36.【SS】罪人の行く末(ユリウス目線)
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「……という事だ。ハーバル伯爵は財産を全て国が没収し爵位剥奪の上、当主は牢獄へ、夫人と娘は辺境の村にある男爵家へ行く事になってたんだけど……」
「何か問題が?」
「いや、どうやら夫人と実家の男爵家は仲が悪いらしくてな。娘と共に邸に籠城紛いの事をして閉じこもっているらしい。」
「……はぁ。それはまた、頭の悪い事を」
「そう言ってやるな。彼女らは至って真面目にやっているんだ。……まぁ確かに頭は悪いがな。」
静かな執務室にふたつの溜息が響く。
目の前で机に肘をつきもう一度大きく息を吐いた父上は「めんどくさい」とボソッと呟いた。
……同感だ。
何故そんな直ぐに突破されるであろう無駄な足掻きをして罪を重ねるのか理解できない。
言われた通り出ていけば何も無かったものを籠城紛いの事をして自ら罪を作るその精神……流石だな、と呆れてしまうのも無理はない。
学園から帰ると珍しく先に帰宅していた父に執務室に呼び出されある報告を受けた。それはウィルの誕生日の日に街へ出た時のトラブルの結末だった。
事の発端は、カフェでウィルとティアと3人で休憩していた時、ハーバル伯爵家の令嬢が挨拶に来たかと思いきやウィルを養子だと貶す発言から始まった。
その後、正式に家を通じて抗議したところハーバル伯爵は事実無根と全面否定。あまりに話が通じないため、国の機関に依頼するという大変面倒くさ……大掛かりな調査を行った結果、店の者や客からの目撃情報があがりハーバル伯爵令嬢は黒と判断された。
そして、たまたま(という体で)調査中にまさかのハーバル伯爵家の犯罪疑惑が次から次へと出てきたのだ。
横領に強盗、暴行……、そして信じられないことに殺人の疑惑まで上がってきたのである。
もちろん疑惑が出たからには調査を進めるのが当たり前で、国の機関が邸への出入りを拒否するハーバル伯爵を押し切って調査した結果、証拠がどんどんでてきたそうだ。
しかも、わざわざ自分の犯した罪を事細かに書いた紙や、誰か下の者にやらせた後の報告書などを纏めた冊子が書斎の机から1番取りやすい位置の本棚に、それはそれはご丁寧に置かれていたらしい。
……馬鹿なのか?
と思ってしまうのも無理はない。普通の者であればそんなものは証拠になってしまうため暖炉の火に入れて燃やすだろう。間違っても自分で犯罪内容を書き留めておく事なんて絶対にしない。なのにそれを集めて冊子にし、書斎の机から1番手に取りやすい場所に置いておくだなんて……。
頭が悪いにも程がある。
まぁハーバル伯爵の性格からしてその冊子を見ては自分の力の強さに酔っていたのだろう。自分が1番強い。自分に逆らえる者などいないなどと、声高々に笑っていたのだろう。……わかり易い。
娘の方は同じ学園だが、父親同様自分の身分をちゃんと理解しておらず、さらに下位の者に対する態度は醜くて仕方ない。
子は親を見て育つとはまさにこの事か、と納得出来るほどハーバル伯爵令嬢は父親に似て……いや、この場合、両親に似て頭が悪い。が正解か。
「しかもタイミングが悪かった。」
「そうですね。まぁウィルの魔力は誰にも予想しえなかった事ですが」
この国で魔力を持つものは特別である。そのため、国が魔力を持つ者を把握しているのだ。万が一この国で生まれた貴重な魔力持ちの子供が他の国へ鞍替えしないように。たった一人の魔術士の行動によって国のパワーバランスが一気に崩れることもありえるからである。
そのため国では魔力持ちを保護する法律がいくつも存在し、学園への入学資格や金銭など国からの恩恵を受けられるようになっている。
「でも、だからと言って他人を貶していいわけじゃない。ハーバル伯爵令嬢には魔力を持つ者に対した侮辱罪が今回の一件で成立するだろう。」
「さっさと田舎に引っ込めば良かったものを。頭が悪いとは本当に可哀想ですね。自分の首を自分で絞めているのに気づいていないのですから。」
「そうだね。このままだと夫人も犯人蔵匿罪で牢獄行きだろうね。」
知らなかったとは言え、ハーバル伯爵令嬢は魔力持ちのウィルを貶してしまったのだ。
魔力が確認されていなかったその段階ではなんの罪でもない。……が、ウィルの魔力が確認され国に認められた時点で侮辱罪が成立する1歩手前までいってしまったのである。
何故1歩手前なのかと言うと、魔力持ちは珍しく、国からの待遇などが特別であるが故に知らない所で反感を買っている場合が多い。いちいち相手にしていたら侮辱罪だけでかなりの者が捕まるだろう。
そんな事態を国としては避けたい為、一度の侮辱罪は厳重注意と一定期間の行動制限(国外に行けないなど)、貴族であればそれらに加え罰金など、その程度で済むようになっている。
ただ、ここで重要なのは、次に罪を犯したときは罪の大小に関係なく問答無用で牢獄行きとなるという事である。
反省しない者には容赦しない。それが例えどんなに小さな罪だろうとも。というのがこの国の法律なのである。
つまり彼女は今、たかが籠城紛いの事だろうが罪を犯しているのである。そしてそれは侮辱罪が成立する事を表している。
そして犯罪者の娘を隠し庇っている夫人もまた、犯人蔵匿罪が成立してしまったのである。
さっき言ったようにさっさと田舎に引っ込めば犯罪者にならなくて済んだものを、彼女達は自ら進んで犯罪者になったのだ。
「明日の正午までに出てこないようなら強行突破するみたいだよ。」
「そうですか。」
「どう?ユリウスの思い描いた未来になったかな?」
「……7割、と言った所でしょうか。でも、そうですね、犯罪者のレッテルを貼られた彼女が後ろ指を指されて生きていくのだと思うとこんな未来もアリなのかと思います。」
プライドの高いハーバル伯爵令嬢は今後、犯罪者として生きていく。
出来れば彼女が自信を持っている顔を二度と外を歩けない様な醜いものにしてやりたかったが、まぁ最低限の社会的制裁は与えられるようだから良しとしよう。
自分の欲しがった未来とは多少違うが、彼女にとっては死ぬより辛い現実だろう。
「ふふっ、僕の可愛い息子は一体誰に似たんだろうねぇ。」
「それは父上かと。」
「えー?僕そんなに怖くないよー?」
……怒らせたら誰よりも怖いくせに。
ニコニコ笑っておどけている父上に内心で言い返すだけで声には出さない。
その笑顔の裏にどれだけの感情を持っているか未だに僕でも掴めない。父上はそれほど感情を隠すのが上手く、そんな父上に舐めてかかって潰された家は少なくない。
正直、この人には一生敵わないとさえ思ってしまう程だ。
しかし敵わないと思っている事がバレてはいけない。僕も感情を隠すように父上にニコリと笑顔を見せて軽く頭を下げ部屋を後にしたのだった。
20210609.
次回更新予定日は6月26日です。




