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修行

作者: 嘉多野光

 皆さんこんにちは、まりな(@marina_kugyo)です。

 これまで私は日本各地の滝行を五十カ所以上巡ってきました。もちろん毎日新鮮な思いで臨んでいますし、気持ちを新たにできるのですが、正直滝行に慣れてしまいました(笑)。そこで、今回は新しい修行に行ってきました!


 一つ目は神社へのお参りです。場所は岩手県の海沿いの村です。

 ただ神社にお参りするだけなら簡単そうですが、実はこの神社、切り立った山の断崖絶壁に位置しているのです。海側からだと、よくその場所がすごいところにあるか、よく分かりますよね。

 この神社は、今から五百年以上前、戦国の世が静まることを祈って建てられたとのこと。でも、当時まだ重機もないのに、よくこんな場所に建てましたよね。

 麓の石碑には、この神社の建設のために実に五十人近くが亡くなったと記されています。尤も、石碑は江戸時代末期に作られたものなので、信憑性は今ひとつですが(汗)。

 問題は、この神社までどうやって行くのかということですが……実は麓から崖登りで行きます。この道のりが険しすぎるということで、最近になって新たな修行として修行好きには注目の場所になっています。

 身なりはいつもの白装束ではなく、ガチ登山です。なるべく軽くて温かい服を着て、ハイキング用の靴を履きます。カラビナは丈夫なものを使いましょう。

 道中にはすべてワイヤーが一巡りされています。今まで挑戦者で亡くなった人は一人もいないと聞いて、安心し挑めると思っていたのですが、地元にお住まいで、この命懸けのお宮参りまで同行役の木多さんが、次のように話しました。

「一応、命綱はありますが、このワイヤーはあまり当てにしないでください。というより、絶対に落ちないでください。道中にあるワイヤーが張られたのはもう五十年以上前で、ちゃんと機能するか微妙なので」

 背筋が冷たくなるのを感じました……。

 いざ、崖登りスタート。最初にあんな脅しがありましたが、崖を登るまでの間に張り巡らされたワイヤーは、今まで通った人も木多さん自身も体重を何度も預けているため、信用して大丈夫だそうです。とはいえ、ピッケルを使って崖を登るのはかなりの重労働でした。崖自体は三百メートルほどなので決して高くはないのですが、道中で休憩するポイントがないので、一回登り始めたらいくら筋肉が悲鳴を上げても登り続けましょう。

 三百メートルほど登りきれば、いよいよ最後のポイントです。この最後の道が、特に修行ファンに話題になっているスポットです。崖に十センチ程度しかない足場を、カニのように横歩きで神社に向かいます。足の大きさより狭い(怖)! しかも、かなり足場が削れて下に斜めっているところもあります。しかし、ここがまさに先ほど木多さんが言っていた「ワイヤーを信用してはいけない場所」なのです。

 ここで、まりなポイント。絶対に足を踏み外さないと思うと足に気を取られてしまい逆に踏み外してしまいそうになるので、目の前に見える神社を見据えて歩きましょう。なお、崖を上がりきった時点で、神社まで残り百メートルほどなのですが、気が遠くなるほど遠くに感じました……。

 さあ、やっと神社に到着しました! いよいよお参りです! 頭を下げないとくぐれない小さな鳥居、手で持てるサイズの社ですが、ちゃんとお賽銭箱が設置されています。どうやってお賽銭を回収しているのだろうかと笑っていると、実は木多さんが神主なのだそうです(驚)! 道理でここまでの道案内をしてくれたんですね。私だったら、いくら地元民でも他人のためにこんなに命懸けの道のりを何往復もしたくありません(笑)。

 気を取り直して、小銭を出してお賽銭を入れます。今回、私は思いきって千円を投入しました。お金が必要ですから、いつもの修行をする調子で、貴重品を麓に置いていかないように注意しましょう。

 さて、安心するのはまだ早いです。帰りはまた来た道を戻らなければなりません。帰り道で怖いのは、先ほどのカニ歩きゾーンより、崖を下る方です。下を見ながら降りなければならないので、高所平気症の私でもさすがに足が震えました(笑)。行きは身体を持ち上げる脚の方がつらかったですが、帰りは腕の方がつらくなります。

 見事地面に足が着けば、ここで漸く修行達成です。実に、滝行の十倍以上の時間がかかりました。でも達成感はひとしおです。


 次にご紹介するのは、神社に比べればハードルが低いです。むしろ、滝行よりも初心者向けなのではないでしょうか。まあ、そのように思うのは珍しい方らしいですが(笑)。

 次の会場は岐阜県にあるサーキット場。そう、山や森の中ではありません。ここでの修行は、サーキットカーに縛られて時速三百キロメートルを体感するというものです。

 実は今までも、サーキットカーの助手席に乗ってレースを体験するというイベントは、年一回開催されていました。そこで味わえるスリルが男子高校生といった若者に人気だそうです。しかし、この修行ではそのさらに上を行き、サーキットカーの上に縛られて三百キロメートルを体感します。

 ここでも、スポーツカーを運転する元プロの関さんにお話をうかがいました。

「何度もテストしているので、身体に巻き付ける安全装置だけでも問題ないのですが、一応まりなさんの方でも両手両足でしっかりと車を掴んでおいてくださいね」

 時速三百キロメートルに晒された上に、車も掴んでおけとは、かなり酷なことを言いますよね(笑)。

 さて、まずレーサーと同じような繋ぎの服を着用し、ヘルメットを被ります。このヘルメットは、工事現場で見かけるようなハーフタイプではなく、フルフェイスです。十センチ四方のコンクリートの塊が頭に落ちても壊れないほど丈夫にできているとのことです。服は、レーサーと同じに見えますが、万が一のことを考えてレーサーのものよりもさらに衝撃を吸収できる素材が多く含まれています。

 次に、車に身体を固定していきます。まず、服の背中には切れ込みのようなものがあり、この切れ込みの間に車のベルトをさらに丈夫にしたような紐を通して車に固定します。このとき、かなり身体が圧迫されるので、なるべく食事は控えて用も足しておくことを強くお薦めします(中には、締め付けに耐えきれず戻した人も過去にはいるらしいです)。次に、肩、腰、お尻、二の腕、手首、太もも、ふくらはぎ、足首をそれぞれ車と固定させます。終わった後に締め付けていた箇所が変色するほど縛り付けられていたので、そういうのがダメな人は参加しないようにお願いしますね。なお、一応問題が発生した時用に知らせるためのボタンを右手にぐるぐる巻きにして持たされますので、そのボタンを押して修行を中止にすることも可能です。

 次からいよいよ安全性テストを兼ねた走行が開始します。実は、いきなり三百キロを体感するのではなく、徐々にスピードを上げて、問題ない場合、最大三百キロに到達するというのがこの修行内容になっています。

 まずは時速三十キロからスタート。このくらいなら、私も原付バイクに日頃乗っているのでまったく問題ありません。ここから三十キロずつ上げていきます。なお、速度を上げるタイミングで装着しているイヤホンから報告が来ますので、その点は安心できます。

 次に時速六十キロ。一般道路で出せる最大スピートです。普段車を運転する人なら怖くない速さですが、剥き出しで身体の自由がきかない状態で時速六十キロを体感するのは、車を運転しているときに比べるとちょっとだけ怖かったですね。

 さらに時速九十キロ。じつはこのくらいまでは、実のところ私は全然大丈夫でした。というのも、二人乗りのバイクで高速道路を走ったことがあるからです。あのときも相当ビビりましたけど、あのときと変わらないと思えば少し落ち着くことができました。問題はここからです。

 時速百二十キロ。このくらいまでなら自分で出したことがありますが、ここから先は未知の領域。

 百五十キロ。体感ではもう三百キロ出ているのではないかと思うほど。そのくらい、受ける風が鋭くて痛いです。

 百八十キロ、二百十キロ。この辺りから速さの感覚が麻痺してきて、これ以上スピードが上がってもあまり変わらなくなってきます。二百四十キロ、二百七十キロ。ここまで来ると、イヤホンから「次で三百キロです。続けますか? 続けない場合は十秒以内にボタンを押してください」と質問が来ます。ただ、二百七十キロに到達した人の中ではここでリタイアした人は今までいないそうです。そりゃ、ここまで来たら三百キロを体感したいですよね。

 さあ、いよいよ時速三百キロ。ヘルメットをはじめとした重装備をしているので、直で肌で風を受けることはないのですが、それでもまるで素っ裸で乗っているのではないかというほど風が全身を刺します。ヘルメットで視界が狭まっていることもあり、景色を楽しむ余裕はありません。ただ、必死に車にしがみつくのみです。

 三百キロで運転するのはわずか十秒。そこから、徐々にスピードを落として、三分後に止まります。百キロを切る頃には、まるで歩いているかのようにのろのろと感じられました(笑)。

 すぐに降りようとすると、目眩や立ちくらみが起きるので、車が停車して一分待ってからベルトを外して降ります。三半規管の強さには自信のあった私でも、降りるとフラフラでした(笑)。


 さて、まりなの滝行ブログをご覧の方には、私に負けず劣らずの滝行ファンの方も少なくないと思います。この二つの中で気に入ったものはありましたか? どちらも修行中は地獄のようですが、終わった後の爽快感は滝行に勝るとも劣りません。ぜひ体験してみてくださいね!

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