第73話 出来れば、どうか……
外に出たサビーナは、プリシラたちの診療所兼自宅に招かれた。
「私には分からない。罪は償うべきだとは思うけれど、自首してあなたを待ち受けるものは……死だもの。出頭しろだなんて、私には言えないわ……」
「したいなら勝手にすればいいよ。けど多分、死ぬより辛い目に遭わされるぜ」
「お前、出頭してすぐに死ねると思ったら大間違いだからな。帝国側は絶対にセヴェリの居所を吐かせようとするだろうし、お前は絶対に喋ったりしないだろ? つまりは拷問が一生続くって事だ。それでも良いってんなら、別に止めたりしねぇけど」
「あのね……あなたはシェスカルの名前なんて、聞きたくもないかもしれないけど……彼は国も人も、とても大切に思っている人よ。シェスカルは死者を出さないように作戦を立てていたと思うの。マウリッツ様とセヴェリ様が捕まっても、処刑をされない算段を取っていたはず……実際、マウリッツ様は処刑にはならなかったでしょう?」
そう言われると、思い当たる節があった。
レイスリーフェがあの日サビーナを使いに出し、その間にセヴェリを連れ出したのは、シェスカルからの連絡があったからだろう。
サビーナはきっとセヴェリが連れていかれるのを止めると分かっていたから、余計な罪を負わないように配慮してくれていたのだ。
セヴェリが連行された後にサビーナが強硬手段に出るところまでは、想定外だったようだが。
もしサビーナが何もしなかったなら、セヴェリはシェスカルの思惑通りに生かされていたのだろう。
……けれど。
私は『生かす役』。
セヴェリ様がセヴェリ様らしく生きられるように。
死んだようには生かさないように。
それが、デニスさんとの約束だった。
そうサビーナは自分に言い聞かせた。
結局サビーナは、プリシラの家には泊まらず、ブロッカの街に行くことにした。
ルッツリオンに跨ると、馬のいななきを聞いたセヴェリが外に出てくる。
セヴェリは一度下がると、サビーナのコートを持って出てきてくれた。
それを渡してくれるも、セヴェリの顔は晴れないままだ。
サビーナは、ルッツリオンと共に村を出た。
出て行けと言われたら出て行って、出頭しろと言われたらそうしよう。
でも、出来れば、どうか……
どうか、傍に居て欲しいと言ってくれる事を祈りながら。
暗い森の中を、つんざくような風にさらされながら馬を走らせた。




