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21.誕生日ケーキは幸せの味。

ブックマーク&作品評価ありがとうございます!

 





「ウィリアムー!お誕生日、おめでとーう!」



 ウィルに目を閉じるようお願いして目を閉じたままのウィルの手を私が引き、たくさんの料理の並ぶデーブルの前まで連れていく。


 そして私の「ゆっくり目を開けて」の言葉の合図にウィルが目を開けると、私たちは声を揃えておめでとうとウィルの誕生日をお祝いした。



 喜んでくれたかな?どうかな?と、期待を込めてまじまじとウィルを見ると彼はポカンした顔をしたまま動かない。



「……ウィル?」



 不安になりそう声をかけるとウィルはハッと意識を取り戻しすぐにバッと勢いよく私の顔を見た。その表情はどうしたらいいか分からないような顔をしていて、私に助けを求めているようにも見え、私はウィル少し膝を曲げてウィルと同じ目線になり笑顔を向けた。



「ウィル、お誕生日おめでとう。今日はウィルの誕生日パーティーだよ!」

「ぼく、の……誕生日パーティー……?」

「そうだよ、ウィル。お誕生日おめでとう。」

「ウィリアム、誕生日おめでとう。」

「ウィリアム、お誕生日おめでとう。」



 私がウィルにそう伝えると、お兄様、お父様、お母様もそれぞれウィルにおめでとうと伝える。

 しかしウィルは目を少しだけ見開いてすぐに視線を落とした。



「どうしたの?嬉しくなかった?」

「ち、違うんです!!……ぼ、ぼく……おめでとうって言われるの、すごく久しぶり、で……だから……どんな顔をすればいいのか、分からなくて……」



 服の裾を両手で掴むその手は少し震えているように見えた。

 何となくウィルの過去がいいものでは無かった事は察していたが、それでも誕生日すらお祝いして貰えなかったのか……。そう思うと胸が少しズキンと痛んだ。


 私は毎年家族にお祝いされてきた。たくさんおめでとうって言ってもらってすごく嬉しかった。でも、ウィルはきっと……。だからこんな時にどう返事をして、どう言う顔をすればいいのか分からないのだろう。



 でも、分からないならこれから知っていけばいい。これから少しずつたくさんの幸せをウィルは知っていけばいい。と私は心の中で思った。




「こういう時はね、ありがとう、って言えばいいのよ。」

「ありが、とう……?」

「そう。それで、笑顔もセットだと私達も嬉しいわ!」



 おめでとうって言われたらありがとうって返せばいい事も、嬉しい時や幸せな時は笑って、辛かったり悲しい時は泣いていい事も。ウィルはこれから少しずつ知っていけばいい。



「ありがとう、ございます……!」



 そう言って上げた顔は目じりを下げてふにゃっとした笑顔が浮かべられていた。



「――っ!!!!」


 そのあまりの可愛さに心臓が飛び出しそうになる。キューっと締め付けられる様な痛みに思わず心臓のある位置の服をギュッと握ってしまった。



 か、可愛すぎんか……っ!!!!



 例えるなら、超イケメンアイドルのコンサート中にたまたま目が合ってウインクされたようなアレ。

 ドSのクールキャラが突然自分にだけ甘く蕩けそうな顔をした時のようなアレ。

 隠しルート全クリした時の特別美麗スチルを初めて見た時のようなアレ……は、ちょっと違うか……?



 でも、そういうこと。それくらいの衝撃だった。



 ウチの弟、可愛すぎるんですけど!!!!



 年下好きの性がここに来て私に大ダメージを与える。

 尊い可愛い尊い可愛い尊い可愛い尊い可愛い尊い可愛い尊い可愛い尊い可愛い尊い尊い可愛い尊い可愛い!!!!!

なんて心の中では大号泣しながら拝んでいる事は死んでも知られてはいけない。だからどんなに心の中で拝んでても、表情には一切出さずに笑顔をうかべる。



「ほら、ウィルすわって?ケーキのロウソクを消しましょ!」



 私がウィルの手を引いて席に案内すると、タイミング良く侍女のリリアがケーキのロウソクに火をつけテーブルの上、てウィルの前に置いた。




「ロウソクを消す前にね、手を胸の前で組んで目を閉じて願い事をするの。願い事は口に出しても出さなくてもいいのよ!」

「口に出さないで、いいのですか……?」

「えぇ!口に出さなくても神様はきっと聞いてくれるから。だから大丈夫よ!」



 私がウィルに説明するとウィルは言われた通り胸の前で手を組み目を閉じだ。そのタイミングで部屋の電気も消され部屋はろうそくの火だけがユラユラと小さく揺れている。



 そして少しの時間の後目を開けたウィルがフー!!っと勢いよくロウソクの火を吹き消した。



 パッと部屋が明るくなり、再び「おめでとう!」と家族が声を掛けるとウィルは嬉しそうに「ありがとうございますっ!!」と自然と笑顔を浮かべる。




「ウィリアムは何をお願いしたんだい?」

「ひっ、ひみつ、です……」

「もう、あなたってばそういう事は聞いてはいけませんよ」

「いやぁ、だってマリアも気にならないかい?」

「それは気になりますが……、でも秘密のひとつやふたつ誰でも持っているものでしょう?」

「それはそうだが……」




 それでもお父様はウィルの願い事を聞きたいようでソワソワしてはお母様に、もう!と怒られていた。

 そんなお母様に対しお父様は相変わらずデレデレである。


 ……うん。家族仲がいいのは良い事だよね!!



 そっとユリウスお兄様の方を見ると、軽く首を横に振りながら「見てはいけません」なんて少し呆れた表情で言っていることに目の前に座る両親は気づく様子もない。




「ほら、ティアもウィルもご飯を食べようか。」


 そんな両親を放ってユリウスお兄様は立ち上がり、ケーキを一旦使用人に預けると、ケーキを置くスペースを作るために避けてあったお皿を私とウィルの前に音を立てずに並べてくれた。



「ありがとうございます、お兄様!」

「あ、ありがとう、ございます、ユリウス兄様……」

「どういたしまして。ウィル取れるかい?僕がとってあげるよ。どれが食べたい?」




 いつもはそれぞれの分が既にお皿に乗った状態で出てくるが、今日はパーティーという事もあり、大皿にそれぞれの料理が盛り付けられており自由に選んで自分の小皿に取り分けるシステムだ。


 そのため、お誕生日席になっているウィルの位置からではユリウスお兄様の方に置いてある料理が届かないのである。


 それをわかって自然な形で取り分けを手伝えるユリウスお兄様は本当に素敵な人だと思う。




「え、えっと……」

「このお肉の料理とても美味しいわよ!私の大好物なの!それから、こっちの野菜の炒め物も美味しいわ!」

「そうだね、僕のおすすめはこれかな。」

「で、ではそれをいただいてもよろしいでしょうか……」

「もちろん。」



 私の好物の唐揚げもどきと、野菜炒めもどきは日本のものと多少の違いはあるがほとんど似たようなものでかなり美味しい。

 それから、お兄様の指した酢豚もどきの料理もなかなかクオリティが高くてお兄様の大好物である。



 日本開発のゲームだからか、元々こういう世界にはこういう料理が存在しているのかは分からないけど、()()()()()はかなり多い気がする。今日の料理もさっきの3品に加え、パエリアもどきやクリームパスタもどき、生ハムサラダにほうれん草の和え物、大きな骨付きチキンにピザなど、たくさんの料理が並んでいる。


 とくにほうれん草の和え物は()()()なんて言えないほど完全に私の知っているほうれん草の和物だった。……なぜこれだけ和食。と思わないこともないが、誰も違和感を感じていないようなのでこの世界では一般的なのだろうと納得せざるを得ない。



 お兄様が丁寧に小皿にとりわけるとウィルはまるで宝石箱を開けたかのように瞳をキラキラさせた。



「ティアもとってあげるよ。」



 そう言って私の前のお皿を手にすると私の好きな物をちょうどいい量ずつ手際よく乗せていく。そして目の前に置かれた幸せセットと言いたくなる私専用の料理プレートに私もウィルのようにキラキラした視線を送る。



「ふふっ、お姫様のお気に召されたようで安心しました。僕はティアの好みを知っているからね。」



 そう爽やかな笑顔を向けられてしまえば、普通なら「怖っ!!」ってなる反応も、なんだか恥ずかしくなってしまう。



「さぁ、食べよう。今日は楽しく食べられればいいから気にせず食べるといいよ。」



 まだフォークとナイフを上手く扱えないウィルは不安げにそれらを手に取るが、お兄様のその言葉に安心したように肩を少しだけ落とした。


 だからと言ってガチャガチャと音を立てる訳ではなく、できるだけ丁寧に食べようとする姿勢はウィルのいい所だろう。


 時々音が鳴ってビクッと肩を震わせてはいるが、私もお兄様も誰も気にしないのを見て安心したように食事を続けたのだった。




 そして食事が終わるとデザートとして切り分けられたケーキが出てきた。いちごとクリームのショートケーキだが、ウィルのケーキにだけ誕生日限定のチョコレートプレートが乗っていてウィルは再び目をキラキラとさせた。



 お兄様が、食べていいよ。というとウィルはフォークでケーキを刺してすくい取り口に運ぶと、目を見開いてからふにゃっと表情を緩めた。



「美味しいです…っ」

「それは良かった。まだまだあるから沢山食べるといいよ」



 お兄様の()()()()という言葉にウィルは嬉しそうな表情を見せる。相当気に入ったのだろう。


 そう言えば前、あまりお菓子を食べたことがないと言っていた。もしかしてケーキも初めて食べるのかもしれない。

 初めて食べたとなればケーキに対するウィルのこの感動も頷ける。




 いつの間にか落ち着いて食事をしていたお父様とお母様もウィルの笑顔を見て、私たちに心を開いていることに安心したようで、見守るような優しい瞳でウィルのケーキを食べる姿を眺めていた。



 そして、最後に部屋の飾り付けをお母様が自慢してそれをウィルが嬉しそうに眺めたり、プレゼントをそれぞれが渡したりして、ウィルは両手いっぱいのプレゼントが嬉しすぎて笑いながら涙を流し、幸せの笑顔と笑い声に包まれながらウィルの誕生日パーティーは幕を閉じたのである。





 ちなみに私が渡した誕生日プレゼントは、プレートにかっこいい細工が施された男性用のネックレスである。


 ちなみに特注(オーダーメイド)である。

 日がないためかなり特急で寝る間も惜しんで作ってもらったため職人さんには色をつけて料金を支払った。……もちろん、自分の貯めてあるお小遣いの中からである。






20210526.



次回更新予定日は6月11日です。

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