11.【SS】王子様の喜び。(アルフレッド目線)
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これまで、彼女のように才能がなくても認めてくれる人なんていなかった。
「気にする事なんて何も無いですわ!私は今はまだやらせて貰えないですが、お菓子作りが好きですの!才能は持っていません。ですが、好きな気持ちは1番だと思っています。それではいけないのですか……?」
初めてだったんだ、才能が無くてもいいと言われたのは。
僕はこれまで第一王子として教育を受けてきた。その中で何度も言われてきた言葉のひとつに「1番でなくてはならない」と言う言葉がある。僕は常に皆の上に立ち導く者にならなければならないと言われ続けてきた。そのため努力を重ね続けた。たとえ才能がなくても、才能を持つものを上回れるように。勉強も国政も、剣術だってそう。人一倍努力をした自負がある。
しかし、周りはそれを才能だと言った。僕の努力は評価されず、『才能』の一言で片付けられた。それが僕にとってどうしてもつらく苦しいものだと気づく者は誰もいなかった。
7年間、それが僕がずっと心に抱えきた唯一の闇である。なのに、目の前にいるこの子はそんな僕の闇をあっさりと救いあげた。苦しかった気持ちはこの子の笑顔に一瞬でかき消された。それが僕にとっては特別で、唯一だとはきっと目の前の彼女――クリスティア・セリンジャーは気づいていない。
そして、その瞬間、君が僕の大切な人になった事もきっと彼女は気づいていない。
「私にはまだ、才能がどのようなものか分かりません。しかし殿下の才能は【努力できる事】なのかもしれませんね。そしてそれは恐らくこの世界で一番の才能だと私は思いますわ」
あぁ、この子は本当に……。
僕のことを『第一王子』としてでは無く、ただの『アルフレッド』として見てくれる人はこの世界に一体どれだけいるだろうか。そして、そんな人に出会えるのはどれほどの確率だろうか。
彼女に出逢えたことが僕にとって一番の幸せなのだとこの時初めて思った。
そして、彼女とのお茶会を進めてくれた国王陛下――父上に感謝しなければならないと思った。
◇ ◇ ◇
彼女を知ったのは令嬢の間で流れていた噂話だった。
それは、美しく女神様のような侯爵令嬢がいる。と言う噂だった。ただ、その令嬢は未だどの家の茶会にも参加した事が無いという。
……噂が独り歩きしてしまったのか。可哀想に。
会ったこともない彼女に対し僕はそんな事を思っていた。
「いやぁ、本当に天使のように可愛くてですね……」と、王宮で真剣な顔でそう話すセリンジャー侯爵にも原因があるのは言うまでもない。
しかし、ガーデンパーティーで陛下に呼ばれ陛下の元へ行くとセリンジャー侯爵と話している姿が目に入った。そして侯爵の隣にはまだ幼いが整った顔立ちや育ちの良さがよく分かる少女が立っていた。
そして、陛下に僕のことを紹介されると彼女は透き通るような綺麗な声で自分の名前を口にした。
――あぁ、噂とは当てにならないものだな。
思わず苦笑がこぼれた。噂話は所詮噂話であり、事実かどうかは別の話である。
なぜなら、目の前に立つ彼女は噂なんかよりも遥かに美しいのだから――。
初めてのパーティーに疲れたのだろう、彼女は挨拶をすると直ぐに王宮を後にした。
そしてその後パーティーは滞りなく終わりを迎えほっと息を吐いていると父上が隣に来てどうだったか感想を求めてきた。
「とても有意義な時間を過ごせました。」
「あぁ、すまん、そうじゃなくてだな。『噂の花』だよ、どうだった?」
「セリンジャー侯爵令嬢の事でしょうか。」
「そうだ。」
「そうですね、噂に違わぬ女性だと思いました。」
「それだけか?」
「他にも?」
「……いや、良い。」
欲しかった返事が返って来なかったからか、陛下は少し肩を落としたが、すぐに名案だ!とでも言いたげな悪戯を思いついた子供のような生き生きとした笑顔を浮かべるとそれは楽しそうに言葉を紡いだ。
「茶会に誘ってみればどうだ?もちろん、お前個人のな。二人で話しみてるのも良かろう。ティアは同い年だし今後関わることが増えるであろう。」
正直、めんどくさいと思った。そんなことをしてる余裕があれば僕はもっとやらなければならない事が沢山あるのだ。この国の第一王子として、もっと努力をしなければならない。誰にも負けてはならないのだ。
――と、思っていたのだが。
今では彼女と出会えて良かったと思っているし、彼女と過した時間がかけがえのないものとなっているという事はここだけの話である。
そして、
「人には向き不向きがありますわ。だから出来ることをすればいいと思います。私もそうしてますわっ」
と、彼女の言った言葉に、初めて人前で涙を流しそうになったのもここだけの話である。
20210518.
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