第3話 じゃあ、どなたかお願いします
さっそく鍛錬所に行ったサビーナを最初に出迎えてくれたのは、オーケルフェルト騎士隊の班長の一人、サイラスであった。
「いっつもお茶を淹れてくれる天使が、剣術を習いに来るって聞いた時には、狂喜乱舞しちゃったよ!」
「のぼせるな。天使のわけがないだろう。こいつは女を見ると、口説かずにはいられない病気なんだ。こいつには本当に注意しておけ。サイラスに処女を散らされたメイドは、数知れん」
「やだなぁ、リックバルド殿、人聞きの悪い。そんなにはいないですよ〜」
リックバルドは、サビーナの鍛錬の相手をしたがるサイラスを引きずって、どこかに行ってしまった。
一人で模擬剣を素振りしていると、キアリカという女性の班長がサビーナに声をかけてくれる。
遠くから、リックバルドの声が響いてきたが、キアリカは一瞥をくれただけで、すぐにサビーナに視線を戻す。
「全く、リックさんは分かってないわよねぇ。一人だけメイド服で剣を振っていたら、恥ずかしいじゃないの。ねぇ?」
「気兼ねする事はないわ。女同士ですもの。男には頼み辛い事もあるでしょう? 特にリックさんは、女心が分かってないから……」
実はキアリカはリックバルドの元彼女だ。
どうして別れたのか、サビーナは知らない。
鍛錬相手はいなくても良いとキアリカに告げたが、彼女は首を横に振った。
「サビーナ、組む相手は決めておいた方が良いわ。今日、隊長は他の班を連れて出てるけど、あの人が戻ればまず間違いなく、自分が相手をすると言い出すに決まってるもの。隊長、若い子が大好きだから……」
という理由で、サビーナは今後、ファナミィという同い年の女の子と鍛錬することになったのだった。