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たとえ貴方が地に落ちようと【簡易版】  作者: 長岡更紗


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第54話 私は、生かす役……

翌日、ランディスの街に帰ってくると、デニスがサビーナ目を向けた。


「サビーナ……ちょっと話してぇ事があんだけど、いいか?」


そう言われて、サビーナはデニスを部屋へと招く。


挿絵(By みてみん)「デニスさん……」

挿絵(By みてみん)「忘れてくれ」


 サビーナが次の言葉を紡ぐ前に、デニスが言った。


挿絵(By みてみん)「な、に、を……」

挿絵(By みてみん)「セヴェリ様は、あんたの事が……好きだったんだな」


 その言葉に、サビーナはただフルフルと首を横に振った。

 違う。彼のそれは、好きという感情ではない。

 セヴェリはサビーナに母性を感じているだけだろう。サビーナがセヴェリに対しての感情が恋ではないのと同じで、彼もまた、サビーナには恋愛感情を抱いてはいまい。彼の愛する人は、レイスリーフェただ一人のはずなのだから。


挿絵(By みてみん)「もう隠すこたぁねーよ。セヴェリ様のあんな顔、初めて見た。俺、あんなにセヴェリ様に敵視されてたんだな。気分良くなかったんだろうぜ。俺があんたに手を出しそうなのを感じてよ」


敵視に類するものを、確かにサビーナも感じ取ってしまっていて、黙するしかなかった。


挿絵(By みてみん)「だから、もう忘れてくれ。俺があんたを好きだって言った事はよ」

挿絵(By みてみん)「……え? なんで、ですか?」

挿絵(By みてみん)「俺は、セヴェリ様と争うつもりはねぇんだ。セヴェリ様がサビーナの事を好きなら、俺は身を引く」

挿絵(By みてみん)「好きとかじゃないですよ! だって、セヴェリ様にはレイスリーフェ様がいらっしゃるし……」

挿絵(By みてみん)「でもサビーナは、セヴェリ様と一緒にクラメルの屋敷に行く事になってんだろ? 昨日あんたが寝てる間に、セヴェリ様から聞いたぜ」

挿絵(By みてみん)「それは……」


否定しようもない事実に、サビーナはコクリと頷く。


挿絵(By みてみん)「レイスリーフェ様とセヴェリ様がどうなってんのかなんて、俺には分かんねぇ。けどセヴェリ様がサビーナを必要としてんのは分かる。そして俺は、何よりセヴェリ様の意志を尊重してぇんだ」

挿絵(By みてみん)「でもセヴェリ様はレイスリーフェ様とご結婚なさるんですよ? 私はそんな対象には見られてないはずだから……」

挿絵(By みてみん)「じゃあ、ユーリス行きを断れっか? 断って、俺と付き合うってセヴェリ様に宣言できっか?」


 サビーナはハッとして口を閉ざす。


挿絵(By みてみん)「……な? 答え、出てんだろ」

挿絵(By みてみん)「ごめ……なさ……っ」

挿絵(By みてみん)「謝んなよ。前に言ったろ? あんたはセヴェリ様を生かす役。俺は守る役だって」


デニスはサビーナの口元を押さえていた手首を取ると、優しい赤土色の目を向けてくれた。


挿絵(By みてみん)「俺はセヴェリ様という人格を守るために身を引く。サビーナはセヴェリ様らしく生かすためについてく。それでいいんだ」


 ポロリと涙が溢れた。

 そう、約束したはずだ。セヴェリの願う通りに努めを果たすと。


デニスはサビーナの髪に手を伸ばすと、髪留めを奪っていく。


挿絵(By みてみん)「っあ」


 サビーナが何かを言う間もなく、デニスの手の中の物はパキンと音を立てて壊れされた。

 

挿絵(By みてみん)「いらねぇだろ、もう」

挿絵(By みてみん)「……っう……」

挿絵(By みてみん)「懐中時計も、処分……しといてくれ」


 その言葉にサビーナはブンブンと首を横に振る。

 手離したくない。あれだけは、何があっても。


挿絵(By みてみん)「サビーナ……」

挿絵(By みてみん)「嫌です! あれは、あの懐中時計は、デニスさんに貰った大切な宝物だから……絶対に、一生大事にするって決めたから……!」


 そう言い終えた瞬間、腕をグンッと引き寄せられた。

 ガクンと揺れるように顔が上向きになり、そのまま腰を抱きかかえられ……


 気が付けば、デニスとキスをしていた。


 強く当てられた唇はとろけそうなほど熱く、そしてどこか悲しい。


挿絵(By みてみん)「……っん」

挿絵(By みてみん)「サビーナ……ッ」


 一瞬のキスが終わると、そのまま強く抱き締められた。

 何となく分かる。きっと、これが最後だ。

 互いにセヴェリを裏切るわけにはいかない。


挿絵(By みてみん)「悪ぃ……我慢、出来なかった」

挿絵(By みてみん)「ううん……ううん……」


 デニスとキスが出来て嬉しいと……声には、出せなかった。

 やがて拘束を解いたデニスが、発した言葉。


挿絵(By みてみん)「俺は、守る役」


 その言葉に、サビーナは顔を上げる。


挿絵(By みてみん)「私は、生かす役……」


 これだけは、この約束だけは違えてはいけない。

 己の生きる意味でもあるのだから。


挿絵(By みてみん)「セヴェリ様の願う通りに努めを果たすと、約束してくれ」

挿絵(By みてみん)「約束する。……必ず」


 サビーナの誓いの言葉に、デニスはようやく笑みを見せ。

 そしてあとは何も言わずに部屋を去って行った。


 パタンと悲しい音を立てて扉が閉まった後。


 サビーナは胸の懐中時計を握り締めて泣き崩れた。


 苦しかった。

 デニスと共にいられない事が。


 悲しかった。

 己の胸の内に湧き始めた感情を、伝えられなかった事が。


 でも、それでも。


 サビーナは、セヴェリを見捨てるわけにはいかなかった。

 誰よりも孤独で、傷ついている人を。

 誰よりもサビーナに依存しているあの人を。


 サビーナはセヴェリを思い、しかしデニスを想って、その日は泣き暮らした。


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