第59話 ……駄目……デニスさんっ
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サビーナは馬車を取り囲む彼らを、順にひとりひとり眺めた。
リックバルドが冷静に言う姿を見て、サビーナはキッと睨みつける。
「リック、どうして!! まだセヴェリ様を説得する時間はあった! それなのに!!」
シェスカルの眼光は鋭く、いつもの軽い男の様相は消えている。
一気に頭に血が上った。
オーケルフェルト騎士隊の隊長ともあろう者が、己が主を売り渡すような真似をした、その事実に。
「シェスカル隊長……!! どうして!! どうしてッ!!!!」
「これが最善の方法だった。セヴェリ様を渡して貰おう。サビーナ、お前もこれだけ派手な立ち回りをしたんだ。ただでは済まないぜ」
サビーナが彼らを倒して切り抜けられる確率は、なきに等しい。
しかしセヴェリを生かすという思いから、サビーナはとうとう剣を抜いた。
シェスカルの、ドスの聞いた声が響き渡る。ゾッとするほど怖い。
「危険な事をしているのはサビーナでしょう。私は……あなたを死なせたくない」
私だって、とサビーナは心の中で答える。
その優しい言葉に、涙が溢れそうになる。
だからこそ。
こんなにも優しい人物であるからこそ。
絶対に、死なせられない。
何かが込み上げそうになるのを、サビーナはグッと堪える。
怖い。どうなってしまうのかが。
でも、それでも、セヴェリだけは生かさなければいけない。
そんな明るい声と共に、トンッと人影が馬車に飛び乗ってくる。
その男はこちらに目を向けてニッと笑った。
デニスは顔に笑みを含んだまま、己の剣を抜いている。
「二人ともやめなよ! こんな事をしても何もならないんだよ!?」
彼は腰から何かをブツンと引き千切る。キンッと高い音色がして、それを手渡された。
「デニス、今ならまだ引き返せる。セヴェリ様とサビーナを捕らえて、こっちに戻ってこいッ!!」
馬も怯える地鳴りのような声に、さすがのデニスも顔から笑みが消えた。
サビーナが覚悟していたように、彼もまた決意を固めている。
泣けてくる。
もう二度と、彼の顔を見る事はないかもしれない。
しかしサビーナは涙を飲み込み、前を見据えた。
びりっと空気が震える。
「セヴェリ様、合図をしたらデニスさんの馬に飛び乗ってください」
「セヴェリ様の後ろに乗りますので、馬を操るのはセヴェリ様にお任せします。私は追手を払いますから」
ひそひそと話し合うと、セヴェリはコクリと頷いてくれた。
「みんな、下がっていろ。デニスが相手じゃ、全員が無傷ってわけにはいかねぇだろうからな」
シェスカルの言葉に、周りの騎士は距離をとっている。これなら隙をついて逃げ出す事も可能だ。
デニスさんも、という言葉が出てこなかった。彼の命の保証が出来ない今、それを言うことは憚られた。
デニスの顔がグッと引き締まり、剣を握るその手に力が入るのが分かる。
二人の剣が、今、交差した。




