第79話 幸せにして差し上げます!
サビーナはそのままブロッカの街で五日間働いてから帰ったので、セヴェリに心配されてしまっていた。
リックバルドと旅立ったのだと思っていたらしい。
レイスリーフェが生きていて、リックバルドと幸せになっていることは黙っておくことにした。哀れなセヴェリのために、早く運命の相手を見つけ出してあげなければと決意が固まる。
お風呂に木をくべて戻ってくると、セヴェリが洗い物をしてくれていた。
「あの、セヴェリ様。お風呂が熱くなり過ぎる前に、そろそろ入った方がよろしいかと」
「ああ、サビーナが先に入りなさい。私はここを片付けてから入りますから」
「そんな滅相もない! セヴェリ様より先になんて入れません! 片付けなら私がしますから、どうぞお入りください」
「全く、あなたは……いつまでそんな態度でいるのですか。私はもう、あなたと同じ立場の人間ですよ」
「何を言ってるんですか、そんなはずはありません。さぁ、ここは私に任せてお入りください。熱くなっちゃいますっ」
無理矢理お風呂に入らせ、セヴェリの後でサビーナもお風呂に入る。
これからの季節、どんどん暑くなってくるので、裸と言わずともバスタオル一丁で楽に過ごしたくなった。
しかしその衝動を、サビーナはグッと堪えて我慢する。
今日も台所で寝る算段をつけていると、セヴェリは息を吐いた。
「あなたは……リックバルドよりも私を選んだ。そう思っていていいんですよね?」
セヴェリの言っている事が理解できずに首を傾げる。選ぶとか選ばないとか、そういう次元の話だっただろうか。
「リックは兄で……親みたいなものだったので、男の人っていう意識がなくて」
「セヴェリ様こそ、何度も言わせないで下さい。セヴェリ様は、貴族に戻れます。 必ず、戻してみせます。私を信じて下さい」
「私が公国の貴族と婚姻を交わせば、あなたは満足なのですか? サビーナ」
セヴェリは言葉を詰まらせ、しかしかぶりを振った。
「サビーナ。私はここで暮らしていて、それなりに幸せなのですよ?」
「いいえ、それだけでは足りません。セヴェリ様には本当に幸せになってもらわないと! 絶対に、誰にも負けないような真の幸せを手に入れて欲しいんです! 」
断言すると、セヴェリは少し驚いたように目を丸め、そしてクスクスと笑い始めた。
そう言うと、セヴェリも毛布を持って台所にやってきた。
「たまには台所で眠るのもいいでしょう。……まぁ初めての経験ですけどね」
そう言ってセヴェリは台所の隅で毛布に包まり目を瞑ってしまった。こうなってはどうしようもなく、サビーナも同じように毛布に包まって眠ったのだった。




