12.イレギュラーの原因は私でした。
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本当に月日の流れは早いもので、王子とのお茶会から数ヶ月が過ぎた。いつの間にか肌寒い季節になり、赤色の景色がポツポツと見え始める。
この数ヶ月、特に何事もなく平和に過ごす事ができ、王子からの連絡なども一切ない。いや、何故か王子からお礼の手紙が来たから返事はしたが、それ以外特に何も無かった。
本当に平和だった。
しかし!だからと言って対策を怠っていたわけじゃない。王子のフラグは有耶無耶なままだし、まだこれからもしかしたら出会ってしまうかもしれない攻略対象がいる。出来ることなら王子を含め会いたくないが、いつどう出会ってしまうか分からないからこればかりは仕方ない。
それに気になる事もあった。
ゲームの内容との誤差が生じ出したのだ。
◇ ◇ ◇
お茶会の翌日、私はいつものように紙とペンを引き出しから取り出し、ペンを握ったまま額に手をコツンコツンと何度も当てて考えた。
ゲームでは王子は確かに魔力を持つことで私の兄のユリウスにコンプレックスをいだくようになる。それまでも確かに王子として苦しむ部分はあったが特に表に出すことは無かった。
それなのにだ。それなのに、彼は私に胸の内に秘める闇を打ち明けた。さらに今は持っていないはずのユリウスへの嫉妬心も。
何らかの影響でゲームの内容が変化してきている。
そこまで考えると私はハッと息を飲み、ひとつの結論にたどり着いた。
影響……影響……?って……
――わたしかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?!?
登場人物と、簡単な性格が書かれている紙に目が止まる。
そして、そこに書かれていた『クリスティア・セリンジャー。悪役令嬢、甘やかされて育ったため自分より目立とうとする人が嫌い。ヒロイン以外にもたくさんの人を貶してきた。』と彼女の簡単な説明を見て私は机にガタンと手を付き肩を震わせたのだった。
明らかにゲーム内の彼女とは違う私の性格や行動が、このゲームに少しずつ影響を与えていたのだと気づいたのはその時だったのである。
◇ ◇ ◇
『イレギュラー』
恐らく、私が悪役令嬢クリスティア・セリンジャーではなく私として生まれてしまった事により少しずつ未来が変わってしまったのだろう。そしてそれは幼なじみのフィリップの時から始まったのだと思う。彼を避け続けたことにより彼との未来が変わった。そして未来で彼と関わりのある攻略対象の未来にも変化が起こってしまったのだ。
塵も積もれば山となる、なんてうまく言ったもんだ。小さい綻びが増え続けた結果、大きな歪みが生じてしまった。そのひとつが、アルフレッド殿下のコンプレックス発生のタイミングだろう。
つまり、今後何が起こるか分からないのだ。攻略対象に出会わない可能性だって出てきた。しかし本当にどうなるか未来は分からない。だからこそ私はそれぞれのキャラに対しての対処方法を考えた。
しかし、その対処方法も上手くいくかは今の段階では正解が見えない。だからやれる事はどうしても限られてしまい現在では完全に詰みの状態で……、いや、よく言えば進展を待っている状態である。
こうも平和に毎日何も起こらず進んでいると対処することも無い。逆になにかちょっとした進展があれば新しい対策を考えることが出来るというものだ。
つまり何が言いたいかって言うと、とくに進展もなくひま……平和な毎日を送っているという事である。
といっても、勉強もあるし、礼儀作法、マナー、ダンスなどまだまだ覚えないといけないことは沢山あるが、5歳の時から約2年半毎日死ぬ気でレッスンを頑張ったため、ある程度は出来るようになってしまっているのだ。
それぞれの先生にも週に1、2回程度のレッスンで十分と言われてしまい、私には特に予定のないただ虚しく過ぎていくだけの時間が与えられてしまったのだ。
私くらいの年齢の令嬢ならきっとお友達を家に呼んだりして女子会をやったり、買い物をしたりしてるんだろうなぁ……。平民の子だったらおうちのお手伝いとかしてるんだろうなぁ……。なのに私は……
そんなことを考えていると少しだけ悲しくなる。私には未だ友達と呼べる相手がいないのだ。私が参加したパーティーは王宮でのお茶会のみだ。しかも私の(王子から早く遠ざかりたいという気持ちの)せいで歳が近い令嬢たちと話すこと無く帰路についてしまったのである。
自業自得と言われればそれまでだが、そのことに関しては私にもちゃんと理由があったのだから仕方ない。
それから、侯爵家という立場もある。これは言い訳みたいに聞こえるかもしれないが、国王陛下とお父様の関係も周りには知られている。そのため、私になにか粗相をすれば国王陛下にも筒抜け、なんて思われていて侯爵家の中でも特に近寄り難い相手になっているのだと思う。
……あくまで想像で、友達が出来ない言い訳だけど。あっ、言い訳って言っちゃった。……まぁいいか、友達が居ないのは事実だもん。
――クリスティアは気づいていないのである。自分の容姿の美しさと、まだ7歳であるのに努力によって手に入れた美しい所作、侯爵令嬢としての立派な立ち振る舞いにより、周りから憧れと羨望の眼差しで見られていることを。そしてあまりに高嶺の花であるがために近寄り難いという事を。
しかし周りの令嬢は、侯爵家であり、将来的に大きな力を持つであろうクリスティアとどうしても仲良くなっておきたいがために、誰が1番に話しかけるかクリスティアの知らない所で火花が飛び交っているのである。そしてその決着が未だに着いていない事を彼女は知る由もないのである。
そして数日後、クリスティアは8歳の誕生日を迎えた。
大きな机に乗り切らないほどの料理が運ばれる。机の真ん中には家族4人では食べきれないほど大きなケーキがあり、ロウソクが8本立っていて火はまだ着いていない。
ティアは今日という日を楽しみにしていた。それは自分の誕生日という事もあるが、最近仕事を忙しそうにしていた父や、学校の試験があり勉強に励んでいた兄のユリウスと久しぶりに家族全員揃って食事をできるからである。
忙しそうにする2人とは中々一緒に食事をとることが出来ず、ここ最近はお母様と2人でテーブルを囲んでいたのだ。
もちろん大好きなお母様との食事も楽しかった。女子ならではのお話などもたくさんした。それでも家族全員で囲むテーブルには敵わない。
それぞれが定位置に着いて顔を合わせた事にクリスティアは誕生日以上に嬉しくなったのだった。
さらに、「おめでとう」や「おめでとうございます」と家族や使用人からたくさん言われれば嬉しくないわけが無く今日の彼女は上機嫌である。
……といってもクリスティアの不機嫌な時をここにいるほとんどの者が見たことないのだけれど。彼女の笑顔は邸を明るくしてくれているのである。
しかし、家族で最も問題児……問題児!!である(もはや擁護できない)お父様が今日もニコニコと笑顔を浮かべているから何か嫌な気がして、何かたくらんでいる気はしていた。
「ちょっとまっててねー!」
なんて言って誕生日の食事が始まる前に部屋から出ていったお父様は直ぐに部屋に戻ってきたのだが、父のとんでもない一言によってその場の空気は氷点下まで下がったのである。
あまりに突然の出来事に、普段優しく穏やかなお母様も訳が分からないと言った表情を隠せずにいて、お兄様に至っては顔に手を当てて呆れ果てている姿が目に入るが、お父様はそんな家族に気づく事はなく笑顔のまま言葉を続けた。
「紹介しよう。ティア、今日から君の弟になるウィリアムだよ。」
そう言ってお父様が連れてきたのは、お父様の細長い足に捕まって隠れたまま出てこない年下の少年だったのである。
20210521.
次回更新予定日は6月2日です。
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