第39話 お可哀想なセヴェリ様……
屋敷に帰ってくると、サビーナは約束通り、セヴェリに膝枕をしてあげた。
「そうですね……婚姻の日が決まってから、ずっと眠れていないです」
それは、どういう意味でだろうか。婚姻が決まって嬉しくて眠れないのか、それとも……
微かに笑みを見せながら放たれたその言葉に、胸が痛んだ。
『あなたは』という事は、自分は幸せにはなれないと思っているのだ。
「セヴェリ様を差し置いて、私だけ幸せになどなれません! セヴェリ様が幸せになれないのなら、私に幸せなどは必要ありませんから!」
「セヴェリ様……レイスリーフェ様とのご結婚は、考え直された方がよろしいのではありませんか……?」
「もう、決まった事なのですよ。今更……今更、どうにもなりません」
「そんな事はありません! まだご成婚前なのですから、どうにでも……」
「どうにもならないのですよ。ようやくここまで来て、父が許すはずがありませんし」
いちメイドであるサビーナがどうこう言ったところで、覆るはずもない。ないのだが。
「セヴェリ様は……本当は、幸せな結婚が出来るはずだったのに……兄のせいで……」
「彼女の心を惹きつけておけなかった私が悪いのです。悔しいですが、レイスリーフェの私への想いというのはその程度のものだったのでしょう。互いに想い合って結婚しても、いずれは心が離れていく運命だったのかもしれません」
「ならば……ならばやっぱりこの結婚はするべきではないと思います! 心が離れていく運命と分かっていながら結婚するなんて……」
「馬鹿だと思いますか? ……それでも私は、まだ一縷の望みにかけているのですよ。何事もなかったかのように過ごして行けるという望みに」
「私は……お優しいセヴェリ様が辛い思いをなさるのは、我慢出来ません……っ」
「私は優しくなどありませんよ。腹黒で、底意地の悪い男なのです」
「ありますよ。レイスリーフェをリックバルドの元へやって幸せになどさせたくない。私は自身のエゴと思惑のためだけに、彼女と結婚するんです」
レイスリーフェとリックバルドを幸せにしたくない。謀反を成功させるために結婚する。
そんな悲しい結婚があるだろうか。
セヴェリには皆に祝福され、互いに愛し愛される結婚をして、一生幸せに暮らして欲しい。
「セヴェリ様……私に出来る事はありませんか? セヴェリ様が幸せになれるなら、私はどんな事でも厭いません」
そう言って、セヴェリの手がサビーナに伸びてきた。その手はサビーナの頬に触れ、優しく涙を拭ってくれる。
今度はセヴェリが、今にも泣きそうな顔をして。
その問いに、サビーナはゆっくりと首肯した。




