第22話 何て馬鹿な真似を
クラメルの屋敷を出た途端、セヴェリは吐き気をもよおしてしまい、サビーナはそのお世話をする。
少し休もうと、サビーナとセヴェリは川原に腰を下ろした。
「みっともない男でしょう、私は。彼女の心は既に私にないというのに」
「いいえ、本当に……申し訳ありません!! もう、何と謝っていいのか……兄が……何て馬鹿な真似を……っ」
「あなたが謝る必要はありませんよ。あなたはリックバルドではないし、レイスリーフェでもない。何も悪い事などしていないでしょう?」
どうすればいいのか分からないサビーナに、セヴェリは昔の事を語り始めた。
「私とレイスリーフェは、互いが十五の時に親同士が決めた婚約者でして。まぁ婚約者と言ってもその時は口約束だったのですが……それを聞かされた当時、私は憤慨しましてね。将来の伴侶を勝手に決められるなんて、冗談じゃないと反抗しましたよ」
「そうですね、当時は色々と反抗もしました。でも一度レイスリーフェに会ってみろと言われて仕方なく会ったのですが……何せ彼女は、十五の時には既に完成された美しさを持っていて。私の……一目惚れだったのですよ」
セヴェリは少し照れ臭そうに笑った。
「そして、レイスリーフェも私に好意を抱いてくれていた。私達は遠距離ながらも逢瀬を重ねて、少しずつ愛を育んでいったんです。そして正式に婚約し……結婚も間近だと思っていました」
聞くのが辛い。ここにリックバルドが絡んでくるのかと思うと、真剣に頭が痛い。
「……他に誰か好きな人が出来たのではないかと、察しはついていました。でも認めたくなかった。彼女が、他の誰かを愛するなんて。馬鹿でしょう? あれだけハッキリと拒絶させてなお……私は彼女を愛しているんです」
「レイスリーフェの幸せを思えば、婚約を解消すべきだったのでしょうね……けれど、出来なかった……心の伴わない結婚など、虚しいだけだと分かっているのに……っ」
セヴェリの涙は一粒だけでは終わらず、次々と流れ落ちては服を濡らして行く。
涙の止まらぬセヴェリを、ただ抱きしめた。
日が落ち始め、少し落ち着くと宿に戻ることにする。
その可愛い仕草に、サビーナは微笑みながら頷いた。
そして一行はユーリスで一泊した後、また同じ経路でランディスへと帰ったのだった。