第18話 う!汗くさぁっ
そう言って騎士コートを脱ぎながら入って来たのは、長めの前髪が鬱陶しそうな超絶美形の騎士である。
水をゴキュゴキュ、汗をふきふきした後、デニスはポイとサビーナにタオルを投げた。
「まったく、あなたは……昔はよく女の子にいじめられて泣かされていたというのに……」
「デニスの子供の頃は、それはもう可愛かったんですよ。アンゼルード人形顔負けです」
アンゼルード人形とは女の子の理想の集大成である愛らしい人形だ。それを比較に出すという事は、この美形男子の幼少はさぞ可愛かったに違いない。
「生徒会室に泣きながら避難しに来ていた日々が、懐かしいですね」
言わない約束だったようだが、セヴェリは謝りつつも気にもしていない。
デニスの方がセヴェリより一学年上だが、幼年学校から同じのため、幼馴染みのようなものらしかった。
ユーリスの街に行く途中にある、ビネルという街で一泊することになった一行。
リカルドがジロリとサビーナを見る。
「レイスリーフェ様のお気持ちを考えると、他の女性がセヴェリ様の周りにいるのは面白くないはずです。これからユーリスの街に行くのでしたら、そのくらいの配慮はすべきかと」
ユーリスの街は、そういえばレイスリーフェの住む街だった。きっとセヴェリは彼女に会いに行くのだろう。
「クスクス……優しくする女性は、奥方だけにしておいた方が賢明ですね。シェスカルのようになっては、愛する妻に逃げられてしまいますよ」
セヴェリは相変わらずクスクスと楽しそうに笑っている。
「まぁそう心配しないでください。彼女はユーリスまで連れて行きます。それが私の目的ですから」
話を唐突に振られて、サビーナは狼狽した。『ね』と言われても、何も聞いていないのだから答えようもなく、曖昧に笑って誤魔化した。