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第八話

「あーもう私めっちゃ弱いじゃん……。一対一なら絶対チート並みに強いと思ってたのに……。チンピラに絡まれるテンプレ展開かと思ってたら、実はエヴィンさんめっちゃいい人だし……。あーもうテンプレ働けよぅ……」


 エヴィンとの訓練(?)でスキルを使用した時以外は良い所がなかったまどかは落ち込んで管を巻いていた。隣の席にいるおっさんはまどかを心配そうに見て、ただただおろおろしている。


「おい、ウィズ。嬢ちゃんは流石に森に連れていくのは危険じゃねーか?確かにスキルは強力だし、回復を詠唱もなしに使ったのにはびっくりしたけどよ」


「そうだな……。思った以上に酷かった。でもスキルは金級でも通じるんじゃないかってくらいに強力だから、万一に上位種が出るような時の切り札になることと、まどか自身に経験を積ませてやりたいんだよな」


「とはいえ、自分の身を最低限守れるくらいじゃないと足手まといになりかねんぞ?筋は悪くないが、圧倒的に体の動かし方、経験がなさすぎる」


「わかってる。一度、クエストを受けさせて戦いの空気を味わせる。それ以外の時間を訓練してやってくれないかな?」


「構わんが。若い奴らがこんなとこで死んでいくのは見たくもないしな。それに今面倒見てやってる奴がいるからな。一緒に訓練させるので問題ないか?」


「あぁ、是非頼むよ!相変わらず新人の面倒見がいいエヴィンさんが面倒見てるって奴はどんな奴なんだ?今回のクエストにはエヴィンさんの他にもう一人信頼できそうな奴を探してんだよ」


「うるせぇな。お前とエーレも含めて、顔を知っちまったガキ共に死なれると寝覚めがわりーんだよ。今面倒みてる奴はちょっと訳有りで気難しい奴なんだがな。まぁ俺が一緒にいれば問題ないだろう」


「エヴィンさんは本当に面倒見がいいわね。あたし達が新人だったころも色々教えてくれたし」


「そ、そんなんじゃねえよ。騎士として新人冒険者は守る練習に、ちょうど、いいんだよ……」


「照れているでござるな?」


「……魔術師殿はそんなキャラだったのか?」


「そんな固い呼び方じゃなくていいよ、エヴィンさん。魔術師の名前はおっさんだ」


「違うでござるがっ!?」


 またしても一行はがやがやと騒がしくするのであった。


◆◇◆◇◆◇


「それじゃ、ギルド職員の所行ってくる。あと、まどか付いてきてくれ。」


 盾役であるエヴィンの加入、確定ではないが、彼と行動を共にしている冒険者の当てが付いたため、ウィズは正式にクエストを受領することを伝えにいく。そしてまどかには少しでも経験を積ませるため、クエストを受けさせることにする。


「はーい。やっぱあれかな~薬草採取系かなぁ?でてきちゃうか?ゴブリンの王様とか!?」


 特に異論ない、どころかワクワクした口調でウィズに付いていく。そして二人はギルド職員にクエストを受領する事を伝える。期日は翌日から十日間にすることだけ交渉し、前金として大銅貨七十五枚と上位種から剥ぎ取った素材の売却分を受け取る。そして、まどかが受けるクエストを選んだ。


「薬草じゃ……ないんですね……」


「薬草採取はすげー知識と経験がいるクエストだぞ?薬草の種類、自生場所、採取の方法。どれをとっても新人ができることじゃないさ。有用で大量に使う薬草なんかは村によっては育ててるし。ま、とはいえ今回は植物関連には違いない」


「マンドラゴラかぁ。みためちょこちょこしててかわいいよね」


「遠目からみればそう見えなくはないけど……。近くで見ると腰くらいまで高さあるし、全身しならせて腕振ってくるしで、最初の頃は躱せなくて地味に怪我するし、死ぬ時絶叫するし、圧倒的に憎いな」


「想像以上につらい思い出!?」


 クエストだけ受領し、実際に討伐は明日とした二人は、先程は話の流れで確かめれていなかった、まどかのジョブを改めて確認することにする。訓練場に戻り、周囲に誰もいないことを確認すると。


大樹の系譜(スキルツリー)、出せるか?」


 まどかに浮かぶ、はてなマーク。それを見て訝しむウィズ。冒険者が手の内を簡単に見せるなというエーレの警告を忠実に守っているのかと一瞬考えたウィズだが、あきらかに困惑しているようにしか見えなかった。まどかにしたらゲームでのスキルツリーはもちろん知っている。レベルアップ時に貰えるスキルポイントを振ることでスキルが得られるものだ。ただそれを出すというのが理解できない。


「え、えっと、何、それ?」


「ちょっ!?え!?まさか、大樹の恩恵を受けて、ないのか?いや、スキルは使えて……。あぁ!特殊すぎてわかんねぇ!!……いいか、胸に手を当てて、『大樹の系譜』と唱えるんだ」


 そう言って、自分で試すウィズ。すると、胸の辺りからキラキラと一本の木が現れる。全体的な木の大きさに対して、枝が多く、沢山葉っぱ繁っているようだ。


「ステータス来たっ!!義務教育で習うやつ!!『大樹の系譜』……おぅ……」


 するとまどかも同様に胸の辺りからキラキラと光を発し、小さな苗木が現れた。それを見て項垂れるまどか。


「なん……だと……。まったく成長していない!?それであのスキルが使えるのか……。いや、まずは大樹の恩恵を受けていたことがわかっただけでも良しとするか……」


「説明してくださーい。大樹の恩恵と、この木?について」


「大樹の恩恵っては、大樹から恵みを与えられているか、つまり大樹の力を借りれるかどうか。これがないと、身体能力の向上やスキルの使用ができないんだ。だから、中位以上の冒険者はまず大樹の恩恵を得ている。それで、大樹の力がどれだけ成長させているか可視化されたのが、さっきの光の木だ。木?いや、苗木?」


「言い直さなくていいの!!この形とかで能力とかジョブがわかったりするの?」


「まぁ大凡な。木の高さや幹の太さ、枝の数それぞれが各能力を象徴しているし、ジョブによってその傾向が系譜には出やすい。で、だ。問題はまどかの苗木は何もない。つまり、ジョブもなければ成長のしてない」


「チート能力者である私が、最強職でない所かすっぴんだと!?所で、私はすでに冒険者登録をしてたわけだけど、冒険者になるのに大樹の恩恵は必要ないの?」


「ない。大樹の恩恵を受けていない冒険者は実はかなり多いんだ。だけど、せいぜいブロンズまでしかたどり着けない。ただ、俺はそれが冒険者にとって悪いことかと言うとそうじゃないと思ってる。今俺達がやっているクエストは結構街や農村部の人達にとって身近な危険を排除できてたりするんだ。華々しい冒険譚じゃないけどさ、誰かの役に立ってるって思う実感があるから」


「なるほどね~。なんだかわかる気がするな。でもでも最強の素人たる私はジョブを得てさらなる高みを目指すのです!ささ、ジョブを得られる場所まで案内せいっ!」


「はいはい、お嬢様。それでは神殿へと向かいましょう」


 二人は他のメンバーに一言残し、すぐに神殿へと向かう。道中、まどかは適正のあるジョブにしかなれないこと、その適正は神官に見て貰う必要があることを聞く。神殿は大樹を崇める聖樹(ユグドラシル)教と呼ばれる宗教団体が仕切っており、各地に存在することも。宗教団体と言っても誰にでも門徒は開かれており、誰でもジョブに就くことができる。ただし、値段が高くつくこともあるが。


◆◇◆◇◆◇


「うわぁ……、すごいね!私こういう場所写真でしかみたことなかったけど、なんだろ、厳か?な感じがする!」


 教会は町でも領主が住む館を除けば冒険者ギルドと一、二を争う大きい建物だ。門だけでも高さは五メートルはある。一歩門を潜ればさらに天井は高く、日の光が聖堂内を照らしていた。なにより目を引くのは正面の祭壇のさらに奥、大きな樹を模したステンドグラスだ。その光景にまどかは圧倒され感嘆の息をつく。


「今はもう慣れちまったけど、俺も最初に教会に入った時は圧倒されたな。気持ちはわかるが、今はジョブの取得が優先だ。祭壇まで行くぞ」


 まばらに人が椅子に座り、祈りを捧げているのを横目に二人は奥へと進む。祭壇に辿り着くと、白い法衣に身を包んだ女性がにこやかに話しかけてきた。


「ようこそ聖樹教会へ。本日はどのようなご用件でしょうか」


「大樹の導きに感謝を。今日はこちらの者にジョブを授けて頂きたく参りました。まずは適正を見て頂きたく」


「わかりました。それでは私の前までおいで頂き、大樹に祈りを捧げて下さい」


「はいっ!」


 まどかは女性の前に進み、膝をついて、手を組み、目を瞑る。


「ほぅ。あなたは敬虔な信徒なのですね。素晴らしいことです。私達もあなたの祈りに精一杯お答えしましょう。そのまま祈りを捧げて下さい。大樹よ、この者に与える力を示したまえ……」


 女性もまどか同様手を組み、目を瞑って祈りを捧げる。数秒待ち、女性は目を開くと、まどかのジョブ適正を告げる。


「やはりあなたは敬虔な信徒なのですね。大樹があなたの適正を告げられました。戦士、騎士、拳闘士、スカウト、魔術士、回復術士、生産士、全ての基礎職に適正があります。あなたの求めるジョブが決まりましたらまたお声がけ下さい」


「まじか……。まどか、ちょっと外行くぞ」


「え?う、うん。わかったけど……、なんかヤバいの?」


 日本では無宗教だったまどかにとって、敬虔な信徒など想定外の言葉がでてきたし、ウィズの驚きを聞いて不安になるまどかは、ウィズに外へと連れられて行った。


「ヤバい」


「まじ!?」


「冗談だよ。まぁすごいって意味じゃヤバいけどな」


「んん?どういうこと?」


「一般的な適正の数は話したな。大きく分けると四つのパターンで、一つ、前衛の戦士、騎士、拳闘士。二つ、補助・後衛をこなす斥候、魔術師。三つ、適正者がが少ない回復術士。四つ、戦闘はできないが物づくりで大樹の恩恵が得られる生産士。回復術士はかなりレアだ。この街には冒険者は百名くらいはいるだろうが、知っている回復術士は三人だけだ。そんなわけで、全適正どころか回復術士の適正があるだけで引く手数多。余計な厄介ごとに巻き込まれたくなかったら口外しない方がいい」


「おぉ!すごいんだね!召喚者特典テンプレっぽいじゃん!さすがに聖騎士はないか~。実はちょっとだけ期待してたんだけど」


「で、まどははどのジョブを選ぶんだ?」


「う~とねぇ」


ひとしきり悩んだあと、まどはが選んだジョブは……。


「聖騎士目指して、騎士かな!」


「却下だ」


「なぜぇぇえ!?」

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