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第105話 セヴェリ様ぁぁああっ

挿絵(By みてみん)「利……用……?」

挿絵(By みてみん)「ええ。 追手に見つかった際、私がサビーナを囮にしている間に逃げおおせるように、一緒に居た方が都合が良かっただけですよ」


 もし追手が来たならその思惑通り、サビーナはセヴェリを守る盾となっただろう。

 でも何故だろうか。

 それを目的として傍に置いて欲しくはなかった。ただ共にいたいという純粋な気持ちで、傍に置いていて欲しかったと思うのは、我儘だったのだろうか。


挿絵(By みてみん)「私にも良心がありますからね。あなたと離れて一人で生きる事も、真剣に考えました。でもあなたは色々と利用出来そうだったので、傍に置いておく事に決めたのですよ。そうしたら案の定、貴族との結婚を仄めかして来たでしょう? 正直、しめたと思いましたね」

挿絵(By みてみん)「……」

挿絵(By みてみん)「まぁ、そこからが大変でした。私の世話はもう嫌だと言い出さないように、私に依存させる必要がありましたからね。丁度よく高熱を出してくれたので、サビーナの体を開き、私から逃れられないようにしたんですよ。ああ、彼女を怒らないでくださいね、デニス。私が無理矢理にサビーナの純潔を奪ったのですから」

挿絵(By みてみん)「セヴェリ様……」

挿絵(By みてみん)「私を斬りたければ斬っても構いませんよ、デニス」

挿絵(By みてみん)「……いえ」

挿絵(By みてみん)「薄っぺらいあなたの体を抱くのは苦痛でしたが、その苦労の甲斐もあって、サビーナは本当に良く働いてくれましたよ。私を男爵令嬢との結婚まで漕ぎ着けてくれました。欲を言えば、もっと高貴な貴族が良かったのですがね。まぁクリスタはあなたと違って美人で素直な女性ですし、良しとしましょう」


 自分の体は、欲望の捌け口にすらなっていなかった。セヴェリの気持ちが収まるならという考えすら、傲慢だったのだ。


挿絵(By みてみん)「実は、あなたをどう傷付けずに振ろうかと考えあぐねていましてね。タイミング良くデニスが来てくれたものです。これで私も猫をかぶる必要がなくなる。あなたにはデニスという、愛する人が傍にいるんですから」


 そう言い終えると、セヴェリは荷物をまとめ始め、コートを手に取った。その顔は、どこか揚々としている。


挿絵(By みてみん)「では……私は今日からブロッカで生活する事にしますよ。クリスタとの結婚の話も詰めなければいけませんしね。あなたたちは好きにここを使いなさい。デニスが傍にいれば、サビーナの命は保証されたようなものでしょう。私の心残りも無くなる」


 セヴェリは今にも扉を開けようとし、こちらを見てにっこりと嬉しそうに笑った。


挿絵(By みてみん)「私はもう二度と、この村には来ませんから」


 カチャリ、と開けられる扉の音。それと同時に隣にいたデニスがガタンと立ち上がる。


挿絵(By みてみん)「それで……それでいいんすか、セヴェリ様!」

挿絵(By みてみん)「何を確かめようとしているんですか? 私は貴族に戻れ、あなたたちも幸せになれる。何の不都合もないでしょう」

挿絵(By みてみん)「けど……セヴェリ様は、そんな人じゃねぇだろ……っ」

挿絵(By みてみん)「そんな人? どんな人ですか? 私の腹が黒い事は、あなた方お二人が一番分かっている事でしょう。私はずっとこうなる事を望んでいたんですよ。全ては筋書き通りです」

挿絵(By みてみん)「セヴェリ様……」

挿絵(By みてみん)「サビーナ、今まで苦労を掛けましたね。どうか……幸せになってください」


 セヴェリの心からの言葉に、涙が溢れそうになる。

 ずっと、ずっと望んでいた結末だ。

 セヴェリがクリスタと結婚し、命を脅かされること無く幸せに生きられるよう、ずっと画策していたのだから。

 サビーナは優しい目を向け続けるセヴェリに、深く深くお辞儀した。


挿絵(By みてみん)「ありがとう、ございました……セヴェリ様も、どうかクリスタ様とお幸せに……っ」

挿絵(By みてみん)「ええ。幸せになりますよ。ありがとう、サビーナ」


 そう言ってセヴェリは扉を大きく開け放ち。


挿絵(By みてみん)「サビーナを頼みます。デニス」


 その言葉を最後に、セヴェリは出て行った。

 パタンと扉が閉じられた後、デニスは低く力強い声で「分かりました」と答えている。

 その直後、馬の嘶く声が裏から響き、そしてゆっくりと馬の足音は去って行った。


 終わった。全てが。


 セヴェリは街でクリスタと結婚して貴族となり、幸せに暮らして行ける事だろう。

 ようやく思い通りの着地点に来る事が出来た。

 しかも、ずっと会いたいと思っていたデニスが目の前にいる。

 きっと今日は、人生最良の日だ。

 全てが上手く行った、最高の日……の、はずなのだ。


挿絵(By みてみん)「う……う、うああ……あああああああーーーーーーーー〜〜〜〜ッ!!!!」

挿絵(By みてみん)「サビーナ!?」


 セヴェリが、この家からいなくなった。


 それだけで気が狂いそうな程の悲しい波が、次から次へと押し寄せてくる。

 全部、嘘だった。好きと言ってくれた言葉も、愛していますと言ってくれた言葉も。


挿絵(By みてみん)「あああッ! あーー、セヴェリ様ぁぁああっ」

挿絵(By みてみん)「サビーナッ!!」


 泣き崩れるサビーナをデニスが受け止め、支えてくれる。それでも溢れ出る涙と声は止まらない。

 これで良かったはずだった。セヴェリを無事に貴族に戻す事が出来たのなら、それで。


挿絵(By みてみん)「う、うああ……セヴェリ様、セヴェリ様ぁ……あああ……」

挿絵(By みてみん)「サビーナ……あんた、セヴェリ様の事が……」


 そうだ……

 私、セヴェリ様の事が……っ


挿絵(By みてみん)「……っごめん………デニスさん、ごめん……っ」

挿絵(By みてみん)「……ん」

挿絵(By みてみん)「私……私、セヴェリ様が好きだった……セヴェリ様を、愛してた……っ!!」


 飛び出すように出てきてしまった、愛の告白。

 愛の言葉を耳にしたデニスは、己に向けられたものではなくともサビーナを強く抱き締めてくれた。


挿絵(By みてみん)「ごめん、デニスさ……、ごめ………っ」

挿絵(By みてみん)「分かってる。俺がいっから。俺がセヴェリ様の分まで、あんたを愛してやっから」

挿絵(By みてみん)「ふ……うう、うあぁぁあああっ」


 セヴェリにこんな感情を抱いたのは、いつだったのだろうか。

 最初に感じたのは、母性愛だった。それがいつの間にか、より深く複雑な愛情へと変化していたのだ。


 私、デニスさんには恋してた……

 でもセヴェリ様に感じてたのは、最初からずっと……愛だったんだ……


 心の中でずっと蕾のまま、花開く事無く散っていった無言の愛。

 泣きひしるサビーナを、デニスは抱き締め。


挿絵(By みてみん)「絶対にあんたを……幸せにすっから……」

挿絵(By みてみん)「……デニスさん……デニスさん……っ」


 サビーナは救いを求めるようにデニスの名を呼び、彼は気が収まるまでサビーナを優しく抱き締めてくれた。


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