第69話 芽なんか出るんでしょうか
静かに新年を迎えた朝、サビーナとセヴェリはそっと微笑み合った。
「あなたは良くやってくれました。私を助けだし、ここまでの護衛を果たし、そしてこの村で生きる基盤を与えてくれた。とても感謝しています」
お礼を言われる事など何もない。己の意思でこうしているだけなのだから。サビーナはほんの少しだけ、首を左右に細かく振った。
しかし次の瞬間には、セヴェリの瞳は暗いものへと変わっていた。
「今年もよろしくと言いたい所なのですが……あなたはここを出る事を考えなさい」
「あなたはまだ十六歳。私に付き合う必要はありませんよ。あなたなら別の地で、人生をやり直す事だって可能でしょう。追手に怯える生活など、あなたがする必要はないんです」
「知っています。けれどそれだけであれば、深く取り沙汰される事は……」
「殺したんです。確実に、一人は。セヴェリ様から離れたとしても、私自身に追手が掛かる事でしょう。ですから、セヴェリ様から離れる意味はありません」
「……いいえ。追手に掛かる恐怖がなくなるその時まで、ずっとお傍に居させてください」
この気持ちは、一体何というのだろうか。
犯罪者同士が、慰め励まし合っている……というだけでは足りぬ感情だ。
彼のためならば何でも出来る。セヴェリが恐怖から解放され、自由に生きられるのならば、何だって。
少しして、セヴェリが腰につけた小瓶を取り出した。
「分かりませんが、やってみる価値はあるでしょう? これが育てば、良い値で売れるかもしれません」
二人は、そのアデラオレンジの種を植えることにしたのだった。




