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第110話 ヤバイと思ってて、何で入るんですかーっ

 セヴェリとクリスタの結婚式から、二ヶ月が過ぎた。

 シェルトの受験は既に終わり、無事に大学に合格したようである。この春から、彼はブロッカの街で医学生となる予定だ。

 サビーナのお腹はポッコリとしてきたものの、ゆったりとした服を着ていると気付かれないだろう。


挿絵(By みてみん)「最近どう? ちゃんとご飯は食べてる?」

挿絵(By みてみん)「はい。最近、食べてばっかりいます」

挿絵(By みてみん)「今日はデニス君は一緒じゃないのね」

挿絵(By みてみん)「はい、最近は魔物狩りの方をメインにしているみたいで……近くには大した魔物はいないからって、遠出する事が多いんです」

挿絵(By みてみん)「あら……じゃあ何日も帰ってこなかったりするの?」

挿絵(By みてみん)「そうですね」

挿絵(By みてみん)「寂しいわね」

挿絵(By みてみん)「でも、これからはプリシラ先生も寂しくなっちゃいますね。春からはシェルトが街に行っちゃいますし」

挿絵(By みてみん)「そうねぇ……」

挿絵(By みてみん)「土日には帰って来るし。先生に寂しい思いなんかさせねぇから」


 医学生に、土日に帰ってくる暇などあるのだろうか。

 シェルトなら意地でも帰ってきそうではあるが。


挿絵(By みてみん)「何だよ、サビーナ。ニヤニヤして」

挿絵(By みてみん)「何でもなーい」

挿絵(By みてみん)「……腹立つな」


 シェルトは診察室から出て行った。

 それから産前産後の指導を受けていると、シェルトが診察室に飛び込んでくる。

 どうやら急患がくるらしい。


挿絵(By みてみん)「今、患者は?」

挿絵(By みてみん)「ケーウィンたちが移送中だ。腹部と頭部に魔物に襲われたと思われる損傷、血まみれになって村の入り口に倒れてたのを、ガロクが見つけたらしい」

挿絵(By みてみん)「意識は?」

挿絵(By みてみん)「あるみたいだ」

挿絵(By みてみん)「どこの誰だか分かるの? 性別、年齢は」

挿絵(By みてみん)「デニス、男、確か二十六歳のはずだな」

挿絵(By みてみん)「すぐに施術の準備! 到着次第、患者の救命に全神経を注ぐわよ!」

挿絵(By みてみん)「分かった!」

挿絵(By みてみん)「プリシラ先生……デニスさんが、怪我を……?」

挿絵(By みてみん)「落ち着いて、サビーナさん。まだこの目で見てないから、何とも言えないわ。今は万全の態勢で迎えたいの。座って待っていてもらえる?」

挿絵(By みてみん)「先生、来たようだぜ」

挿絵(By みてみん)「扉を開けて、中まで運んで貰って」


 シェルトが扉を開けると、ガロクとケーウィンに抱えられたデニスが連れられて来た。


挿絵(By みてみん)「デニスさんっ!!」

挿絵(By みてみん)「……サビーナ」

挿絵(By みてみん)「デニスさ……っ」

挿絵(By みてみん)「落ち着け、サビーナ。先生に任せとけば大丈夫だから。そこで静かに座って待ってろ」

挿絵(By みてみん)「ガロクさん、ケーウィン君、中に運んで下さい!」


 デニスが中に運ばれると、ガロクとケーウィンが外に出てくる。


挿絵(By みてみん)「どうして……デニスさんを助けてくれたんですか? 私達は、この村で嫌われているのに……」

挿絵(By みてみん)「嫌いだからって、死にそうな人間を見殺しには出来ないよ。サビーナさんにとっては大事な人なんだろ? あの人、無事だといいな」


 そう言って二人は帰って行った。

 もしもデニスが死んでしまったらと思うと、頭がぐちゃぐちゃになる。

 無事を祈っていると、シェルトが顔を出した。入室を許可されて足を踏み入れる。


挿絵(By みてみん)「デニス、さん……?」

挿絵(By みてみん)「サビーナ……悪ぃ。心配、掛けちまったな……」

挿絵(By みてみん)「派手に出血はしてたけど、思った程傷は深くなかったわ。しばらく安静にしてもらわなければいけないけど、命に別条はないから安心して」


 デニスは脅威の回復力を見せ、次の日には立ち上がれるまでになっていた。

 二人で家に帰ってきて、ようやくゆっくりと話ができる。


挿絵(By みてみん)「それで……どうしてこんな怪我を負ったんですか? 今まで一度だってこんな事なかったのに……」

挿絵(By みてみん)「つい魔物の巣窟に入っちまった。ヤベェかなとは思ったんだけどな」

挿絵(By みてみん)「ヤバイと思ってて、何で入るんですかーっ」

挿絵(By みてみん)「悪ぃ、これからは気をつけるって!」

挿絵(By みてみん)「信じられない」

挿絵(By みてみん)「なんつーかさ……俺、今まで甘えてたんだろうなって思った」

挿絵(By みてみん)「え?」

挿絵(By みてみん)「俺はさ、オーケルフェルトの騎士の中では斬り込み役だったからよ。まぁ一言で言えば、何も考えずに突っ込んで剣を振るってりゃ良かったんだ」

挿絵(By みてみん)「え……そんな事はないと思うけど……」

挿絵(By みてみん)「魔物の巣窟に入って行ったすぐに後悔した。今はサポートしてくれるリカルドやキアリカがいねぇ。俺は今まで自分の力で魔物を倒した気になってたけど、あいつらがいてくれたからこそだったんだよな……」


 確かデニスは、リカルドやキアリカとは同期だったはずだ。特にリカルドとは親友のようだし、強い信頼関係が成り立っていたからこそ、デニスも無茶が出来たのだろう。


挿絵(By みてみん)「……あのさ、サビーナ。この村を……出ていかねぇか?」

挿絵(By みてみん)「……え?」

挿絵(By みてみん)「サビーナがこの村を出たくない気持ちも分かる。けど、正直俺は……ここで暮らして行くのがキツイんだ。単独での魔物狩りも限界があるってよく分かったし、俺はそれよりも騎士職の方が合ってる。どこか別の国へ行って、新しい場所で騎士として再出発してぇ」


 デニスに気持ちは、痛いほどよく分かった。デニスの事を思うなら、そうすべきだとは分かっている。


挿絵(By みてみん)「サビーナ……」

挿絵(By みてみん)「ごめん、デニスさん……私は、ここに居たい。セヴェリ様と一緒に植えたアデラオレンジを、ここで育てて行きたいから……だから……」


 わがままをいうサビーナの頭を、デニスは笑って撫でてくれた。


挿絵(By みてみん)「悪ぃ、俺の言った事は気にすんな! 惑わせちまったな。心配すんな、ここで上手い事やってみせっから。な?」

挿絵(By みてみん)「デニスさん……」


 ごめんなさいという言葉が出て来ず、サビーナは深く頭を下げた。

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