13.私の誕生日は波乱です!?
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「紹介しよう。ティア、今日から君の弟になるウィリアムだよ。」
今日は私の8歳の誕生日。
目の前にはニコニコと笑顔を浮かべたお父様。しかしそんなお父様とは対称に、部屋の空気が一気に氷点下まで下がったのが分かった。
あまりに突然の出来事に、普段優しく穏やかなお母様も訳が分からないと言った表情を隠せずにいて、お兄様に至っては顔に手を当てて呆れ果てている姿が目に入る。壁際に立つ使用人たちは態度や表情にこそ出てないものの明らかに居心地の悪さを感じているだろう。
背の高いお父様の脚にしがみついて自分の姿を隠しているが、細くもやしのような――ゴホンゴホン、スタイルの良いお父様の後ろにすっぽりと隠れられる訳もなく、確実にこの家の血筋ではない綺麗な金髪が目に入る。
恐らく空気の読めないお父様とは違い、明らかに歓迎されていないこの空気を察知したのだろう。ギュッとお父様の脚にしがみついたまま顔をあげようとしない。それどころか後ろから出てこようともしないのだ。
――ある意味、まともな子なのかもしれない。
空気の読めないお父様とは違い、彼は今の状況をちゃんと理解しているだろう。それもあって堂々と私たちの前に立てないのだ。……もちろん、彼の元々の性格もあるかもしれないけれど。それでも、私の周りにいる男の子とは180°違う彼の態度に私はほんの少しだけ興味が湧いたのだった。
「初めまして、クリスティア・セリンジャーと申します。あなたの髪とても綺麗な色ね。良ければ顔を見せてくださいますか?」
ぴょんっと椅子から飛び降りお父様の前まで歩くと私はドレスの布を少し掴んで丁寧にお辞儀をして挨拶をする。私が声をかけるとビクッと肩が揺れるのが見えたが、ゆっくりと覗かせた顔はまるで乙女ゲームの王子様の様に綺麗で思わず見惚れてしまった。
「……うぃ、ウィリアムです、クリスティア様……」
美少年……
思わず言葉が溢れそうになって飲み込むと、ドクンッと大きく心臓が跳ねた。心臓がさっきよりも早く脈打つのがわかる。
キラキラと濁りなく輝く金髪に、パッチリとした大きな目は薄い青灰色の瞳をしていて緊張からか少しだけ揺れていた。肌は陶器のように白く綺麗で、スっと通った鼻筋と程よくぷっくりした唇は女子顔負けの美しさを放っていた。さらに男の子にしては少し高めの声も嫌悪感なんて一切なく、むしろどこか心地の良い気分になってずっと聴いてたいと思ってしまったから不思議だ。
あまりの眩しさに言葉を失っていると、そんな私の態度に不安を覚えたのか私を捉えていた瞳に影が差すのがわかり慌てて言葉を繋いだ。
「よ、よろしくね!私の事は姉さんでもいいし、ティアって呼んでもいいわ。姉上、なんてのもいいわね。」
極めて明るく笑顔でそう言えば、目の前の美少年……もとい、私の義理の弟になる男の子は目を見開き戸惑いを見せた。
「えっ、で、でも……」
「私たちはきょうだいになったのよ。だから遠慮は無用ですわ。その代わり、私はウィルって呼んでもいい?」
「は、はい……大丈夫、です」
整った顔から生み出されたぎこちない笑顔の破壊力はとんでもないもので、乙女ゲーム好きの私の心にズキュンと矢が30本くらい刺さった様な衝撃を与え、私は思わず胸に手を当てた。
可愛い……っ!!!!天使!!!!
胸のトキメキをグッと堪える。
「ウィル、こっちにおいで!私の家族……私たちの家族を紹介するわ!」
そう言って私はまだ少し警戒心を持つウィルの細く小さな手を取り、未だに状況が呑み込めきれていないお母様とお父様の行動に呆れた様子のお兄様の前に引っ張って連れ出した。
「マリアお母様とユリウスお兄様よ!
お母様はとても優しいの!それにとても美人で私の自慢のお母様なのよ!
それからユリウスお兄様はとても優秀なの!頭も良いのにとても強いし、魔術も使えるのよ!2人とも私の大好きな家族ですの!」
「……初めまして、ウィル。僕はユリウスだよ。よろしくね。」
「よ、よろしくお願いします……ユリウス様……」
「僕のことも兄さん、と呼んでくれていいからね。今日からウィルも僕たちの大切な家族なんだから。」
「……か、ぞく……」
先に椅子から立ち上がりウィルの前に屈んだのはお兄様だった。まるで物語の王子様のように自然な流れでウィルの頭に手を置いて笑いかける姿は実の兄ながらドキッとしてしまった。
お兄様に『家族』と言われた事が嬉しかったのか、ウィルの上がりきっていた肩が少し下がったことに気づいた。
――良かった、少しは警戒心を解いてくれたみたい……。
そう安心していると、次にお母様が席を立ち、ウィルはビクッと肩を震わせた。しかしお母様はウィルの前に膝を着いて屈むとウィルの手を取りいつもの優しい笑顔を浮かべた。
「初めまして、ウィリアム。私はマリア・セリンジャー侯爵夫人です。今日からあなたの母になります。……だから、遠慮なく甘えてくれていいですからね。私たちはあなたを歓迎致します。」
……私は、私の家族が大好きだ。まだ幼いウィルを怖がらせないように屈んだり膝を着いたりしてわざわざ目線を合わせて話すことの出来る貴族がどれだけいるだろうか。
紹介されてすぐ、他人の子供を自分の子供として受け入れる事のできる母親がどれだけいるだろうか。
身元も分からない相手の頭をなんの躊躇もなく優しく撫でられる貴族子息がどれだけいるだろうか。
私は本当に素敵な人たちに囲まれていると思う。それに、こんな素敵な人達と家族でいられて良かったと、改めて実感した。
「さぁ、今日はティアの8歳の誕生日だ!ウィリアムも一緒にティアのお祝いをしよう!」
お父様のその声に使用人の一人がスっと新しい椅子を用意する。そしてそこにウィルを座らせるとロウソクに火をつけて部屋を暗くしてパーティーを始める準備をした。
「さぁ、ティア、まずは願い事をしよう。今年のティアの願い事は何かな?」
「私の今年の願いは……今年も家族が仲良くいられますように。家族5人常に楽しく、笑顔が溢れますように。私の周りにいてくれる人がみんな、幸せになれますように。……願いすぎかしら?」
「いいや、そんな事ないよ。さぁ、ロウソクを消そうか。」
胸の前で手を組んで願い事を口にすると、部屋が暗くて見えないが、笑ってるんだろうなと想像出来るお父様の優しい声だけが耳に届いた。そしてふーっと8本の蝋燭の火をなんとか一息で消すと真っ暗だった部屋が途端に明るくなる。
「ティア、誕生日おめでとう。優しいレディに成長してくれて僕はとても嬉しいよ。」
「ティア、お誕生日おめでとう。あなたは本当に私の自慢の娘です。」
「ティア、誕生日おめでとう。どんどん可愛くなるティアから僕は目が離せないよ。」
お父様、お母様、お兄様と順番におめでとうの言葉と一緒にプレゼントを渡される。渡されてスグ開けたい衝動に駆られるが、この世界ではプレゼントをスグ開けるのはマナー違反。そのためグッと堪えて「ありがとうございます!」とお礼を言うと、輪に入れず下を向いたままのウィルが目に入った。
そりゃそうだ。急に連れられてきた挙句、家族の誕生日だなんて居心地が悪いに決まってる。お父様もサプライズのつもりなんだろうけど、ちょっとはウィルの気持ちを考えてあげないと可哀想よ!と、心の中でお父様にダメ出しをしてから私はウィルの名前を呼んだ。すると直ぐにウィルの青灰色の綺麗な瞳と視線がぶつかった。
「今日、私の8歳の誕生日なの。だから、もし良ければ『おめでとう』ってひと言貰ってもいい?ウィルは私の弟だから、ぜひお祝いしてもらいたいの。」
そう言うと、ウィルは少し視線を泳がせてから視線を少し落とした。そして落ちた前髪の隙間から少しだけ視線を上げると「……お、おめでとうございます……」と言葉をくれた。
「ありがとうウィル。凄く嬉しいわ。ねぇ、ウィルの誕生日はいつなの?」
「ぼ、僕ですか!?」
「ええ。だって私たちは家族ですもの。知りたいわ、ウィルの事。」
そう言うとウィルは何だか気恥しそうに、遠慮気味に視線を下げながら誕生日を口にする。
「あら!もうすぐじゃない!」
「本当だね。なら来週はウィリアムの誕生日パーティーを計画しないとね。」
まさかのお父様も初耳だったようで、お母様とお父様は楽しそうにウィルの誕生日計画を話し出す。その事に対し、何だか恥ずかしそうに下を向いてソワソワしているウィルが、小さく縮こまったウサギのようで、「可愛い……っ!!!」と心の中で悶える気持ちを抑え言葉を噛み締めた事は墓まで持っていこうと私は一人心に誓ったのだった。
20210522.
次回更新予定日は6月3日です。
※20210602. タイトル変更致しました。
旧『悪役令嬢を辞めて義弟に恋していいですか!?』
新『乙女ゲームの設定で私に義弟なんていなかったはずだけど、トキメキ止まらないので悪役令嬢辞めて義弟に恋していいですか?』




