補の1人にならないかなぁと思って」
いやいや、お兄様と私は血の繋がった兄妹ですよね??そんな爽やかな顔して言われても……
「何しているのですか、兄上。」
ほら、ウィルも呆れて……
「それなら僕も今から父様に申し込んで来ます。」
……っ!?はいぃ!?
「あはは、いいね!やっておいで!」
「では、」
なんて言って本気で席を立とうとするウィルを慌てて止めるが、お兄様は相変わらず楽しそうに笑っているだけである。
いやいや、止めてよ!!なんて心の中で願うがもちろんお兄様には届かない。
「あはは、僕はウィルにならティアを渡してもいいと思っているよ」
「ありがとうございます。この命に変えても幸せにします。」
「うん。僕の世界一大切なお姫様なんだ。幸せにしてくれなかったら……分かってるよね?」
「もちろんです。」
んっ、んー????なんで私を置いて話が進んでるのかなぁー!?!?
なんて思っても口を出すタイミングが分からなくて大人しく目の前の茶番を見届けていると、今度はウィルの話になりウィルはあからさまに表情を歪めた。
「冗談は置いておいて、ウィルにも沢山届いていたようだけど誰かに返事はしたのかい?」
「兄上、分かって言ってますね?」
「んー?何のことだろうか。」
なんて笑顔でとぼけるお兄様にウィルは、はぁ……。と深いため息をつき、私の顔を見るとウィルは爆弾発言を投下した。
「僕には心に決めた人がいます。その方以外との婚約は考えておりません」
20210609.
次回更新予定日は6月27日です。




