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【書籍化】乙女ゲームの設定で私に義弟なんていなかったはずだけど、トキメキ止まらないので悪役令嬢辞めて義弟に恋していいですか?  作者: 雨宮レイ.
第1章

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25/85

25.無意識に選択した、より良い未来。

ブックマーク&作品評価ありがとうございます!

 




 ウィルの頑張りに触発されて私もサボり気味――必要最低限しかやっていなかった勉強に再び力を入れ始めた。



 決して常にウィルに構い、フラグ回避方法ばかりを考えていた訳では無い。それに常に暇なわけでも、遊んでばっかりだった訳では無いのだ。

 以前と比べると減ったにせよ、今でも週に1~2回程度は家庭教師を付けてもらい勉強していたし、礼儀作法やマナー、ダンスなどのレッスンも受けていた。



 え?嘘つくなって??

 酷い言われようですわね。ただ、ウィルに構ってる時間が多いからその行動が目立っていただけで、ちゃんとひっそりと努力はしてましたよ??


 その証拠に――



「――さすが、クリスティア様でございますわ!」



 そう私の目の前で手と手を合わせながら笑顔を浮かべるのは、黒い髪をピシッと上品に纏め、眼鏡をかけた隙を見せることの無い装いをした40代の夫人だった。


 彼女は私のダンスとマナーの先生であり、巷で有名な『笑わない夫人( ブラックマダム)』と言われ恐れられているヨーガネス伯爵夫人である。

 ……もう一度言おう、手と手を合わせながら笑顔を浮かべているこの夫人は、『()()()()()()』である。



 ヨーガネス伯爵夫人の指導はそれはそれは厳しく、逃げ出す生徒が後を絶たないと有名である。

 笑わない夫人から感じる圧力(プレッシャー)は凄まじく、指導も厳しい。そんな夫人に対して泣いて逃げ出したくなる令嬢方の気持ちも、初めて夫人と会った時を思い出すとよく理解できる。

 ただ、夫人に認められた令嬢は立派な令嬢・婦人になれると言うのもセットで有名な話だ。



 そして、私は明確にこの世界のことを理解した5歳の頃から厳しい彼女のレッスンを受け続け、努力の結果彼女から認められた部類に入った令嬢のひとりである。



 決して、侯爵家だからといって忖度などない。そう言いきれるのも、初対面の時から私に対してギロリと睨むような鋭い(決して睨んでいたわけではないらしい)視線を向け、その顔には笑みなんて一切なく、厳しい言葉も何度も言われ、地獄と言っても過言ではないレッスンを受けてきたからである。



 たった5歳の子にカーテシーが綺麗にできるまで何時間もカーテシー(その)姿勢のままでいさせる先生はおそらくヨーガネス伯爵夫人だけだろう。



 ダンスでミスをしたらカーテシー、笑顔を疎かにしたらカーテシー、レッスン中に気を抜いたらカーテシー、マナーを間違えたらカーテシー、食器の音を立てたらカーテシー、歩き方が汚かったらカーテシー、カーテシーの姿勢が悪かったらカーテシー、とにかく何かあればカーテシー、カーテシー、カーテシー、カーテシー……………



 何千……いや、何万回とやらされたカーテシーによって、私は寝惚けていてもおそらく綺麗なカーテシーをすることが出来るだろう。体に染み付いた行動というものは怖いものだ。



 おかげで脚が丸太のように……なりかけそうだった。なっては無い。ただ、あんなカーテシーだらけのレッスンを今も毎日受けていたら……と考えると、おそらく私の脚はとてつもなく極太の丸太のようになっていただろう。それも筋肉ゴリゴリの。ひえぇ、怖い。



 当時のレッスンを思い出しては、あぁ、(カーテシーをしないために)自主練習頑張ってよかった……と遠い目をしてしまうのも無理はない。




「本当にクリスティア様は私の自慢の教え子ですわっ!」

「ヨーガネス伯爵夫人にそう言っていただけると私も自信を持って社交の場に出れるというものです。」

「ふふっ、まだお若いのに……立派な令嬢になられてワタクシは大変嬉しゅうございますわ。」




 ――そして、その努力の結果が、目の前のヨーガネス伯爵夫人の笑顔である。

 笑顔を浮かべるようになったヨーガネス伯爵夫人はとても優しい夫人だった。まるで、人が変わったように褒めちぎられるのである。それはそれで何とも言い難い複雑気持ちになるけれど。


 アメとムチが極端って言うか、なんというか……。

 ぜひ足して2で割って貰いたい所。



 週1~2回だったレッスンを最近はまた週5日来てもらいレッスンを受けていた。1日2時間程度だったレッスン時間も、1日5~6時間と長時間に変更してもらった。もちろん、ダンスやマナーだけではなく、他の家庭教師もだ。ウィルに触発された結果、私は完全にやる気になって家庭教師の先生方にお願いして()()()に授業時間を増やしてもらっていた。




 ――主に復習をメインとしつつ、より高い技術を叩き込む。そんな、レッスンを受け続けた結果、さらに洗練された美しい所作で他の令嬢から羨望の眼差しを受け、下位貴族の令嬢からは近寄り難い高嶺の花のような存在だと認識を改められる事に、クリスティアはもちろん気づくわけが無い。



 しかしクリスティアにウィリアムという義理の弟が出来たことにより変化があったことをまだ誰も……クリスティアでさえ気づいていないのだった。






 ◇  ◇  ◇





「ティア、少しいいかな。」

「はい、お父様。どうかされました?」

「大事な話があるんだ。」



 あれから私の猛特訓の日々は1ヶ月も続いたが、今ではまたペースを減らして最近は落ち着いた日々を過ごしていた。



 そして、相変わらずウィルは勉強に励んでいてるが、私があまりに寂しそうにしていたからなのか、ウィルは毎日私のためにお茶の時間を取ってくれるようになった。



 そんなウィルがこの家に来て早い事で2ヶ月が過ぎたある日の今日、私の部屋にお父様が訪ねてきてそう言ったのだった。



 話ってなんだろう……?

 婚約の話はまだ先のはずだ(もちろん永遠に来なくていい)し、王子の魔力発現もまだ1年は時間があるはず。


 いつになく真剣な表情で歩くお父様の後ろを頭をフルスピードで回転させるが思い当たる事がなくて頭を悩ませる。


 なんかやらかした……?いやいや、特に何もしてないよね??8歳で起こるイベントは無いはずだし……



 んっんー???わからない。全くと言っていいほど、なぜ今呼び出されているのか思い当たる節がないのだ。




 そしてあっという間にお父様の執務室に着くと、ソファーに座らされ、お父様はテーブルを挟んだ正面に腰掛け人払いをする。



「ごめんね、ティア。急に呼び出してしまって」

「いえ、問題ございませんわ。それよりもどのようなお話なのでしょう……」

「あ、あぁ。別にティア自身のことではないんだ。……ウィリアムの事についてなんだ。」

「ウィルの、ですか……?」

「ティアも知っておくべきだと思うんだ。ウィリアムがなぜ我が家へ来たのか。ただ、これは僕たち家族以外には話しては行けないよ。約束してくれるかな?」

「はい。分かりましたわ。」




 いつになく真剣な表情は私の言葉に少しだけ緩んだ気がする。でもそれは一瞬で、直ぐにお父様は真剣な顔をすると一つ一つ丁寧に教えてくれた。


 少し怖い部分もあってお父様はできる限り言い方を優しく言ってくれていたけど、私がありのまま話して欲しいとお願いすると少し苦笑を浮かべながら話してくれた。



 ……そして全部聞き終わると私の瞳からは自然と涙が流れていて、隣に移動してきたお父様はそんな私を優しく抱きしめた。



「きっと、辛いことも沢山あったけど、今のウィリアムはティアに出会えてとても幸せだと思うよ。たったの2ヶ月で、ウィリアムはとても変わった。だからね、ありがとう、ティア。僕の大切な息子を救ってくれて。さすが僕の自慢の娘だよ。」




 お父様は膝の上に横抱きにするように私を乗せると優しく笑って見せた。

 そして小さな私の体を再び優しく抱きしめる。


 その時初めて、お父様も不安だったのだとわかった。いくらお父様にとって私が『良い子』であっても、血の繋がりもない知らない子をきょうだいとして迎えようとしていたのだ。そんな事を受け入れられる人は少なく、貴族だったらもっと少ないだろう。


 そのため、私がウィルを嫌ってしまうんじゃないか。一緒に住むことは許しても関わりを持とうとはしないのではないか。さすがに虐めたりはしないと信じたい。……と、お父様の中で不安な事は沢山あったのだそうだ。



 なのに私はあの日、ウィルの手を取った。

 それがお父様にとって心の底から嬉しかったと私を抱きしめながら静かに話してくれた。

 私だけではなく、お母様も、お兄様も。みんなが戸惑いはあっても、ウィルを家族だと受け入れてくれたことにお父様は世界一幸せな家族を持てたと幸せに思った。自分にはもったいないくらい素敵な家族だと。お父様は静かに優しい声でそう言ったのだった。




「ありがとう、ティア。あの日一番最初にウィルに話しかけてくれて。1人にしないよう、ウィルとずっと一緒にいてくれてありがとう。もし、ティアがいなかった、きっとウィル(あの子)は今も部屋に引きこもってしまっていただろう。」



 確かに簡単に想像できてしまう。もしあの時私たちがウィルのことを拒否していたら、きっとウィルは部屋から出てくることはなかっただろう。部屋に引きこもり誰との接触も拒んでいただろう。



 そう思うと、ただ仲良くなりたいと思い手を取った私の行動は間違っていなかったのだと分かる。


 別に打算があったわけじゃない。なのにウィルにとって良い未来を選べた事に私は少しホッとしたのだった。









20210530.


次回更新予定日は6月15日です。



この物語が始まってから1ヶ月が経ちました。

たくさんの方に読んでいただけた事、本当に嬉しく思います!

物語はまだまだ続きますので、今後も楽しんでいただけると嬉しいです!

全ての方に感謝。




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― 新着の感想 ―
[良い点]楽しく読ませてもらってます! [一言]ウィルの過去が書いてあればもっと満足でした...
2025/05/01 06:11 さくらもち
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