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23.お菓子は人を幸せにします。……よね?

ブックマーク&作品評価ありがとうございます!



 




「うめぇじゃねーか。」

「本当ですか?」

「あぁ、お嬢はスジが良い。本当に初めてやるのか?」

「ヴィーおじ様がずっと禁止してたんじゃありませんか……」

「いや、それは大事な大事なお嬢に怪我なんてさせたらホークスの旦那に俺が怒られるからで……」

「ふふっ、冗談です。私のためを思ってくれていたことなので文句は言いません。でも本当に初めてですよ?」




 ――今世では。



 えぇ、嘘は着いていません。今世ではお菓子作りは初めてですもの。心の中でそう呟いてニコッと笑みを浮かべると、さっきまで、怪我なんて……殺される……。なんて私にギリギリ聞こえてきちゃったくらいの声で呟いていたヴィーおじ様もハッとし私に釣られてニカッと笑ってみせる。



 私は、ヴィーおじ様がボウルに必要な材料を必要なタイミングで入れてくれるのをただ混ぜるだけ。……えぇ、混ぜているだけです。それでこの褒められよう、おじ様ったら褒め上手ですわね。おかげで腕は疲れてきてたけど、それでも頑張れたのは気のせいではないはず。




 しばらくして大きな塊になりかけてきたら今度は台の上に軽く粉を振ってからその中身を出して手で捏ねます。前世での作り方と若干作り方が違うしアナログ感凄いのはやはり仕方ないのだと思う。この世界にミキサーとか存在しないし。


 踏み台の上で足を踏ん張って生地を捏ねる。そして出てくるのが麺棒である。平らに伸ばして、重ね折り曲げて、また平らに伸ばして……を、繰り返す。

 そしてある程度やったところでヴィーおじ様がokを出し、平らに伸ばして麺棒を置く。



「いいじゃねぇか!お嬢に意外な才能が!」

「意外な才能ってなんですの!」

「ははっ、すまねぇすまねぇ。いやぁ、驚いちまってよぉ。あんな小さかったお嬢とこんな風に菓子作りできる日が来るなんて思ってもみなかったからよ。」

「あら、私はずっとお菓子作りしたいと思っていましてよ?」

「だからすまねぇって、な?これからは俺がいる時ならいつでも来てくれて構わねぇからよ、それで許してくれ」

「あら、それは嬉しいですわね!許しましょう!」



 ……なんて茶番もヴィーおじ様とだと楽しい。ふふふっと笑うとおじ様も頬を緩ませる。侯爵家、ともなるとこんな風に冗談を言い合える人なんてほとんど居ない。とくに年齢を重ねれば重ねるほど。だからこそヴィーおじ様のような人柄は私にとって貴重な人材である。もちろん、ただ一緒にいて楽しいっていうのが1番大きいけど。



「よし、じゃあ型抜きしてくっか。」

「はい!」

「普段は丸か四角しか使わねえんだけど、せっかくお嬢が作るんだし、好きな型使ってやればいいさ!」



 そう言うと丸と四角以外に星型や、星のでっぱりを多くしたツンツンしている型、ハート型に、三日月型など種類は多くないけど可愛い型があった。

 それから……



「これは、生地を絞るの?」

「おお!よく分かったな!そうだ、これに生地を入れて絞ればお嬢の好きな形が作れるぜ!」



 すごく見覚えのある、よく生クリームを絞る時に見るアレが一緒に置かれていて手に取り聞くと、案の定知っていた事を褒められた。



 ……うん、なんかズルしてる気分。

 テスト中に分からない漢字があって前のページ見返したら文章の中にその漢字が載ってたときのような、ゲームをしててバグのせいで知らないうちに四天王の1人を倒してた状態になった時のような、なんとも素直に喜べない時の気分。




「どうした?やんねぇのか?」



 うーん、と複雑な気分になったがヴィーおじ様にそう聞かれて「やる!」と返事をし、頭をぶんぶんと振って脳から追い出し、型を手に取り生地を型どっていく。



悩んでも仕方ない。褒められたことは素直に受け取っておこう。と心に決め私は丁寧に手を動かす。



 そして色々な形で型どってから、最後に残った縁の部分を絞り袋に入れて好きな形に絞ってみると、思いの外難しい……


 生クリームと違って生地が固いから結構な力がいるらしく、んー!!と力を入れて絞ってみれば謎の小さな塊がボンッと押し出されて出てきたのだった。



「えっ……」

「ぐぶっ!!」



 その事に私の落胆した声とおじ様の吹き出し笑いの声が重なったのは言うまでもない。



「ヴィーおじ様笑うなんて酷いですわ!難しいですのよ!」

「いやぁ、すまねぇすまねぇ、面白くてよぉ!」



 ぷーっとリスのように頬っぺを膨らまして怒るも、おじ様は謝ってくれてるけど、ちゃんと肩が震えてるの見えてるからね??なんなら耐えきれなくなって私から目を逸らしても、お腹抱えてるの分かってるからね!?



「もういいです!」



 なんて拗ねてみたらヴィーおじ様は慌てて私の方を振り向いて「もう笑わんから許してくれ!」と言ってきた。大の大人がこんな子供にそんなことを言うなんて可笑しくて、私も「ふふっ」と声に出して笑ってしまうと、おじ様も安心したように目を細めた。



「嘘ですよ、怒ってないです。ヴィーおじ様、これのコツを教えてくださいますか?」

「おうよ、いっしょにやるか!」



 そう言って私から袋を取ると、まずは袋の中の生地をしっかりと押し込む事から始めた。

 そっか、基盤がしっかりしてなかったから失敗したのか。と、おじ様の行動に納得する。

 そして私に袋を握らせ上からおじ様が手を添えると私の足りない手の大きさをカバーしてくれているようだった。



「これでお嬢力入れて好きな形に動かしてみ?」



 言われた通りキュッと力を入れるとさっきまでとは違う一定の太さの生地がスムーズに出てきてそれをクルクルと渦を巻くように動かしてみる。



「おっ、いいじゃねぇか!上手上手!」

「はい!ヴィーおじ様のおかげで綺麗に出来ました!」

「そんな喜んで貰えたら手伝ったかいがあったってもんだぜ。」

「もう1回!もう1回やりたいです!」



 ちゃんと出ると楽しいものでその後もヴィーおじ様に手伝ってもらって色々な形を作り、完成したものを並べてオーブンの中へと入れた。


 ……え?この世界のオーブンが使えるの?だって?

 それはもちろんヴィーおじ様にやってもらいましたよ?使い方なんて分かるわけないです。そこはもちろん、できる人に頼るのが令嬢としての嗜みなのです。批判や文句は受け付けません。



 焼けるまではヴィーおじ様の料理の仕込みを邪魔にならないところに座って見ていると、ふわりといい匂いが鼻腔をくすぐる。



 このお菓子のやける匂いが1番最高だよね!お菓子作りの醍醐味!

 だからと言って勝手に席を立ってオーブンに近づくと怒られるのが目に見えてるので椅子に座ったまま鼻から大きく息を吸い込む。



 それだけで幸せになれる私って実はチョロい?なんて思わなくもないが、お菓子は人を幸せにするものだから仕方ない。


 それから少ししてヴィーおじ様がおいでと手招きをするので近づくと、テーブルのオーブンとは反対の場所に立たされる。するとヴィーおじ様がオーブンを開いて慣れた手つきでお菓子の乗った鉄板を中から出して私の目の前のテーブルに乗せた。もちろん手にはミトンのようなものをつけているから熱くないのだろう。



 出来上がったお菓子を見れば美味しそうにこんがり焼けていてついお腹がぐぅっとなりそうになる。それくらい見た目は完璧に出来たのだ。もちろん匂いも完璧。あとは味だけ……なんだけど、こればっかりは冷めてからじゃないと火傷するから危ない。



 でも焼きたてだけどサクサクに見えるのはヴィーおじ様の材料の用意が素晴らしかったからだろう。

 なんてったって私は混ぜただけだから。……もう一度言おう。私は混ぜただけなのだ。



 え?粉の種類?なにそれ。

 グラム数?なにそれ。

 順番?なにそれ。

 下準備?なにそれ。……の状態なのである。



 これはもはや私が作ったとは言ってはいけないレベルの作業量である。いや、でも!粉混ぜるの大変だった!!そのおかげできっと明日は筋肉痛だろうと自信を持って言える。だから、半分……とまではいかなくても3割にほど近い4割くらいは私が作ったと言ってもいいだろう。

 うん、きっとヴィーおじ様は許してくれるさ。



 なんて思いながら私は目の前のクッキーが冷めるのを待つのだった。








20210528.


次回更新予定日は6月13日です。


20210610.ブックマーク100超えました!ありがとうございます!人生で初めて書いている作品をたくさんの人に見てもらえてとても嬉しいです!今後もよろしくお願い致します!

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