32.ホラー展開にご注意を!?
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※やや怖い話を含みます。苦手な方は回避してください。
この日は朝から天気が悪かった。
黒く分厚い雲が天を覆い隠すがまだ雨は降っていないため、湿度の高い空気は何とも気持ちが悪い。
ベタベタする肌に髪は湿気を含み膨らみ、気分も下がるというものだ。
よくある日、と言ってしまえばそれまでだが、それにしても今日は天気が悪い。いっその事雨が降ってくれた方がいくらかスッキリするというものだ。
私は窓から空を見上げるが、真っ暗な空はより気分を落ち込ませた。
今日は外に行けないなぁ。なんて空から視線を落とし庭に咲く花を眺める。空とは違い色とりどりの花が綺麗に咲く姿は唯一の癒しとも言えよう。
風が吹いているのか、その花々は微かに揺れているが、特に吹き飛びそうと言うほどでも無い。
鳥が、人が歩きながら触れられそうなほど下の位置を飛んでいるのが見えて、そろそろ雨が降るかな。なんて考える。
今日はやけに静かだなぁ……
空はどんよりしていて、風も少しだけどある。
でも邸がやけに静かな事に違和感を覚える。いつもは何人もの使用人が慌ただしく動き回っている時間だろう。なのに今日は侍女すら見当たらない。朝起こしに来てくれるはずの侍女も今日は来なかった。
ふっと目を覚ました時、外が真っ暗だったからまだ夜か。なんて思ったけど、やけにスッキリしている脳に違和感を覚え目覚め時計に目をやるといつもより1時間の寝坊だった。
今日は特に予定がないからゆっくり寝かしてくれたのだろうか……?
なんて呑気に考えながらクローゼットから服を取りだし着替えをしいつもならいい匂いがしてくるはずの廊下に出るも、私は顔を顰めた。
いつもは綺麗に掃除されている廊下に今日は何故かゴミ(点を打つ)が落ちている。さらにそれがなんとも言えない不快な臭いを発しているから余計にだ。
どういうこと……?
なんでゴミが落ちてるの……?
掃除は……?
それに、使用人が誰も見当たらない……
明らかにいつもと違う自分の邸の光景に違和感を覚えながら私はゆっくりと足を進める。
まず向かったのは食堂だ。
この時間ならいつもお父様かお兄様がお茶を飲みながら新聞を読んでいるだろう。そう思いドアノブに手を伸ばしドアを開ける。
……が、そこには誰もいなかった。
ただ、この場所も同じでゴミが至る所に落ちている。
『ふたりとも、どこに行っちゃったの?』
思わず、はぁ、とため息がこぼれる。使用人もいないし、お父様とお兄様もいない。
じゃあ、お母様と弟はどこ……?
私は少し考えてお母様の寝室と弟の寝室へと向かったが、やはり2人とも居ない。
お腹がぐぅと鳴ってキッチンに行っても料理人ひとりいない。
たった一晩で汚く汚れ、誰もいなくなってしまった邸に私は困惑するしか無かった。
もしかして午後にかけて天気が悪くなりそうだから街に行ってるのかも……?
自分の領地を守るのがこの家に住む者の務め。だからもしかしたら街に出て避難誘導とかしているのかもしれない。そう思った私は1人で追いかける訳にも行かず諦めて部屋に戻り家族や使用人の帰りを待った。
そして今、待てども待てども誰かが帰ってくる気配はない。
いつの間にかどんよりした空からは雨が降り出して、風が強くなってきたのか窓がガタガタと音を立てて揺れ始める。
初めての経験に怖くならないわけがなく、私は部屋の電気という電気を全部つけて恋愛小説を手にベッドへと潜り込んだ。
部屋には本のページをめくる音と雨の音、時々窓が揺れる音が部屋に響くだけで他の音は一切ない。
『早く帰ってきてよぉ……』
時々本を閉じて抱きしめるように家族の帰りを願った。
しかし何時間経っても家の門をくぐる者はいなかった。
――いつの間にか眠ってしまっていたようで、目を覚ますと昨日の天気が嘘のように空は澄み渡り空気が軽かった。
その時玄関から音が聞こえ、私はやっと家族が帰ってきたのだと思い、部屋の入口近くに落ちていた少し大きなぬいぐるみの手を掴んで玄関に向かった。
しかし玄関に近づくも人の気配はない。その代わりドンドンと軽く玄関を叩かれている音が響きわっていた。
もしかして領民の方?だったら家族の居場所を知っているかもしれない!
私はそう思いながら玄関をゆっくりと開けた。
そこには何度か見覚えのある顔がいくつも並んでいて、私を見た瞬間その顔は酷く歪んだのが分かった。
私が出てきたから驚いたのかしら?
そう思いつつも、『お父様やお母様の居場所を知っていますか……?』と私が尋ねると、後退りした1番前に立つ男の人がゆっくりと手を上げて私の足元を指さした。
『……貴方と手を、握っているではありませんか……』
『えっ……?』
どういう意味?と思いながら手元を見て私はフッと笑顔がこぼれた。
だって……
『お母様、ここにいらっしゃったのですね!』
私が手を握ったのはぬいぐるみなんかじゃなくてお母様の手だったのだから。
そりゃズルズルと力いっぱい引っ張らないと動かないはずよね……
『あぁお母様、こんなに汚れてしまって……いえ、先にゴミは捨てないといけないわね……えっとゴミは……っと、あったあった……』
私はゆっくり振り向いてゴミを見つけると、にっこりと笑って――
『――お前だぁぁぁ!!!』
「「キャァァァァァ!!!!!!!!」」
私とウィルは揃って悲鳴をあげた。それはもう邸中に響き渡るような大きな声で。
「ははっ、2人ともビビったな!」
「ユーリ、あまり怖がらせないでくれよ。2人とも大丈夫?」
「いや、怖い話なんだから怖がらせてナンボだろ」
そう言いながら楽しそうに笑っているのは今日初めてお泊まりに来たユーリ様で、私とウィルはお兄様の両隣にしがみつくようにしてユーリ様の正面のソファーに3人で座っている。
ギュッと握っていたせいでお兄様の服はグシャッとシワを作っているが、そこにあった手は今は自分の耳を塞ぐようにギューッと耳に押し付けられながらブルブルと震えている。
何故こんなことになったかと言うと、最近怖い話が街で大流行している。と言う噂話が発端だった。
前世で怖い話と言えば夏に涼を求める為に流行るものが、何故かこんな冬の寒さがまだ辛い時期に流行ってしまった。
……いや、本当になんで??
そしてその噂を聞いたウィルが怖い話を聞いたことが無いという事をたまたま泊まりに来ていたユーリ様が聞きつけ、夕方、それぞれが勉強などのやるべき事を終えお兄様の部屋に集まるとユーリ様による怖い話が始まったのだった。
そして現在、私とウィルはブルブルと震えながらその事を後悔している。それはもう盛大に。
「ちなみにこの話は女の子が家族全員を惨殺して、邸の中にあったゴミが全部家族や使用人の死体だったってい――」
「ユーリ。」
「あはは、いやぁ、あまりに怖がるもんだからなんか面白くてな。」
「はぁ。あまり2人を震えさせないでください。僕の大切な妹と弟なんです。」
ゲラゲラ楽しそうに私たちを見て笑っているユーリ様とは反対にユリウスお兄様は、はぁ。と小さく溜息をつく。
「2人とも大丈夫かい怖かったよね……」
「怖すぎます!!こんなものが街で流行っているのですか?」
「そうだね、流行りとは不思議だね。」
「……兄様は怖くないのですか?」
「何度も聞いてるからね、慣れただけだよ。」
「……そう、なのですね……」
明らかにシュンとしたウィルの声が耳に届くが、私は今はそれどころではない。手や体は震えが止まらないし、心臓は今にも飛び出しそうなくらい早く動いている。
それもそのはず。私は前世の時から怖い話がすこぶる苦手だったのだ。テレビでよくやっているのなんて怖くて見れないくせに、好奇心からリモコンを持って何時でもチャンネルを変えれる状態で怖い話を見ては後悔してを繰り返してたっけ。
夜中にトイレに行きたくなった時なんて半泣きになりながらトイレに行って、帰りは電気を消すのを忘れるくらい慌てながらダッシュで部屋に戻っていたくらいには、本当に苦手なのだ。
にしても、生まれ変わっても同じ後悔をするとは思わなかった……
しかも家族構成とか、邸のイメージとかやたらと自分と重なる部分があって余計に怖くなる。
「ティア、大丈夫だよ。これは作り話だから。」
そう言って優しく私の肩にお兄様の手が回り自分の方に抱き寄せられる。
「大丈夫、大丈夫」
ポンポンとリズム良く優しく子供をあやす様に叩かれれば少しずつ心臓は落ち着きを取り戻していく。
「ティアにもウィルにもまだ少し早かったみたいだね。」
あまりの怯え方にユリウスお兄様は苦笑を浮かべている。が、怖いものは怖い。
恐怖とは自分でどうにかできるものでは無いのだ。
私は一生……(言葉通り)生まれ変わってもこれを克服できることは無いだろう……。
20210603.
次回更新予定日は6月22日です。




