24.現実は甘くないようです。
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「お兄様っ、ウィルっ!一緒にお菓子を食べませんか?」
常温まで冷えたクッキーを木のバスケットに入れてキッチンを飛び出しウィルの部屋に行ったが、ウィルは不在だったためお兄様と一緒かな?と思いお兄様の部屋へと突撃する。
コンコンとノックをしてから返事がする前に、たーべーよーっ!といったノリで声を掛けると、クスクスと優しく笑ったユリウスお兄様がドアを開けて顔を出した。
「可愛いお姫様がわざわざお菓子を持ってきてくれるだなんて、今日はとても良い日だね。さぁ、どうぞ僕のお姫様」
「私はユリウスお兄様がいてくれるだけで毎日がとても良い日ですわ!」
「っ!!そうだね、僕もだ。僕もティアとウィルがいてくれるだけで毎日が幸せだよ」
そんな甘さ200%の会話をしながらお兄様の部屋の中に入ると窓際のテーブルにはなにかの紙がたくさん広げられておりウィルは椅子に座りながらその紙の1枚を手に取って集中しており、私に気づいていないようだ。
部屋に入ってすぐそんな彼の姿を見てしまったら、もしかして邪魔してしまったのでは?と思い立ち止まると、そんな私にお兄様が耳元でコソッと「勉強中なんだ」と教えてくれた。
「ウィル、一旦片付けて休憩しよう。可愛い可愛いお姫様がお菓子を持ってきてくれたよ。」
お兄様がウィルの元まで足を進めるがウィルはそれでも紙に集中していて、お兄様が机の上をコンコンと叩いた事でやっとウィルはハッとし紙から目線を上げ、さらに、ん?と言った表情でお兄様の視線の先にいる私に視線を移した。
「あっ、姉上っ!?えっ、あっ、す、少しお待ちください!!」
そう言ったウィルはなぜだかすごく驚いてから、慌ててテーブルの上に散らばった紙をガサガサと回収する。
ウィルのこんな慌てた姿初めて見た……というより、こんな風に勉強してるだなんて知らなかった……。
何だか少し会わない間にまた成長した気がするのは気のせいだろうか?いや、気のせいではないだろう。
背は以前とそんなに変わらないけど、なんて言うか立ち姿とか話し方とか、前よりも男の子らしくなった気がする。……きっとお兄様と一緒にいるせいね。
お兄様とウィルが良い関係を築けていることに少しだけ安心するのと同時に、やはり蚊帳の外に追いやられてしまったようで寂しくなる。
ウィルの成長は私がずっとみていたいのに……
男の子なんてあっという間に成長して、姉上うざい!とか、どっかいけ!とか言うようになっちゃうんだから……………、いや、もちろんお兄様のように例外もいらっしゃいますけれども。
あれ?お兄様反抗期は??15歳なんて第二反抗期とかそれくらいの時期なのでは??そもそも、お兄様の口から、うぜぇ!!とか、話しかけんな!部屋入ってくんな!とかそういう言葉を聞いたことがなければ両親にそんな態度をとっている姿を見たことも無い。
うーん、この国には反抗期って概念がないのか??
常に穏やかで優しいお兄様を見てるせいでこの国の普通が分からない。ただ、覚悟しておかないと、いざウィルが反抗期になってそんな事言われたら私は泣いてしまう。……絶対、泣いてしまう!!!!
つまり、私がウィルを可愛い可愛いしても許されるのはあと数年しかないのだ。
そんな数年しかない時間を私から取り上げないで!!……なんて言える訳もなく、私は笑顔を浮かべて「ゆっくりでいいわよ」と慌てて片付けをしているウィルに声を掛ける。
トントンと、まとめた紙をテーブルの上で揃えるとウィルはその紙をお兄様に手渡し、お兄様はそれを自分の机の引き出しの中に大切そうに片付ける。
なんの勉強していたんだろう。と考えたが、今はそれよりも作ったお菓子を食べてもらいたい方が勝り私はテーブルの上にバスケットを置いて包んであった布を広げた。
「……クッキーだ……」
「以前ウィルがクッキーを好きだと言っていたので作ってみたの!」
「えっ!?姉上が作られたのですか!?」
「えぇそうよ。っていってもヴィーおじ様にかなり手伝ってもらったのだけど、生地を混ぜたり型を取ったりしたのは私なの!お口に合うと良いのだけど……」
ここに来る前にヴィーおじ様と一緒に1枚だけ味見したけど、正直わたし的には大満足の出来だと思った。ヴィーおじ様も親指を立てて、うまい!と言ってくれたから大丈夫だとは思うけど、それでもやっぱり初めてのお菓子作りだから心配してしまう。
ウィルとお兄様がそれぞれ1枚ずつ手に取り形が可愛いねと言ってくれてそのまま口に運ぶ。
サクッとクッキーを噛む音が静かな部屋に響き渡ると、先に声をあげたのはウィルだった。
「とても美味しいです!」
「本当?」
「はい!本当です!」
「ティア、とても美味しいよ。今まで食べたお菓子の中で1番だ。」
「そう言っていただけて私も嬉しいですわ!」
……さすがに1番だなんて言われたらいつも作ってくれるヴィーおじ様に悪いけど、それでも二人共美味しいと言ってくれてすぐに2枚目を手に取ってくれたことが、2人の言葉が嘘じゃないと言っているようで嬉しくなる。
「あっ、ごめんなさい!すぐにお茶の準備を致しますわね!」
クッキーにしか気が回ってなくてお茶の準備なんて、おの字も考えていなかったことに慌てて部屋を出ると侍女ののリリアが何故かお茶のセットを持って廊下を歩いてくるのが見えた。
「クリスティア様、料理長からこちらをお預かりしてまいりました。すぐにお茶の準備をさせていただきますね。」
「ありがとうリリア!」
ヴィーおじ様気が利きすぎる!!!今日だけで好感度爆上がりだ、それももう天まで届きそうなくらい!!!
お茶セット一式を持ってきてくれて給仕をしてくれるリリアにお礼を言うとリリアは笑顔で軽く頭を下げて私に続いて部屋の中へと入った。
後でおじ様にもお礼を言わないと!と心に決めてから私もお兄様が用意してくれた椅子に座り、3人でテーブルを囲んでクッキーに手を伸ばすのだった。
――私の打算……もとい、お菓子作りをした理由の一つである『ユリウスお兄様ばかりではなくクッキー効果で私の相手をしてくれないかなー』という私の邪な気持ちは、結果から言えば敗北に終わった。
現実はそう甘くないようだ。
その証拠に私は今ユリウスお兄様の部屋の外に立っている。
……なぜそうなったのか説明しよう。
お茶の準備をリリアがしてくれて、私もお兄様が用意してくれた席に座りそれはそれは楽しくお菓子を食べながらお話をしていたと思う。
私も久しぶりにウィルとゆっくり過ごせる時間に幸せを感じていた。
美味しそうに私の作ったクッキーを頬張る姿はそれはもう愛おしい以外の言葉が見つからないほどだ。
お父様の親バカやお兄様のシスコンの血は私にもやはり同じものが流れていたようで、私はウィルが可愛くて可愛くて仕方が無くなっていた。
クッキー食べてる可愛い。カップ持ってる可愛い。紅茶飲んでる可愛い。笑顔可愛い天使。綺麗な金髪羨ましい天使。存在尊いマジ天使。――という具合に、私はブラコンに片足を突っ込んで……いや、既に下半身を沼に浸かっていると言えるほど、重度のブラコンになっていた。
ウィルとの時間が減ったことにより、寂しさがよりその気持ちを増幅させたのだろう。
可愛い可愛いマジ天使!!なんて思いながら楽しい時間を過ごしていた。
……ここまでは良かったんだ。時間にすると30分くらいだろう。沢山あったクッキーも気づけば空になっていて、楽しく話していた会話も一区切り着いた時ウィルが口を開いた。
「すみません姉上、僕はまだ学ぶべき事がありますのでそろそろ……」
「そうだね、勉強に戻ろうか。」
ウィルの言葉に続きユリウスお兄様も賛同して椅子を引いて席を立つ。
「ごめんね、ティア。もう少し一緒にお話してたかったけど、僕はウィルに勉強を教えないといけないから。またゆっくり話をしよう。」
なんて言われてしまったら私は席を外す以外の選択肢がないでは無いか。と内心思いつつも、それでもウィルの勉強する機会を奪う権利は私には無い。
どちらかと言うと勉強していた2人を邪魔するように押し掛けたのは私の方だ。短い時間だったとはいえ2人はわざわざ中断して時間を取ってくれた。
今は感謝こそすれど文句を言える立場では無いのは明白だった。
「分かりましたわ。楽しい時間をありがとうございました、お兄様、ウィル。お勉強頑張ってください。無理はしすぎないでくださいね?」
「うん、ありがとう。僕の可愛いティア」
「ありがとうございます、姉上」
にっこりと笑顔を見せるユリウスお兄様とウィル。
――あぁっ!!もう可愛すぎる!!と自然な笑顔を浮かべるウィルを横目に私は部屋を出て、今に至る。
いつの間にあんな自然な笑顔が出来るようになったのだろうか。それに、以前とは違いはっきりと言葉を話す姿や、自分の意見を言うようになったこと、話していて下を向くことなく目を見て話せるようになっていたことにウィルの成長を感じた。
……男の子はすぐ私を置いて成長しちゃうんだなぁ。なんて悲しくなったのは言うまでもない。
しかし、親心に近いものなのか、母性なのか分からないけど、勉学に励み努力しているウィルの姿に少しだけ嬉しくなったのも事実。
ウィルに感化され私も頑張ろう。と心に決めお兄様の部屋を後にした。
20210529.
次回更新予定日は6月14日です。




