第15話 こうなると早く似合う服が欲しいです
アンゼルード帝国は、高位貴族が皇帝から封土を賜り、それぞれが統治している国である。
土地を与えられた高位貴族は、皇帝に忠誠を誓い、税の徴収と軍役の義務を負わなければならない。
現在アンゼルード帝国は十数の高位貴族によって統治されているが、中でもオーケルフェルト卿とクラメル卿が所領する範囲は広く、二大勢力と呼ばれている。
そのオーケルフェルト卿の息子セヴェリと、クラメル卿の娘レイスリーフェは、二人が十五歳の時に親同士が決めた婚約者だ。当初は反発していた二人だったが、出会った瞬間から惹かれ合い、そして二人の意思を確認した上で婚約が決まったのだった。正式な婚約を交わしたのは、成人を迎えた二十歳になってからである。
現在セヴェリとレイスリーフェは二十四歳になっているが、まだ結婚には至っていなかった。二人を結婚させる意図に、オーケルフェルトとクラメルの間で齟齬があったからだ。
表向きは両家の親交、軍事の拡大。そして有益な情報を共有する事で、街の発展を促進させる事。
しかしクラメルの思惑は、税率が高くなって徴収が厳しくなりつつある昨今、潤っているオーケルフェルトの領地の収益を共有し、その恩恵に肖あやかる事にあった。
そしてオーケルフェルトは、クラメルの軍事を傘下に置き、謀反を成功させる事にあったのである。
オーケルフェルトと手を結ぶ事で、税金の取り立てに耐えられると考えているクラメルと、こんな事をしていてはいずれ国は破綻すると悲観するオーケルフェルト。
両家は主張を受け入れないと結婚はさせられないと互いに言い張り、二人の結婚は延び延びとなってしまっている状態だった。
まさかその間に、レイスリーフェのセヴェリへの愛が消失する事になるとは、誰も想像してはいなかっただろう。それに気付いている人物は、ごく少数ではあったがーー
「そうですね。あなたと仲の良い騎士の方で構いませんよ。サビーナも一緒に来ていただきますから」
サビーナはファナミィを護衛騎士として呼び、三人で街に出る。
なんとセヴェリは、サビーナのための服と剣をオーダーメイドしてくれたのだった。